水陸両用!?ワニの心臓はバイパス済みの切替式。

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以前、「あの花」ならぬ「あのワニ」を書かせていただいたぶっちーです。

 

突然ですが、そんな私からみなさんへクーーーイズ!!!

 

このワニは、どこを泳いでいるでしょうか???

(画像をクリックされると別ウィンドウで大きな画像がご覧になれます)

ARKive species - Saltwater crocodile (Crocodylus porosus)

ARKiveより

http://www.arkive.org/

 

 

正解は……

なんとでした!!!

ARKive image - Immature saltwater crocodile swimming above coral reef

珊瑚の上に乗る若いイリエワニ。

http://www.arkive.org/

 

 

えー!ワニって淡水に棲んでいるんじゃないの??と思われたそこのあなた。

 

これは、イリエワニという種類のワニで、漢字では入江鰐、英語ではSaltwater Crocodile(“海水のワニ”の意)と書きます。

 

そう!イリエワニはその類い希なる遊泳能力で、時折、海を渡ることで知られたワニなのです!

 

普段はオーストラリアや東南アジアの淡水域に棲むイリエワニですが、海を渡り、なんと日本の奄美大島や西表島、果ては八丈島で見つかったことさえあります。

 

さて、海を渡るのはイリエワニくらいですが、現生のワニ全25種はみな遊泳能力に長けています。高い遊泳能力を生む体の特徴はいろいろあります。オールのような尾だったり、水かきだったり。

 

 

 

 

しかし!!

 

あえて言おう!その最大の秘密は心臓にあると!!!

 

 

まず「心臓」についておさらいです。

図は人間の心臓ですが、人間含め哺乳類の心臓は、2心房2心室(右心室・右心房・左心室・左心房)からなり、

体中→右心房→右心室→肺→左心房→左心室→体中

という一方向の流れで血液を循環させています。

 

 

wiki人間の心臓

人間の心臓のつくり(Wikipediaより)

(C)Wapcaplet and Yaddah (translated by Hatsukari715) 

 

 

 

心臓から体への流れを体循環といい、体へ血液とともに酸素を送る役割を果たしています。対して、心臓から肺への流れを肺循環といい、体で酸素を消耗した血液に肺で酸素を補給させる役割を担っています。

 

 

 

では、ワニの心臓はどうなっているかと一般的な爬虫類の心臓(2心房1心室)と違って、我々哺乳類や鳥類と同じ2心房2心室の心臓を持っています。

 

と、同時に他の爬虫類と同じように左右両方の右心室と左心室の両方から、体循環へつながる大動脈弓が出ています。

なおかつ、その動脈がパニッツァ孔と呼ばれる部位で、バイパスされているのです!!

 

 

 

ワニ類の心臓のつくり

ワニ心臓onlycolor

 

 

 

 

 

 

このバイパスと左大動脈弓、肺動脈についている弁が開閉することによって、水中と陸上で血液の流れを切り替えることができるのです!!!

ワニ心臓切り替え

 

大渕希郷 著『新ポケット版学研の図鑑  爬虫類・両生類』より改変

赤は酸素に富んだ動脈、青は酸素を使った静脈の流れを表しています。

 

 

つまり、水中では肺呼吸ができないので、無駄な経路である肺循環をバイパスし、体内の血液に残された酸素を効率よく使い切ることができるようになっているのです。

 

そう!

なんと潜っている間は、体循環だけを行っているのです!!!

 

これにより、長時間の潜水が可能となっています。

(別の方法で肺循環をバイパスさせる2心房1心室の心臓をもつオオトカゲなどもいます。)

 

 

すごくないですか????

 

 

当館館長の毛利は、「科学とは、人類が生き延びるための知恵や知識を得るためにある」と申しておりました。

 

三畳紀(およそ2 億5000万年~2億年前)に現れ、恐竜が絶滅した6500万年前の大量絶滅も生き延び、その後の哺乳類が繁栄する現代でもなお「水辺の捕食者」の生態的地位を守り続けているワニたち。

 

彼らのその「生き延びてきた知恵」から学ぶことも多いのではないでしょうか?

