スーパー細菌がやってくる!? 薬剤耐性菌を生み出さないために

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皆さん、はじめまして。
ブログ初登場の科学コミュニケーター、山本です。
生物学がもともとの専門ですが、他にもこっそりと隠し持っている引き出しを少しずつ開放していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。



0.今回のトピック

病原菌に感染し、自前の免疫機能では身を守りきれないとき、僕たちは抗菌薬(いわゆる抗生物質)のお世話になります。

しかし、この抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」が次々に見つかり、世界に広がりつつあります。このままでは、手術を受けたり、ケガをしてしまったり、細菌性の感染症にかかってしまったりした際に、病原菌から身体を守る手段が限られてしまう、そんな未来が待っています。

そんな未来を防ぐには、たくさんの課題がありますが、僕たち一人ひとりができることもあります。

今回のブログでは、そのお話をさせていただきたいと思います。



1.抗菌薬(抗生物質)って、何でしょう

僕らの身体には、病気から身を守る仕組みが備わっています。

ですが、時には病原体に負けてしまうことがあります。そうなると大変です。僕らの身体は、ひとたび天下を取ってしまった病原体にとっては、パラダイスのようなものです。

厄介な病原体に勝てず、助からない人が多い時代が、長く続きました。小さな子どもや高齢の方、出産を終えたばかりの女性が犠牲になることが多かったのです。そんなに遠い昔のことではありません。今の80代や90代の方々が小さな子どもだったころは、まだそんな時代でした。

そんな状況を変えたのが、抗菌薬(抗生物質)の発見です。

抗生物質は、細胞の増殖を抑制したり、殺したりできる物質で、その中でも細菌に効くものを抗菌薬といいます(一般的には、抗生物質といえば抗菌薬の意味で使うことが多いです)。これを活用することで、大ケガや手術を受けた人を感染症から守ったり、梅毒や結核などの厄介な感染症を治療したりすることができるようになりました。

今では、抗菌薬(抗生物質)は僕たちの医療を支える不可欠なツールになっています。


2.万能薬ではありません

抗生物質は、強力なツールですが、どんな感染症にでも効く万能薬ではない、ということには注意が必要です。

まず、抗菌薬は、細菌に効果のある物質ですが、ウイルスには効果がありません。ウイルスは、細胞壁がなかったり、自力でタンパク質を作らなかったりするので、細胞壁を攻撃したり、タンパク質の合成を邪魔したりする抗菌薬はウイルスには効かないのです(ウイルスに効く抗ウイルス薬や、真菌に効く抗真菌薬もあります)。20161223_yamamoto_01.jpg

また、抗菌薬の中にもさまざまな種類があり、効く細菌と効かない細菌があります。たとえば緑膿菌は、細胞壁の穴が小さいため、一部の抗菌薬が中まで届きにくいという性質を持っています。

攻撃したい相手にあわせて、適切な抗菌薬(抗生物質)を選んでいく必要があります。


3.耐性菌あらわる

抗菌薬は、僕たちを細菌による多くの感染症から救ってくれました。そんな大事な抗菌薬なのですが、今までは効いていた菌の中から、効かなくなっている菌が見つかっています。

「薬剤耐性菌」の出現です。

細菌は、抗菌薬を壊したり、体の外にポンプで捨てたり、抗菌薬の攻撃対象となる標的物質の形を変えたりと、あの手この手で逃れようとします。20161223_yamamoto_02.jpg

抗菌薬が効かないのでは、医療に支障をきたしますから、次々に新しい抗菌薬を作り出す努力が進められてきました。ですが、新しい薬の開発に数十年の時間がかかる一方で、耐性菌が出現するまでに1年しかかからないこともあります。

耐性菌に新しい抗菌薬で対抗していくのは、分の悪い勝負になってきています。

加えて、抗菌薬の研究開発は、製薬会社にとって採算を取りにくいこともあって、新しく開発される抗菌薬の数は、だんだんと減ってきています。

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さらに恐ろしいことに、抗菌薬に対抗する遺伝子の情報が、別の種類の菌に受け継がれることがあります。その結果、まだ抗菌薬を使われたことがない菌からも、耐性菌が現れることがあります。

これから先も抗菌薬を使っていくためには、出現した耐性菌に対策をしていくよりも、まず耐性菌を生み出さないことが大切なんです。


4.耐性菌を生み出す仕組み

同じ種類の細菌のなかにも"個性"のようなものがあって、ある抗菌薬がよく効く菌もいれば、あまり効かい菌もいる、ということがあります。

抗菌薬を飲み始めたときには、まずはその薬に弱い菌から死んでいきます。強い菌は最後まで残ります。もし、抗菌薬を途中で飲むのを止めたりすると、生き残っているのは薬に強い菌ばかり、ということが起こったりします。すると、生き残った菌が残った資源と環境を独り占めして、わっ、と増えます。

抗菌薬を使うことで、耐性菌だけを選んで増やしてしまうことがある、ということです。

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ですから、「効きにくい菌」であるうちに、しっかり薬で殺してやることが、「効かない菌」を生み出さないためには大切です。

とはいっても、どんなにがんばっても世界中の病原菌を殺すことはできないので、抗菌薬は極力使わず、いざというときに備えて温存しておくことがコツかもしれません。


5.耐性菌を生み出さないためにできること

耐性菌の出現は、国際的な心配事として、国際会議や国連でも取り上げられるようになっています。日本でも、「薬剤耐性対策推進国民啓発会議」を発足させて耐性菌についての理解を広めるなど、国全体での取り組みが始まっています。

もちろん、僕たち一人ひとりにできることもあります。

その1:まずは病気を予防する
そもそも病気にならずにすめば、抗菌薬(抗生物質)を使う回数を減らすことができます。病気になったら病院にいけば良い、と油断せず、マメに手洗いしたり、十分に栄養や睡眠をとったりして、できるだけ病気を予防しましょう。

その2:処方を疑問に思ったら相談する
冬に流行するインフルエンザのような、ウイルスによる感染症の場合、抗菌薬は効きません。抗菌薬を処方されたら、本当に必要か、医師や薬剤師に確認してみてください。よく確認した上で、もし必要ないと判断できたら、処方しないで済ませられないか相談してみてください。

その3:飲み始めたら飲みきる
これが一番、大事かも知れません。抗菌薬(抗生物質)をいったん飲み始めたら、「もう治った」と自己判断で抗菌薬(抗生物質)を飲むのをやめたり、薬の取り置きをしたりしないようにしましょう。抗菌薬(抗生物質)が効きにくい菌だけが生き残って、一気に身体の中で増えてしまう危険性があります。きちんと最後まで飲みきることが大切です。もし副作用などで身体に合わないと感じたときも、できるだけ専門家と相談をしたほうが良いでしょう。


6.リスクを踏まえてクスリを使うことが大切

抗菌薬(抗生物質)は、僕たちの健康を支える不可欠なツールになっています。ですが、上手に使っていかないと、いつか効果のないものになってしまうかもしれません。耐性菌出現のリスクを知った上で、抗菌薬(抗生物質)を上手に使っていくことが、子どもたちの明るい未来、僕たちの安心な老後につながっていくと思います。

まずは、一人でできることから、始めていきましょう。

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