ノーベル賞の“3人目”

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帰宅したら、「樹状細胞の発見」で受賞したラルフ・スタインマン博士は9月30日に膵臓がんで他界されていた、というニュースが流れていました。ご所属されていたロックフェラー大学の発表です。ノーベル賞の受賞者は故人でないことが条件の1つとされていますが、今回は間際ですから仕方がなかったのでしょう。享年68歳。まだまだ、という年齢です。残念ですね。ご冥福をお祈り申し上げます。

さて、今回の3人の受賞者のうち、ホフマン博士とボイトラー博士は自然免疫の仕組みの発見、スタインマン博士は獲得免疫における樹状細胞の役割の発見です。ひとくくりに「免疫反応」といってしまっても良いのですが、この2つはやはり違うテーマです。

ニョッキ小林は原稿を書きながら、「なんで自然免疫で3人受賞にしなかったのだろう」とつぶやいておりました。そうすれば審良先生も受賞しただろうに……というのがその心です。

なぜ2つのテーマにしたのかはわかりませんが、詫摩は前の記事で「審良先生が取らなくて悔しい」と書き散らしました。悔しいという思いは今も変わりませんが、2人としたときにホフマン博士、ボイトラー博士が選ばれたことには、納得できる部分があります。

前の速報記事にも書きましたが、慶應医学賞はホフマン博士と審良先生が受賞されています(まぁ、この賞は2人の受賞者が別々のテーマで選ばれることが多いです)。

自然免疫がテーマであれば、ホフマン博士は外せない。これは誰もが納得できることだろうと思います。というのは、科学の世界では「初めて」発見・開発・解明した人が最も尊敬されます。自然免疫のメカニズム的(現象論的ではなく)な解明の場合、その「初めて」の人はホフマン博士です。

ただし、ホフマン博士の研究の場合、対象がショウジョウバエでした。ショウジョウバエのTollという受容体が自然免疫の要であることを見つけたのです。1996年のことでした。

Tollはヒトにもあるのか? あるとしたらどの程度の役割なのか──これが次の関心事です。ハエよりもヒトのことを知りたい!とは誰もが思うわけです。ヒトでのメカニズムがわかれば、治療にも発展していきそうです。熾烈な研究競争の始まりです。

ボイトラー博士はマウスでTollを発見し、その役割を解明した方です。ホフマンの翌年、1997年です。審良先生の論文は1998年ですから1年先を越されてしまいました。

審良先生がすごかったのはその後の追い上げです。自然免疫の重要な部分のほとんどを審良先生のチームが解明しています。審良先生の論文は引用件数が最も多い論文として知られています。医学・薬学の基礎となる知識ですから当然と言えば当然です。ボイトラー博士ではなく「ホフマン博士と審良先生」という組み合わせを選んだ慶應医学賞はこのあたりを重視したのでしょう。

ただ、「初めて」というのはやはり大事です。「哺乳類で初めて」というのも非常に価値があります。というのも、「ショウジョウバエにあった」というのと「哺乳類にあった」というのは決定的に違うからです。

ショウジョウバエとヒトとでは身体の設計プランが根本的に違います。上手くいえませんが、設計の“哲学”が違うとさえ思います。なので、ショウジョウバエにあるからといって、哺乳類にあるとは限りません。たとえば、ウジ虫から変態するなどという芸当は哺乳類にはできません。

「ある」「できる」とわかっていて探したり、挑んだりするのと、「あるのかどうかさえわからない」「できないかもしれない」といった状態から手探りで研究を始めるのとでは自ずから違います。

なので、「ホフマン博士と審良先生」という慶應医学賞の選び方も、「ホフマン先生とボイトラー博士」という今回のノーベル賞の選び方も、どちらも「あり」だと思います。……悔しいことには変わりありませんが。

もちろん、審良先生は、ボイトラー博士の研究が発表されたときには、すでに論文執筆に取りかかっていたようです。このあたりは、科学技術振興機構(JST)が発行している「産官学連携ジャーナル」2010年6月号での審良先生へのインタビュー記事をご覧ください。(ちなみにこの記事を書いた松尾義之は詫摩を編集者として鍛えてくれた人です。いまだに身内意識が強くて、このブログのように外の方に向けて書く・話すときに「松尾さん」と敬称をつけることができません)

もし、樹状細胞を対象テーマに入れず、自然免疫だけで3人を選ぶのなら審良先生が選ばれた可能性はあったと思います。

でも、樹状細胞がノーベル賞に値する非常に大事な研究テーマであったことも事実です。スタインマン博士は4年前から膵臓がんを患っていたそうです。ほんの数日の差で、受賞を知らずに他界されてしまったことは本当に残念です。

合掌

 

長々と失礼いたしました。

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