 

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この記事への4件のフィードバック

ワニへの愛情あふれるエントリーを、たいへん楽しく拝読しました。

私はヒトの生理学しか知識がないのですが、ヒト心臓弁の開閉は圧較差による受動的なもので、意識的に開閉することはできません。記載では「このバイパス(パニッツァ孔)と左大動脈弓、肺動脈についている弁を開閉する」ことによって循環が切り替わるとのことですが、ワニ心臓弁の開閉はあくまで受動的なものであって、生理的な変化に伴う2心房2心室から(実質上の)単心房単心室への循環切り替えに伴う「結果」なのではないでしょうか。もちろん、ワニが意識的に弁を開閉できるのなら話は違ってくるのですが、私はそのような生物の存在を知りません。

また、肺循環をバイパスすると水中での酸素供給バランスが改善するという理屈がどうしても判りません。ヒトでも、息ごらえや啼泣で肺循環や右心血流が体循環にバイパスされる先天性心疾患がいくつかありますが、それで酸素供給能が改善するわけではありません。肺循環バイパスで酸素供給バランスが改善する機序をもうすこし詳しくご教授いただけないでしょうか。

OJさま

コメントをありがとうございます(^^)

ご質問の件ですが、ワニの心臓弁については、空気呼吸時はパニッツア孔を介した右大動脈弓からの圧力によって左大動脈弓入り口の半月弁が閉じます。問題の潜水時ですが、このときは肺動脈基部が括約筋によって閉じられることにより、左大動脈弓へ動脈血が流れ込む仕組みとなっております。

 OJさんのご質問の主旨は、「肺動脈基部の括約筋が随意筋か不随意筋か?」ということだと思います。これについての学術的記述は見当たらず、不明です。もしかすると、意識的に呼吸を停止すると無意識に括約筋が連動して閉じるのかもしれません(もう少し調べてみます)。

ですので、ご指摘の「弁を開閉することによって」の部分は「弁が開閉することによって」が正確ですね。誤解ある文章で申し訳ありませんでした。表現を変更させていただこうと思います。ご指摘ありがとうございます。

次のご質問ですが、私はヒトでも息堪えで肺循環がバイパスされる疾患があることを知りませんでした!興味深いです!

実は肺循環バイパス能力は、ワニ以外の爬虫類の多くでもみられます(ただし、ワニとは違うバイパス方法です)。そして、潜水時だけでなく、低温で代謝が低いときも、不必要な酸素を取り込む必要がないために肺循環をバイパスしているようです。これによるメリットは酸素供給バランスというよりも、肺呼吸ができない状況下で無駄となる肺循環経路を行わず、体循環によって血中の酸素を使えるだけ使おうという点です。

では、なぜ哺乳類ではそのようなバイパスがないのか?

『爬虫類の進化』(疋田努、2002年)によれば、おそらくヒトを含め恒温動物は高い代謝を続けることによって体温を高く維持するようになったため、多量の酸素を常に供給する必要が生じ、肺循環バイパス能力を失ったのではないかとあります

 憶測ですが、その息堪えの心疾患の場合、ヒトは一回の体循環で使用する酸素量が多いので、肺循環をバイパスしようがすまいが、あまり差がないのではないでしょうか?もしよければ、その心疾患名を教えていただけるとうれしいです。

OJさんのご質問はとてもするどくて感嘆いたしました!今後ともよろしくお願いいたします。

詳細な回答をありがとうございます。とても勉強になりました。ヒト生理の観点からいくつか。

ヒトの心・血管系には、意識的に動かせる随意筋はありません。おそらく、ワニの肺動脈基部にある括約筋も、自律神経支配を受ける不随意筋だと考えられます。もしそうなら、肺動脈基部の括約筋を収縮させる生理変化が先に起こっているはずです。

ヒトの場合、肺胞と気管に酸素を供給する栄養血管は気管支動脈で、これは胸部大動脈から分枝します。したがって、肺の機能血管である肺循環をバイパスしても、気管支動脈の血流はそのまま維持されます。少なくとも、ヒトでは、肺循環をバイパスしても酸素消費量が減少するわけではないのです。ワニでも(おそらく)状況は同じのはずです。

ヒトのチアノーゼ性先天性心疾患のうち、ファロー四徴症(肺動脈狭窄、心室中隔欠損、右心肥大、大動脈騎乗)は啼泣時や息ごらえで右→左シャント(右室→左室)が生じて肺循環がバイパスされます。また、非チアノーゼ疾患である動脈管開存症や心室中隔欠損でも、肺高血圧症(Eisenmenger症候群)が合併すれば、やはり啼泣時や息ごらえで肺循環がバイパスされるようになります。ヒトではこのとき、チアノーゼが増悪して欠神発作などが起こります。

