続:10分でわかるノーベル賞2011~化学賞~ で、準結晶って?

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前回は「回転対称性」についてお話しましたが、今回は「準結晶」とは何か、をていねいに見ていきたいと思います。

 

今年のノーベル化学賞の受賞者はダニエル・シェヒトマン博士。

1984年に初めてアルミニウム-マンガン(Al-Mn合金)から「準結晶」を発見したイスラエルの化学者です。

[caption id="attachment_7610" align="aligncenter" width="430" caption="準結晶の分子構造"][/caption]

まず簡単に物体の状態について確認しましょう。

物体には固体-液体-気体の3つの状態があります。水でたとえると氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)です。今回の発見はそのうちの「固体」についてのものです。

シェヒトマン博士の発見以前には、固体物質はすべて結晶非結晶(アモルファス)に分けられると考えられていました。準結晶はそのどちらでもない存在。シェヒトマン博士の発見は今までの認識を覆すものでした。

 

 

さて、準結晶とは一体何なのでしょうか。それを理解するためには「結晶」「非結晶」とは何かを知る必要があります。

前回のブログでも述べているように、結晶の条件は「固体を構成する原子や分子が規則正しく立体的に配列されていること」

原子や分子を横にずらしたり(並進)、回転させたりしても元の形とぴったり重なる(前回の記事参照)、繰り返し構造で成り立っているということです。

食塩(塩化ナトリウム)の粒をよくみるとサイコロのような立方体をしています。

これは身近に見られる結晶の好例です。水晶のとがったつららのような結晶を見たことのある方もいるかもしれません。

食塩も水晶も、面は平らになっていますが、これは、原子や分子が規則正しく配列しているためにできる平面(結晶面)によるものです。

また、結晶によっては、ある決まった方向に割れやすいものもあります。例えば方解石には平行6面体に割れやすい性質があります。

[caption id="attachment_7611" align="aligncenter" width="361" caption="方解石の平行6面体の結晶"][/caption]

 

 

一方、「原子や分子の配列に秩序がみられない」のが非結晶。例えばガラスがそうです。

粉々に壊れたガラスの粒を見てみると、その破片はバラバラの方向に割れている事がわかるはずです。

(結晶の中にはこのような割れ方をするものもありますが)

 

 

そして準結晶はそのどちらでもない状態を指します。つまり、「厳密な規則正しさはもっていないが全体的に見ると秩序をもっている状態」といってよいでしょう。

 

 

この3つをアリの集団で考えてみましょう。

「結晶」はアリとアリの距離がきっちり同じ、かつ全く乱れがない行列を成すアリの集団。

「非結晶」はアリの向かう方向がバラバラな集団。

「準結晶」はアリとアリの距離や向かう方向がきっちり揃ってはいないが、全体的に見ると行列という秩序を持っているアリの集団、に例えられます。(あくまでも田端個人の考えです)

 

[caption id="attachment_7667" align="aligncenter" width="423" caption="上から、完全な規則正しさを持っているアリの集団、バラバラなアリの集団、全体的に見ると秩序を持っているアリの集団"][/caption]

 

 

 

さて、このような摩訶不思議な準結晶。いったい私たちの生活にどのように役に立つのでしょうか。

 

例えば、アルミニウム-鉄-銅合金(Al-Fe-Cu)の準結晶はフライパンのコーティング剤として実際に使われています。

テフロン(400℃~500℃)よりも高温(700℃~800℃)でも使えるのでかなりの高温で調理できるのが利点です。

 

2007年には名古屋大学の松下裕秀教授らが複合高分子の準結晶を世界で初めて発見しています。

準結晶であるがゆえの特異な光学的性質を利用して、そこにあるモノを見えなくするメタマテリアル(未来館では昨年の企画展ドラえもん展で紹介していました)をつくることも可能かも、と松下教授。

 

 

 

2回にわたってご紹介した、この「準結晶」。

ありえないと考えられていた構造をもつ固体物質のこの発見は、我々が知っているものは実はほんの一部に過ぎないことを気づかせてくれる、「無知の知」への入口かもしれません。

 

 

関連ページ:10分でわかるノーベル賞2011~化学賞~

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この記事への1件のフィードバック

<補足>

ブログの筆者です。ツイッターで、いくつかコメントをいただきました。

特にアリの図の例が混乱を招いた部分があるようです。準結晶は結晶とアモルファスの中間的な存在のように見て取れる、とご指摘をいただきました。

・・・うむ、確かに!大変失礼いたしました。

イメージしやすいように、と思って作った図で余計混乱させてしまいまして、申し訳ございませんでした。

ここから補足いたします。

固体物質は3つ、結晶、準結晶、アモルファス(非結晶)に分けられます。これらを区別するためにまず結晶の3条件を見てみます。

結晶の条件 は以下の3つ(2001年7月発行 現代化学より)

1. 1つの単位から成る

2. 周期性をもつ

3. 回折斑点をもつ

そうすると「準結晶は1.2はないが3はある」という事になります。

(※3の回折斑点とは、周期的に配列した原子面同士によるX線や電子線の干渉によって作り出される点のことです。1回目の記事の回転対象性の話は、この回折斑点の並びについてでした。)

ここで、この3つの条件を本文のアリの図(上の図参照)を使って考えてみたいと思います。

1つ目のアリの集団が結晶、2つ目がアモルファス、3つ目が準結晶の例えです。(アリが原子をあらわしているのではありません、どちらかというと単位格子の方がイメージ的には近いと思います。)

1.「1つの単位」はアリの向きとする。すると1つ目の集団には1つの単位しか存在せず、3つ目の集団には2つの単位が存在することになる。

2. 1つ目の集団ではどうずらしても他のアリの位置と重なる、つまり周期性がある。3つ目の集団ではずらしても他のアリの位置とは重ならない、つまり周期性が見られない。

3. 「回折斑点を持つ」=「原子の並び方に何らかの規則性がある」

ということなので、「回折斑点を持つ」は「アリが行列を成している」に当てはまる。

そうするとアリの3つの集団は

アリが同じ向き同じ距離になっている→1つの単位の繰り返し構造をもつ規則正しさ

アリがバラバラ→規則正しさがない

アリが行列を作っている→1つの単位繰り返しではないが、「行列」という規則正しさを持っている

という表現ができると思います。

それにしても、この準結晶、読めば読むほど奥深い・・・。

ご指摘ありがとうございました。また何かありましたらご教授よろしくお願いいたします。

※ アリの集団はあくまでもイメージですので、これが何に当たるという意味では使っていません。

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