迫りくる! 薬が効かない"ばい菌"たち【手洗い編】

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みなさんは普段、どれくらい手を洗っていますか?
手を洗うことで、私たちの手のひらでは何か変化が起きているのでしょうか?

手を洗うときにそんなことを意識していないという人が多いかもしれませんが、どうやら、手を洗うという基本的な行為が結構大切で、感染症を予防し世界的に問題となっている薬剤耐性菌を広めないことにもつながるようなのです。
このブログでは、来館者へのアンケートから見えてきたみなさんの手洗い習慣と、科学コミュニケーターが実施した手洗いの効果を調べる検査をご紹介しつつ、AMR臨床リファレンスセンターの松永展明氏より伺った手洗いの重要性についてお伝えします。

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そもそも、みんなはいつ手を洗っているの? 自分の手洗い習慣は人と違うの? 
未来館では、館内のオピニオンバンク(来館者の方から意見を集める展示)にて、皆さんの「手洗い習慣」をきいてみました。2017年12月~2018年3月の間に、約5000名の来館者の皆さんから回答をいただきました。ご協力ありがとうございました!その結果をご紹介します。

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  • みんなはいつ手を洗っている?

20180416_munakata_03.JPG「普段いつ手を洗っていますか」という問いに対して、皆さんの回答の割合を示したのが上のグラフ。
「帰宅後」、「トイレ後」の場面で手を洗う人が多くいるようです。めったに洗わないという人もいるようですが...

  • みんなはどのように手を洗っている?

20180416_munakata_04.JPGトイレ後の手洗いに限って、もう少し詳しく手の洗い方について聞きてみると、約6割の人は「よく洗う」とのこと。そのうち多くの人は石鹸も使ってよく洗っているそうです。一方で、さっと流す派のひとたちも3割ほどいます。

多くの人が良く手を洗いながらも、洗う場面や洗い方にはやや違いがみられました。

  • みんなは手洗いの効果をどう思っている?

20180416_munakata_05.JPG※「ばい菌」とは、ここでは「病気の原因となる微生物やウイルスなど」をさしています

では、手を洗うことの効果を皆さんはどのように考えているのでしょうか。
およそ7割の人が手洗いにばい菌を洗い流せる効果があると回答しています。一方「汚れは落とせてもばい菌は落とせない」「ほとんど気休め」と回答した方が全体の3割でした。手洗いには、ばい菌を落とす効果はほとんどないと感じている人もいるようです。
たしかに、明らかに手に汚れがついているときは別として、手洗いの前後で自分の手を見比べても、あまり変化が感じられません。30%の方々の気持ちもわかるような。

  • 結構すごい 手洗いの効果

では、実際に手洗いの効果とはどれほどなのか。調べて見ると、こんな調査結果がありました。

20180416_munakata_06.jpgなんと、水で15秒洗うだけでウイルスの量は100分の1に!
さらに石鹸できれいにあらうとウイルス量はそのまた100分の1に!
手を洗う、ただそれだけなのに手の上では大きな変化が起きているのですね。

また、手洗いが感染症予防につながるとの調査報告もあります。

20180416_munakata_07.jpgEjemot-Nwadiaro氏らの調査では、2015年までに各国で実施されてきた複数の先行研究を整理した結果から、手洗いを促す活動(大切さを伝える教育活動や石鹸の提供など)を行った託児施設や学校では、そうでないところと比べて、下痢症の発生を30%予防することができたとしています。

手洗いの効果、なかなか侮れません。
しかし、オピニオンバンクに寄せられたみなさんの回答からはこんな気になるデータも。

20180416_munakata_08.JPG「自分の手はそれほど汚れていない!」
これが手を洗わない理由の第3位に(「時間がおしい」「手が荒れる」をおさえて)。
そういえば、改めて自分の手のひらを見てみてもそんなに汚れていないような...
いやいやそんなことはないような...

  • 手洗いの前後で微生物量を測定してみると

ならば、手の上でおこる変化を測定してみたいと、科学コミュニケーター髙橋とともに、ATPふき取り検査を使って、手のひらに付着している微生物の量を手洗いの前後で調べてみました。
これは、生物に由来するATPという生体分子の量を計測する検査で、微生物量の目安として食品衛生などの場で使われている方法です。
*ここでは、キッコーマンバイオケミファ株式会社 ATPふき取り検査(A3法)を使用

検査方法と結果は次のようになりました。

まず、このように自分の手のひらを綿棒でなでます20180416_munakata_09.jpg


そして、装置にいれてRLU(:Relative Light Unitの略、発光量を示す単位)の値を測定します。
この検査では、RLU値が大きいほどATP量が多く、微生物が多いことを示しています。   
自分の手のひらの数値を測ってみると、