なお、ヒト胎児は胎盤から酸素供給を受けており、気管および肺胞は羊水に覆われていて呼吸をしていませんので、肺循環はバイパスされています。私は、単にこれをガス交換の必要がないからだと考えていたのですが、大淵先生がおっしゃるように酸素消費量を抑制する作用があるのだとすれば、ヒト生理に新しい視点が提供されることになりますね。

OJさま

こちらこそ、いろいろとありがとうございます(^^)

生理学には明るくないので、私こそ勉強になりました。

まず、1点目について、追加で調べましたところ、やはりワニ肺動脈基部の括約筋収縮も、実証はまだされていないものの、息を止めることに起因する自律神経系に支配されているのではないかという説が主流のようです。

次に2点目のご質問は、

「肺循環はあくまでも機能血管系であり、栄養血管系を伴っていないので、それをバイパスしても酸素供給がされなくなるだけで、酸素消費量には影響しないのではないか?」ということだと思いますが、その通りです。ワニの場合は、潜水時には単にガス交換の必要がない(できない)ためにバイパスし、必要箇所だけで体に残った酸素を効率的に消費しきるということです。

私が生理学に疎く、理解が遅くて申し訳ありません。そのせいで誤解があったかと思いますが、バイパスによって酸素消費量が抑制されるのでなく、残酸素を効率よく使えるということです。

さらにOJさんがヒトの先天性心疾患とひもづけて疑問に思っておられるのは、「肺に残った空気を使えなくなるのに、肺循環バイパスにどんな利点があるのか?」ということだと思いますが、するどいご指摘でして、まさにそれが大きなナゾなのです!潜水深度が深くない限り、肺を酸素ボンベとする潜水動物がメジャーなのです。

このことは、学者たちの頭を悩ませてきました。それに対して、90年代にアメリカの学者が爬虫類の系統と生活史を元に出した仮説が、「肺循環をバイパスすることで残酸素を効率よく使っている」という説です。爬虫類の中で、肺循環のオン・オフは潜水するものにしか見られません。もしも、潜水中の肺循環オフ機能が、ヒトと同じように肺に残った空気すら使えなくなるだけのものならば、そんなものは個体にとって不利でしかないので、自然淘汰されてしまうだろうという論理です。

この仮説提唱後、さまざまな実験が行われてきたようです。2012年に至っては、ワニの心臓を外科手術で肺循環バイパスできないようにして生理変化を調べたものもありました。しかしながら、「コレだ!」と思えるような論文を私はまだ知りません。

ですので、この話はあくまでも、ワニの話です。それも仮説段階の話です。

そして、クジラやアザラシ、ペンギンといった潜水を行う恒温動物ではそのようなバイパス機能が見られないことの理由として、恒温動物と変温動物の代謝の違いがよく挙げられます。ヒトの酸素保有量は体重1kgあたり20mlでその酸素消費速度は1分間に体重1kgあたり31mlです。一方、変温動物の爬虫類では、酸素保有量がヒトに近いアカウミガメ(22.2ml)でも酸素消費量が1分間で1.41mlです。ワニの酸素消費速度はなぜか論文によってデータが異なるのですが、消費速度に関してはだいたいウミガメと同じと考えて差し支えないでしょう。さらにワニとヒトでは血中ヘモグロビンの酸素結合能も異なります(ワニの方が高い)から、一概に肺循環オフ機能の意義を恒温・変温動物間で同様に扱うことは難しいのです。

ちなみに潜水する恒温動物では、クジラやアザラシの類は酸素結合能の高い血液を有するにも関わらず(アザラシでは潜水時に肺を酸素ボンベとしてほとんど使っていません)、潜水深度の深いクジラ種に至っては肺が水圧でつぶれるにも関わらず、肺循環オフ機能を持ちません。

(ただ、潜水中のアザラシは中枢神経系以外への血流量を5〜20%程度までカットしているようです)

このように潜水時の生理が恒温・変温動物間でかなり異なります。ですので、今回の話はヒトを含む恒温動物の生理とは切り離して、読んで頂けると幸いです。

今後、研究が進みワニの肺循環オフの生態的意義が仮説から実証までゆくことを私も期待しています。

以上、かなり長文になってしまいましたが、お役に立てていますでしょうか?

追伸:私のことは先生ではなく普通に「さん」あたりで呼んで頂けるとうれしいです(^^)

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