東北の海を復興せよ!~"海博士"たちと語る一日・その2 「あれからガレキはどうなった?~ガレキとともに生きる深海生物」

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明けましておめでとうございます!科学コミュニケーターの中島です。寒くてお布団が私を離さない!そんな日々が続いております。


さて、先日からスタートした"海博士"たちのトークをお伝えするブログですが、第2弾の今回は「ガレキと深海生物」がテーマ。海洋研究開発機構 技術主幹の土田真二先生に、「あれからガレキはどうなった?~ガレキとともに生きる深海生物」というタイトルでお話していただきました。


※本ブログは2018年11月10日に開催された「東北の海を復興せよ!~"海博士"たちと語る一日」の実施報告で4回シリーズです。東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)*の4人の"海博士"たちに話していただいたトーク内容をご紹介しています。

その1 "東北の海のおいしいヒミツ~豊かな海の源と津波のはなし": http://blog.miraikan.jst.go.jp/201901041-4.html
その2 あれからガレキはどうなった?~ガレキとともに生きる深海生物(この記事)
その3 知ってる?海のパイナップル~海の恵みをいつまでも
その4 海の砂漠化?~ウニの良いトコ、悪いトコ


ガレキ?深海生物?そしてそのつながりとは?そんな疑問を抱きつつ、当日のトークに参加している気分で、土田先生のお話をお読みください!
なお、筆者・中島の感想や当日の会場のようすも括弧書き→( )でお伝えしたいと思います!



それでは、トークイベントスタートです!



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トーク中の土田真二先生


さっそくですが、皆さん。こちらの生き物をご存知でしょうか?
(星柄ではなく生き物!?)

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(画像提供:海洋研究開発機構)

海底一面に広がる星形をした生き物。こちらは「クシノハクモヒトデ」という生き物です。大きさは10cmほどで水深3~3000m付近に生息し、特に東北沖は稀にみるほど多くのクシノハクモヒトデが生活しています。何故そんなにも多いのかというと、東北の海に秘密があるのです。


東北の海は、暖かい黒潮と冷たい親潮がぶつかる混合海域。そのため、栄養が豊富でプランクトンが多く、その恩恵を受けたたくさんの生き物たちが生息しています。それは、海面表層だけではなく、水深200mよりも深い"深海"についても同様です。クモヒトデ以外にも、毛ガニやキチジ(キンキとも呼ばれている高級魚!)、マダラなどが、豊かな生態系の一部として東北の海を支えています。

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豊かな海を支えている生き物の1つであるウミシダ

しかし、そんな豊かな海で、大きな地震が発生、そして津波によって様々なガレキが海へと運ばれました。環境省によると、津波によって流されたガレキは約480万トン。沈没したタイタニック号で例えると、約100隻分にもなり、それは日本で発生するごみの年間の約10分の1にあたります。そして、海に流されたガレキのうち、30%が漂流、70%が海底に沈んだと言われています。
(ガレキは宇宙戦艦ヤマトで例えると約75隻分だそうです。参加していた小学生が宇宙戦艦ヤマトを知っているとわかった時には、会場から歓声が上がりました!)


そこで私たちTEAMSは、津波によって変化した海底の様子について調査を始めました。


◇想像を超える海底地形

実は今回の調査以前には、東北沖の詳細な海底地形図はありませんでした。そのため、まず海底地形図の作成に取り掛かりました。水中では電波がほとんど伝わらないため、船に取り付けられた装置から音波を出すことで、海底の深さや状態、装置によっては海底下の地層まで知ることができます。


詳しく海底を調査した結果、私たち研究者も予想しなかったことが明らかになりました。なんと、岩手県沖に深さが約50~100mの"海底谷"と呼ばれる地形が4~5カ所、そして宮城県沖では、大きな"崖"が見つかったのです。なだらかと考えられていた東北沖の海底は、想像を超える複雑な地形でした。
(100mという海底谷の深さは、未来館を2つ重ねた高さより少し低いぐらい。参加者は上を見上げながらその深さを想像しているようすでした。)

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猫のひっかき傷のようなものが海底谷、
等高線が密になっているところが海底の崖
(画像提供:海洋研究開発機構 土田真二先生)


◇ガレキは海底でどうなっている?

今回作成した詳細な地形図をベースに、次はガレキ分布についての調査に乗り出しました。実際に人が潜水船で海底に行き、調べるということも一つの手ですが、そもそもどのような状態になっているのかが全く分からない状態。当然危険を伴います。そこでまずは事前調査として大まかに、どのくらいガレキが散乱しているかを、「ディープトウカメラ」を用いて調べました。ワイヤーで船の下にカメラを吊し、船に引っ張られるかたちで海底を撮影していくというものです。


調べたところ、平らな海底の場合、直線1km×カメラの視野の幅に対して10個にも満たないようなガレキの数でしたが、海底谷では30~40個ほどが発見されました。明らかに、海底谷には多くのガレキが集まっていたのです。海底谷のような入り組んだ地形は潮の流れが複雑になっているため、それによりガレキが集まったのではないかと考えられています。そして、釜石沖水深550m付近の海底谷では、車のバンパーも見つかりました。下の写真を見ると、マットや籠のような人工物が一か所にかたまっていることが見てとれます。