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43717 [RLU]  
なんとも大きな数字がでてきました。
どうやら、目には見えないけれども、手には微生物がたっぷりとついているようです。
ちなみに、手のひらの他にドアノブと三角コーナーを測定してみると(髙橋測定)、  

20180416_munakata_11.JPG未来館内のドアノブ(スタッフみんながよくさわる) 3079[RLU] (10か所の平均値)
20180416_munakata_12.JPG三角コーナー  73504[RLU] (8か所の平均値)

つまり、数字で比べてみると、  
ドアノブ < 手のひら < 三角コーナー
このように比べてみると 結構汚れているような。

では、いよいよ手を洗ってみます。
いつもどおり手を洗い、もう一度測定したとき、果たしてRLU値は下がるのか。

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6388[RLU]
さがりました! 数値は85%減少しています。
手洗いの前後で、見た目にはあまり変化がなくとも、どうやら手の上にいる見えない微生物は洗い流されているようです。

ちなみに、髙橋がほかの科学コミュニケーター10名(A~J)を対象に同様の検査をしてみると、
左手の微生物(ATP)の量は手洗い前後でグラフのようになりました。
手を洗うことで、およそ75~92%の微生物を洗い流すことができたようです。

20180416_munakata_14.jpgまた、2月に実施したイベントでは、の来館者とともに同様の検査を実施してみました。

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ご参加いただいたみなさんのうち、およそ30名の結果を調べて見ると、手洗い後の数値は全員減少していました(減少率約44%~97%)。

*注意
・上述した森ら(2006)の調査とは検査方法が異なる
・ATP量を測定する検査であり、出てきた値がそのまま"ばい菌"の数とはならない
  (ウイルスはATPを持っておらず測定できない、「1ATP=1ばい菌」ではない、手の細胞由来のATPも含まれているなど)
・この調査ではふき取る面積をおよそ統一しているが、細かなふき取り方によって値は変わり得る
・本来は食品衛生などの場で使用される検査であり、普段の生活をおくるうえで常に手洗い後の数値をもとめる必要はない

  • 上手な手洗いとは

なんだか手を洗いたくなってきました。改めて、手洗いに意識的になってみると、自分の手には洗うところが結構あることに気が付きます。AMR臨床リファレンスセンターからは、下のような手洗いの見本が提供されています。指先、親指の付け根、普段の手洗いではしっかりと洗えていないところがあるかもしれません。

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  • 洗いすぎてもよくない

ここまで手洗いの効果について話をしておきながら逆のことを言いますが、洗いすぎてしまうのもよくありません。そもそも私たちの手には普段から菌がいて、多くの場合彼らは悪さもしなければ積極的に良いこともしません。ただ、この手のひらにふだんからついている菌たちがいるからこそ、新しい"ばい菌"たちが入り込まないなどの作用もあるため、手のひらの菌を撲滅しようとすることはかえって感染症へのリスクを高める可能性があります。
ただ、だからといって手を洗わなければ、"ばい菌"たちに体内へ侵入するチャンスをより多く与えてしまいます。適度に洗っていくことが大切なのかもしれません。

  • 手洗いで感染症予防は薬剤耐性菌対策に

今年の2月に未来館では、薬剤耐性問題 (AMR (: Antimicrobial resistance の略語) 問題) の分析と情報発信に取り組む「国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター」の専門家チームをお招きして、感染症と耐性菌をどう防ぐのかを考えるイベントを実施しました。

20180416_munakata_18.jpg松永展明氏によるトークイベントでは、薬の効かない"ばい菌"たち(薬剤耐性菌)の出現が世界で大きな問題となっており、このままでは、2050年には世界中で1000万人が死亡するという恐ろしい予測がされているそうです。そして、先生によれば、その対策のひとつとして大切なのが手を洗うこと。抗菌薬の不適正な使用が主な原因となっている薬剤耐性菌への対策として、そもそも私たちが感染症にかからないことがとても重要だというお話でした。
*トークイベントの模様は、MiraikanChannelにて公開されています(各30分)
どう防ぐ? 感染症と耐性菌
生み出すのはあなたかも? 薬が効かない耐性菌

この冬はインフルエンザが猛威を振るいました。これから暑くなってくると、またほかの感染症が流行り始めるかもしれません。手洗いに意識的になりながら、上手に感染症を予防し、そして、薬剤耐性菌の対策にもつなげていきたいところです。


出典
1)森ら (2006) Norovirusの代替指標としてFeline Calicivirusを用いた手洗いによるウイルス除去効果の検討
2)国立医薬品食品衛生研究所資料 (2014) ノロウイルスによる食中毒の現状と対策
3)Ejemot-Nwadiaro RIら (2015) Hand washing promotion for preventing diarrhea(Review)