天然酵母を育ててみました。~『天然』ってなんだ?~

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お腹すいたよー!
「天然酵母」のパンを焼くんじゃなかったのかよー!

こんにちは。
未来館発酵部です。


前回までにレーズンから酵母を育てて、その酵母が何者なのか探ってきました。
前回の記事はこちら

今日はその酵母を使って、パンを焼きます!

20140728_shimizu_01.jpg あれ?パンがふた皿......?

「天然酵母」のパンはどうなったのか?


そして「天然」がもつ意味とは?


発酵部レポート(とりあえず)最終回、はじまります!

 

今回のレシピはこちらの本を参考にしました。
「KIBIYAベーカリーの天然酵母パンと焼き菓子」(KIBIYAベーカリー著、マイナビ)

簡単に書くとこんな感じ。

① 酵母が育ったレーズン液を全粒粉(小麦粉の一種)と混ぜて一晩。
② 小麦粉などと①を混ぜ、発酵させて、生地を膨らませる。
③ 成型して、焼く。

うん、一見すると簡単そう。
私だって、パンケーキくらいは焼いたことがありますよ(エッヘン)

そんなわけで早速チャレンジ!

レーズンの酵母だけでは、パンがどのくらい上手く焼けたのか分かりません。そこで比較のために、ふわふわのパンが焼けることが分かっているドライイーストでもパンを焼いてみました。このようなやり方を「対照実験」といいます。

とある休日の朝7時。パン屋さんのごとく朝早くからパンづくりです。
まずは、②の生地づくりから。

20140728_shimizu_02.jpgまだこの辺りでは、両者に違いはありません。

 

志水:さて、1時間半ほど30℃で発酵させるんだな。

 

季節外れのこたつを引っ張り出し、発酵タイムです。一方、早起きが苦手な志水はお昼寝タイム......。

 

......3時間後

 

志水:ハッ!寝過ごした!


 20140728_shimizu_03.jpg

うわ、「ドライイースト」が容器からはみださんばかり!


3時間も放置したのにもかかわらず、「レーズンの酵母」は、ほんの少し膨らんだ程度でしょうか。

この差は、酵母の活動具合から来ています。生地が膨らむのは、酵母が糖分を食べて、二酸化炭素を出すためです。ドライイーストは、より活発に二酸化炭素を出したようです。

この差は焼いたパンにもはっきり表れました。
同じ重さのパン生地を焼いても、ボリュームがこんなに違います。

20140728_shimizu_04.jpg
 
発酵部のみんなに食べてもらったところ、
「レーズンの酵母の方は固くて噛みきれない」「いや、この噛みごたえがいい」と賛否両論でした。

みなさんなら、「天然酵母のパン」と「ドライイーストのパン」、どちらを食べてみたいですか?

2つの違いは食感だけではありません。

思い出してみましょう。

天然酵母をとろうとすると、細菌が増えてしまい、異臭騒ぎを起こしたことがありました。酵母を育てることができても、その酵母が何者なのか調べるのは大変で、いくら火を通すとはいえ本当に食べても安全な種かどうか、保証はありません。そして、生地はなかなか膨らまず、時間がかかってしまいます。

20140728_shimizu_05.jpg
 
一方、ドライイーストは、パンづくりに適した酵母を選び出したものです。自然界にあった酵母から適したものを選び出し、さらに長い時間をかけてより良い株を残してきました。安全であることが確認されていて、発酵させる力が強く、毎回同じように膨らませることができます。

私たちは「天然」にあるものを選抜することで、役に立つものを利用してきました。例えば、野菜はもともと野原に生えていた植物です。その中で食べられる植物を選び出し、栽培するなかで、より大きな実、大きな根、大きな葉を残す野菜を残していったのでしょう。その過程では、植物の毒にあたってしまったこともあったでしょう。

酵母も同じような歴史をたどっています。だとすると、「ドライイースト」と「天然酵母」を別物として扱うべきではないのかもしれません(「天然」の対義語は「人工」ですが、「ドライイースト」は育てた酵母を乾燥させたもので、「人工」ではありません)。だからこそ、「天然酵母」という言葉に違和感を覚える方が少なくないのでしょう。

