すばる望遠鏡 大きな鏡を支える細やかな技術

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みなさま、こんにちは! 科学コミュニケーターの清水です。
いきなりですが、この写真が何かわかりますか?わかった方は、かなりの機械マニア、もしくはすばる望遠鏡マニアですね!

すばる望遠鏡.jpgすばる望遠鏡(提供:国立天文台)


これは、ハワイ島のマウナケア山頂にある、すばる望遠鏡の写真です。その中でも、すばる望遠鏡が遠い遠い宇宙を見るための大きな一枚鏡、主鏡を写したものです。また、タイミングとしては主鏡の掃除(アルミ蒸着)をしている時のもので、主鏡を斜め上から見た状態です。普段は側面が青いカバーで覆われていますが、この時はそのカバーを外しているので、主鏡の下の機械部分も見えています。

そう、すでに森脇志野がブログを書いていますが、昨年12月に科学コミュニケーター3人で、すばる望遠鏡を見学してきました!
2人のブログから時間が開いてしまいましたが、今回はその主鏡を支える技術をご紹介いたします!




あらためて写真を見ていただくと、主鏡の下に黒い筒のようなものがたくさんあるのがわかりますか?
これは、アクチュエータというものです。アクチュエータとは、外から受けるエネルギーを、機械的な動きへと変換する機器を指します。すばる望遠鏡の主鏡は全部で261本のアクチュエータによって支えらえています。しかも、このアクチュエータ、ただなんとなく支えているわけではなく、常に少しずつ駆動して、支える力を変えています。


なぜ常に変わっているのでしょうか?

望遠鏡は、目的の天体に向けて方向を変えますが、目指す天体を視野内に捉えた後も、そこでじっとしているわけではありません。少しずつ移動する天体に合わせて、望遠鏡もちょっとずつ向きや角度を変えていきます。その際に、形状に歪みが生じてしまいます。そのわずかな歪みを直すために、アクチュエータたちは少しずつ力を変えているのです!


なぜ歪みは生じてしまうのでしょう?

厚紙や鉄板などを思い浮かべてください。両端をもつと、自重でたわんでしまいますよね。これが歪みの一因です。薄い板ではなく、厚みを増すことで、この歪みはある程度は軽減できます。すばる望遠鏡が登場する前の望遠鏡では、主鏡の厚みを厚くすることで、歪みを抑える方法が主流でした。しかし、その方法で歪みを抑えるには、直径の1/8以上の厚さが必要である、と言われています。


これをすばる望遠鏡に適用した場合、どうなるのでしょうか?

すばる望遠鏡の主鏡の直径(口径)は8.2mあるので、厚みとしては少なくとも1m必要になり、その重さはなんと150トンにもなってしまいます!さらに、それを動かす機械部分は1000トン、望遠鏡全体では2000トンにもなってしまいます。


これほど重い鏡や制御装置を作り、標高4200mのマウナケア山頂まで運び、設置して制御して・・・あまり現実的ではありませんでした。

そのためすばる望遠鏡の場合は、主鏡の厚みを薄くすることになりました!直径8.2mに対して、厚さは20cmです。それでも、重さは23トンもあります。




さて、主鏡を厚くする目的は「歪みを抑えるため」でしたが、その厚みを薄くしたわけですから、当然自重による歪みが生じます。厚くすると重くて動かせなくなり、薄くすると歪んでしまう。困ったものです。困ったものですが、別の方法で歪みを抑えることができれば、まだ薄い方が望遠鏡として稼働できる可能性があります。


そこで採用されたのが、アクチュエータを用いた方法なのです!
261本というたくさんのアクチュエータで支え、それぞれが主鏡にかける力を微妙に調節することで、主鏡の歪みを抑えているのです。

このアクチュエータの活躍により、主鏡の形状は、なんと理想的な形からの誤差が100nm以下に抑えられているのです!(nm(ナノメートル)はmm(ミリメートル)の100万分の1)

ピンときませんか?
もし主鏡が地球と同じ大きさ(直径12742km)だとした場合、歪みの大きさは20cmにも満たないほどです。
とても精確ですね!



どうやってその精確さを保っているのでしょうか?見ていきましょう。
まず、微妙な歪みの調整をするためには、各アクチュエータにかかっている力を精密に測定しなければなりません。この力を測定しているのが、音叉(おんさ)式高精度力センサです!

みなさん、音叉はご存知でしょうか?ピアノやギターの音を調整(調律)するときに使う、アレです。よく、学校の音楽室とかに置いてありますね。実は未来館にもあります。

音叉.jpg

音叉です(清水撮影)

音叉の特徴は、U字型の部分を叩くことで、決まった周波数の音を安定して発してくれる、つまり同じ音をずっと出してくれることです。この「精確で安定している」という特徴(振動特性)をさらに引き出しやすくするために、二つの音叉を上下に組み合わせたものを、音叉振動子と呼びます。

音叉振動子?.jpg

音叉振動子(二つの音叉を上下に組み合わせたもの)のイメージ
(清水撮影)



音叉振動子に電圧を加えると、一定の周波数で振動させることができます。その状態のときに力が加わると、音叉振動子が引っ張られ、振動している周波数が変化します。この周波数の変化をコンピュータで読み取ることで、加わった力がどれくらいの大きさなのか、精密に測定できるのです。

音叉原理(縮小).jpg

音叉式高精度力センサ(提供:新光電子株式会社)


これが、音叉式高精度力センサの原理です。非常に精度高く測定できるにもかかわらず、構造はとてもシンプルです。力を加えていないときの周波数が形状と材質だけで決まる、というシンプルな構造であり、そのため温度変化に強く、また、長期間使用してもメンテナンス不要のまま精確に測定できる、という特徴があります。


すばる望遠鏡に使用されている音叉式高精度力センサは、すばる用に新たに開発されたもので、すべてのアクチュエータに格納されています。それまでの音叉式高精度力センサは数kgの計測用でしたが、すばるのアクチュエータには一本当たり90kgの荷重がかかるため、センサとしては150kgまで測定可能なものが求められました。メーカーの大変な努力の末に完成したセンサは、要求通り150kgの荷重まで測定可能でありながら、1g程度のわずかな変化も捉えることができます。やや大柄な体格(75kg)の人、2人分の重さが測定可能でありながら、そこに1円玉を追加したかどうかの違いまでわかるということです!