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一か所にかたまるガレキ
(画像提供:海洋研究開発機構)

さらに、遠隔操作型の無人探査機ロボット「クラムボン」や「ハイパードルフィン」を使った詳細な調査も行いました。


すると驚くことに、戦時中のものと思われる沈没船が発見されました。実はこの場所、漁具が引っ掛かるため調べてほしいと漁師さんたちからの以前からの要望を受けて調べた場所でした。漁の妨げになっていたものが、沈没船だったとは、誰も予想はしなかったでしょう。
そしてその沈没船、そこには新たな世界が広がっていたのです。


◇海で生きる生き物たちにとってのガレキ

船に付着する生き物、悠々と泳ぐマダラたち。そこに広がる光景は、まるで生き物たちの楽園。なんと船を隠れ家のように利用して生きる生き物たちがたくさんいたのです。沈没船は、漁という人間の手が及ばない格好の場所として生き物たちに良い住処を提供していました。
(当日は、マダラが悠々と泳ぐようすを動画で見てもらいました。その泳ぐ様は、時間がゆったりと流れているようにも見えました。)

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沈没船は生き物たちの楽園だった
(画像提供:海洋研究開発機構)

良い住処となっていたのは沈没船だけではなく、津波で流れ出たガレキも同様です。多くの生物がガレキを利用して、たくましく生きていたのです。


冒頭でも触れたクモヒトデは、ガレキ上にも数多く生息していました。海底泥上と比べると、なんと約20倍。1m2あたり130個体近く付着していました。そして様々なガレキの中でも、木片や漁具類などに特に多く集まっていたこともわかりました。付着しやすい素材や形が関係していると考えられます。
(クモヒトデのあまりの多さに、会場は驚いたようすでした!)


津波によって流れ出たガレキ。海で生きる生き物たちにとって、単なるゴミだけではなく、漁から身を守り、そして良い住処を提供する存在になっていたのです。

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(イラスト提供:海洋研究開発機構 土田真二先生)

しかし、もちろんガレキは良い効果ばかりをもたらすものではありません。
例えば、ポリ塩化ビフェニル(PCB)というものをご存知でしょうか。現在日本では製造中止になっていますが、以前は車のバッテリーや家電製品のコンデンサーなどに使われていた有害物質です。家電製品などから有害物質が海水へと漏れ出し、海で生きる生き物たちに取り込まれていくとどうなるでしょうか。生物の食う食われるの関係から、有害物質が体の中に濃縮され、特に大きな魚や寿命が長い生物に蓄積していきます。これを"生物濃縮"と言います。当然、海の生物への影響だけではとどまらず、魚を食べる人間にも影響が出てしまうのです。


地震後、PCB濃度を調査したところ、地震前と比べ、幸いにも数値は高くなっていませんでした。しかし今後、PCBを含む製品の腐食が進み、PCB汚染が進行、染み出す可能性もあるため、今後もモニタリングが必要です。長い目で海の様子を観察していくことが重要ということです。


◇漁業関係者にとってのガレキ

生き物から人間へと視点を変えてみましょう。漁師さんにとってのガレキは、当然邪魔な存在です。漁具を傷つけたり、獲れた魚介類を傷つけて商品価値を低くしたりもします。そこで、宮城県では、漁師さん自らがガレキ回収に取り組みはじめました。そのおかげで2017年までには、約5652トンのガレキが回収されてきました。しかし、年々減ってはいるものの、いつかガレキが0になるということではありません。特に複雑な地形のところでは、いまだに多くのガレキが残っており、潮の流れで新たに流されてくるものもあるのが現状です。


TEAMSは科学の力で漁業復興を目指す団体です。本来そこにあるはずのなかったガレキは回収すべきですが、現実では難しいところもあります。一方で、多くの生物を育み、守る役割も果たしているガレキ。その現状も理解しつつ、ガレキが今後どのようになっていくのか、調査をし続けることが重要です。


土田先生のお話、いかがでしたでしょうか。

陸上のガレキは、震災後大きく取り上げられ注目を集めていましたが、海に流れ出したガレキについて知る機会はあまり多くはありません。今回のトークをきっかけに、海のガレキの現状を知り、そこで生きる生物、そこで働く漁業関係者、そして海の恩恵を多く受ける私たちにとってどのような影響を与えうるのかを考えることの重要性を、私自身強く感じました。


次回から"海博士"たちのトーク後半戦に入っていきますが、テーマは美味しい「アレ」について。是非お楽しみに~!


*東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS*)

東北大学、東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構が中心となって実施している事業。震災直後の2011年度からスタートし2020年度まで続く10年間のプロジェクト。


【関連サイト】
東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)ホームページ
http://www.i-teams.jp/j/index.html

【謝辞】
本記事を執筆するにあたり、海洋研究開発機構の土田真二先生には大変お世話になりました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。