私個人としては、「天然酵母」という言葉は、ドライイーストが「人工」であるかのような印象をうけるので、好ましくないと思っています。「レーズンからとった酵母」「りんごからとった酵母」などといえば分かりやすいと思うのですが......。


それでも「天然酵母」という言葉を使い続けたのは、「『酵母』ではなく『天然酵母』に関心をお持ちの方にこそ、微生物の豊かな世界を感じていただきたい」と思ったからです。

近年「天然酵母」のパンは色々なところで見られるようになりました。「天然酵母」という言葉の響きが自然志向にマッチした、とも考えられます。また、味や風味が微妙に変わることも影響しているでしょう。酵母を育てる液の成分や、酵母・微生物が作り出した物質は、パンの風味を左右します。

酵母を含む微生物の中には、美味しいパンをつくれるものもあれば、ヒトの健康に害をおよぼすものもあります。毎回酵母をとってくることは「楽しみ」でもあり「リスク」でもあります。「天然」から役に立つものを選び出す、という古くから続く営みを、私たちは身近なところで再び行っているようです。


 

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この記事への7件のフィードバック

 こんにちは。お邪魔いたします。 
  
 自分でも「天然酵母」については記事を書きました。http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/20110104/1294068694
 この記事の基本的な論旨については理解しているつもりです。
   
 ですが二点気になる部分がありました。
    
 まず一つ目はこの実験では「初心者が焼いた天然酵母パンはそれほど上手くいかなかった」という結果が出ているだけではないかという点です。
 勿論、選抜培養酵母が優れた資材で「初心者」であっても比較的に上手く焼け、安全性についても問題がないという部分に異論は有りません。
          
 ですが一方野生酵母種(天然酵母)であっても経験を積めば問題なく焼ける筈です。世界最高水準とされるフランス・パリの「天然酵母」パンや日本やアメリカなどで作られる専門店の「天然酵母」パンは充分に美味しいといえるでしょう。「固くて噛みきれない」という事は一般には少ないと思います。
    
 この実験ではレシピ通りで選抜培養酵母だと上手く焼けたというのは大切な部分ですが「天然酵母」でも工夫して使いこなせればうまく焼けるかもしれません。うまく膨らんでいる「天然酵母」パンは少なくはないでしょう。 
      
 「対照実験」という手法は理解しますが結果の取り扱いは簡単ではないと思います。「ふっくらとしたパンは焼けない」のか「今回ふっくらとしたパンは焼けなかった」かは重要な違いに思えます。
 「天然酵母のパンは難しい」という事なら理解できますが「天然酵母ではまともなパンは焼けない」と読める書き方だと感じました。 
          
 もう一点は「いくら火を通すとはいえ本当に食べても安全な種かどうか、保証はありません。」という部分です。
     
 自分の記事を書く際に調べてみたのですが、現在も世界中の一般家庭や事業者で「天然酵母」のパンは作られていますが見た目や匂い、味でわかる失敗作ではない「天然酵母」のパンの発酵段階での微生物汚染で焼成後に実害、または健康リスクが生じたという資料を見つける事が出来ませんでした。
 何らかの具体的な根拠に基づくリスク喚起なのでしょうか。
   
 「科学の面白さを伝え」るのは大変難しいと思いますが応援しています。

 もう一つ、つまらない部分ですが「天然」の対義語は「人工」とされていてそれは勿論妥当ですが(他にも人造・合成もある)「天然魚」に対応するのは「養殖魚」で「天然茸」に対応するのは「栽培茸」でもあるはずです。
      
 「天然酵母」を過大評価する人に微生物の豊かな世界を伝えるのならそちらからの説明も可能だと考えます。その意味で「選抜」「培養」酵母という言葉を使っています。

ついに、パンが焼けたんですね!
おめでとうございます。
読んでいて楽しかったです。
レーズンから酵母をとるのは簡単かなぁと思ったのですが、比較したり、特定したり、まわりの人の感想を聞いたり、科学的な探求は大変ですね。


朝早くからパン作りお疲れ様です。

素朴な疑問なのですが、レーズンから取れた天然酵母に対し、ドライイーストを対照として選んだのは何故なんでしょうか⁇
対照実験としているので、レシピは同一としたと思うのですが、ドライイーストは文字通り乾燥しているものなので、今回のウェットなものと同じ重量で加えると、ドライイーストの方が膨らむのは当たり前の結果なのかなーと思いました。
それとも、イーストの添加量は調整なされたのでしょうか?