それだけ精確な測定ができるからこそ、各アクチュエータにかかっているわずかな力の差も見ることができるのです!
そして、そのわずかな力を調整することにより、主鏡の形状の歪みをとても小さくできるのですね。


アクチュエータにかかる力を精確に測定することが、歪みの調整につながっていることを見ていただきました。
ではそもそも、どうやって「歪んでいる」と判断しているのでしょうか?もう少し見ていきましょう。


理想的な形の主鏡がある方向を向いたとき、各アクチュエータにはどれくらいの力がかかるものなのか?実はこれ、あらかじめ計算で求めることができます。なので、その計算通りに力がかかるよう調整にすれば、理想的な形状になるはず!・・・しかし、そうはいかないのです。その日の気温によるほんのわずかな膨張や、副鏡との組み合わせなどによって、さらなる若干の調整が必要になってきます。
この調整に使われるのが、シャックハルトマン型鏡面測定装置です。なんだかカッコイイ名前ですね!


この測定装置、大きく「マイクロレンズアレイ」部分と「センサ」部分に分けられます。マイクロレンズアレイとは、一つの板の上に微小なレンズをたくさん並べたものです。すばるの測定装置に使用されているマイクロレンズアレイの場合、小さな板の上に虫眼鏡がたくさん並んでいるイメージです。虫眼鏡というと、小さいものを拡大して見るのによく使いますが、みなさんは子どものころ、虫眼鏡を使って光を集めたことはないでしょうか?光を集めた点はとても明るくなり、黒い紙の上に光を集めたりすると、紙が燃えてしまうので要注意でしたね!同じように、マイクロレンズアレイの各レンズたちは光を集めるため、その先には虫眼鏡を使ったときと同じような光の点が、たくさんできるのです。


この光の点がたくさんできるところに、センサ部分があります。センサ部分は約200個の部屋に分かれていて、その小さな部屋が碁盤の目の形に並んでいます。その各部屋に小さな光の点が均等に映し出されれば、まっすぐな光が入ってきたことになります。

シャックハルトマンの原理.jpg

シャックハルトマン型鏡面測定装置の原理


これがシャックハルトマン型鏡面測定装置の原理です。すばる望遠鏡では、星の光が主鏡に反射して、副鏡にも反射した後、観測装置の手前で光が二方向に分割されます。片方はそのまま観測装置に入り、もう片方は、このシャックハルトマン型鏡面測定装置がある方向へと向かいます。そしてこの鏡面測定装置を使って、主鏡の歪みを検出しています。

シャックハルトマンの位置関係.jpg

主鏡とシャックハルトマン型鏡面測定装置の位置関係


主鏡に歪みがなく理想的な形のときは、センサ部分の各部屋に小さな光の点が均等に映し出されます。主鏡に歪みがあると、光の点ができない部屋、光の点が複数ある部屋が出てきてしまいます。その「異常」な部屋の場所を基に主鏡の歪みの位置を特定し、歪みを直すようにアクチュエータに指示を出しているのです。

歪みの判定.jpg

どういう時に主鏡が「歪んでいる」と判断されるか


そして、この調整は1秒に1回実施されているのです!もちろん自動です!261本の腕たちがそれだけ頻繁に調整してくれていることによって、主鏡の形は常に理想的な状態に保たれています。




いかがでしたか?
今回ご紹介したのは、すばる望遠鏡を支える様々な技術の中の、ほんの一部です。他にも駆動方式だったり、主鏡の製作だったり、ドームの形状だったり、すばる望遠鏡のために開発された技術も多くあります!これまでにすばる望遠鏡はたくさんの成果を出してきましたが、その背景にはこれらの技術たち、そしてその開発をした技術者の方々の存在がありました。
また、すばる望遠鏡で遠くの宇宙を見るのは研究者の方々ですが、それが見えるように日々調整・メンテナンスをしている技術スタッフ・エンジニアの方々がいらっしゃいます。私も前職では監視制御システムの設計という仕事をしており、こういったエンジニアの方々には日々お世話になりっぱなしだったので、今でも頭が上がりません。

私のことはさて置き、すばる望遠鏡のような大きな科学技術の裏には、たくさんのすばらしい技術が詰まっていること、そしてその開発者やエンジニアがいることを、少しでも感じていただけたらと思います。


その上で、すばる望遠鏡はこれから先も私たちに、どんな世界を見せてくれるのか。
今後も期待しましょう!





【謝辞】
最後になりましたが、本記事を執筆するにあたり、大変多くの方にお世話になりました。すばる望遠鏡ハワイ観測所にてツアーをしてくださった村井理江子様、技術的情報および資料をご提供・ご確認いただいたエンジニアの佐藤立博様、そしてすばる望遠鏡現地スタッフのみなさま、また、音叉式高精度力センサの資料をご提供・内容をご確認いただいた新光電子株式会社の豊崎悟様ならびに技術スタッフのみなさまに、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。


【関連リンク】
国立天文台 すばる望遠鏡HP
すばるを支える最新技術
https://www.subarutelescope.org/Introduction/j_tech.html

新光電子株式会社HP
http://www.vibra.co.jp/