などとコメントしておきながら、自分がパンを焼く時は専らホームベーカリーです(^_^;)なんだかすみません。

理科部生物班の皆さま

初めから記事をご覧いただき、ありがとうございます。

皆さんも微生物をとってみましたか?

とること自体はそんなに難しいことではないはずです。しかし、再び同じようにとれるようにするのが難しいのです。そのために、実験条件を記録したり、一回とれた微生物が何であるのか特定したりするわけです。

科学に携わる人は、「他の人が同じ実験をやっても、同じ結果がでるように」心掛けています。そのために記録や同定が必要になります。私が今回のブログでやったことは、研究者の方から見ればごくごく簡単なことしかやっていません。

皆さんも実験をなさるときに、「どんな点を記録しておけば、もう一度実験をやったときにに同じ結果を出せるかなあ」と考えながらやると、いい実験ができると思いますよ。

摂津国人さま

的を射たコメントをいただき、ありがとうございます。大変参考になるとともに、お伝えすることの難しさを感じております。

ご指摘いただいた3点につきまして、それぞれ私なりの考えをお伝えします。

①天然酵母パンとドライイーストのパンが正しい比較になっていないのではないか、という点につきまして。

おっしゃる通り、「今回はふっくらとしたパンが焼けなかった」というのが伝えるべき事柄です。レーズンからとった酵母でちゃんとした(それも商品となるようなおいしい)パンを焼く方も多くいらっしゃいます。

「天然酵母」は慣れないと少し難しいかもしれませんが、ドライイーストは初心者でも安定して使える、ということは強調しなければならなかったかもしれません。

今回のレーズンからとった酵母では、温度管理が上手くいかなかったことが原因の一つと考えられます。レーズンからとったシゾサッカロマイセス・ポンべは、37℃以上では生育できません。温度計を置いていたとはいえ、文中にもある通り寝過ごした間に、高温になってしまったかもしれません。ドライイーストに比べ温度変化に弱いともいえます。

②天然酵母の安全性につきまして。

天然酵母を加熱せずに摂取する方法(ドリンクやドレッシング)があるというお話を伺った際に、違和感を感じたことがきっかけです。

どのような微生物が分からない状態で、加熱もせずに、摂取しても大丈夫だろうか、という思いが私にはありました(実は、未来館発酵部を発足させるときに、「発酵させた後に加熱する食品」を最初に作ったのはこういう経緯もございます)。加熱をしない発酵食品には、ヨーグルトや納豆などがあります。多くの場合、予め同定されている細菌を使用していますし、わらから作る納豆にしても、同じ製法で安全につくれることを長年の経験で確認しています。

おっしゃる通り、加熱した状態ではおそらく食中毒などの例はないかと思われます。パンを作られる方に対して不安を煽るような書き方になってしまったかもしれません。

③「天然」の対義語につきまして
「選抜」や「培養」という言葉は、「果実などから使うたびにとる」という内容と対をなしていて、よく実態を表していますね。その発想はありませんでした。ご存じのように、微生物を利用していく段階では「選抜」や「培養」が重要な役割を果たしています。今後、微生物利用の記事を書く機会がございましたら、ぜひその部分もお伝えできればと思っております。

今後とも、「こういう書き方の方がよいのではないか」などご意見がございましたら、コメントをお寄せいただけますと幸いです。

ぶっちーのつま さま

ご質問をいただき、ありがとうございます。

ドライイーストは上手くいくことが分かっている酵母として使いました。ご存じかもしれませんが、「実験全体が上手くいっていることを確認するために、上手くいくことがあらかじめ分かっているものを使うこと」を「ポジティブコントロール」といいます。

ドライイーストの量は、イーストについていたパンのレシピを参考にしています。生地に対するイーストの量がレシピと同じになるようにしています。

レーズンからとった酵母では、単位重量あたり何個体の酵母がいるかは測定しておりません。そのため、今回の対照実験では、レーズンからの酵母とドライイーストで個体数の差が出てしまうのは止むをえないことでした。膨らみ具合を正確に比較するのはできないでしょう。ですが、初心者の私でも扱いやすいドライイーストと、扱いが難しい天然酵母の差はでるかな、と思い、ドライイーストを使いました。

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