2013年ノーベル賞を予想する!~物理学賞その3~

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今日から10月。いよいよ秋本番ですね!そして、10月といえば、ノーベル賞です。(本当かな…)

さて、秋の実りを楽しみにしながら、今年2013年のノーベル賞の予想をします。私の担当は物理学になります。

◆蒋の予想する物理学賞

受賞者:Victor Veselago(ロシア)、John B. Pendry (英国)、David R. Smith (米国)

受賞テーマ:負の屈折の予測と発見に関する研究

220px-Veselago

Victor Veselago(@Wikipedia)

JohnPendry

John B. Pendry (@Festival della Scienza)

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David R. Smith (Illusration by He Jiang)

◆負の屈折とは

今から40年以上も前に、ロシア人科学者ベセラゴ(Victor Veselago)は「負の屈折率」をもつ物質がどこかにあるはずだと考えました。屈折とは、光や音波などの波(波動)が異なる媒質の境界で 進行方向を変える現象のことです。身近なところで、水にお箸やフォークを差し込むと、水面のところで折れ曲がったように見えるのが良い例です(図1-1)。これは、水と空気の屈折率(真空中の光の速度と媒質中の光の速度の比)が異なるからです。これまでに知られている自然界の物質の屈折率はすべて正の値をとっています。でも、たとえば水の屈折率が負の値だったとすると、水に入れたお箸は、水面下で逆向きに見えるはずです(図1-2)。

セラゴの予測通り、負の屈折率をもつ物質が見つかれば、光学の世界は根本的に変わることになります。これは、レンズを使うような光学機器が、一変することを意味します。

ノーベル1

            図1-1                        図1-2

 

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図2-1                     図2-2

通常、図2-1のように光が物質1から物質2に入ったとき、入射した光は反対側(破線の右側)に屈折することになる。

ところが、物質2が負の屈折率を持っていると、図2-2のように入射した光は同じ側(破線の左側)に屈折が起こる。

(図2-2はイメージです。)

 

◆メタマテリアルって何?

ベセラゴの予測は特に大きな進展もないまま、数十年がたってしまいました。そして世の中に忘れ去られたころ、驚きの研究が発表されました。1990年代後半、私が候補者の一人にあげているロンドン大学の物理学者ジョン・ペンドリー(John B. Pendry)は、負の屈折率を持つ物質を作るための理論を提唱しました。

そして、2000年に米国デューク大学のデイヴィッド・スミス(David R. Smith)は、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究グループと共同で、ペンドリー氏の理論を基づいて、「メタマテリアル(metamaterial)」と呼ばれたモノを開発し、その検証実験にも成功しました。「メタ」とは「超越した」、「マテリアル」とは「物質、素材」という意味です。「メタマテリアル」は、「従来の光学の常識を超越した物質」という意味になります。

負の屈折率を持つ人工物質「メタマテリアル」が誕生した背景には、ナノ技術があります。原子や分子のレベルでの超微細な構造体を加工することが可能になり、これまでにない特性をもつような物質をつくれるようになったのです。

metamaterial

メタマテリアルのアレイ構成(@Wikipedia)

負の屈折率の物質は「光学の世界を変える」と書きましたが、具体的にはどういうことでしょうか。

屈折率が正の普通の物質でできたレンズでは、「回折限界」という理論的な限界から光の波長よりも小さな対象を観察できません。光学顕微鏡では、おおよそ200nm(髪の毛の約500分の1)までしか見られないのは、このためです。しかし、ペンドリーは「負の屈折率を持つメタマテリアルであれば、この限界を突破し,原子(大きさは約0.1~0.5nm)よりも小さなものを光で観察できる」と2002年に論文で主張しました。こうしたレンズを「スーパーレンズ」とか「ハイパーレンズ」と読んでいます。ペンドリーの論文をきっかけに、スーパーレンズなどの研究開発がさらに世界中で盛んに行われるようになりました。

 

◆透明マントも作れる?!

実は、メタマテリアルで実現するのは、スーパーレンズだけではありません。私の大好きな漫画「ドラえもん」に登場するひみつ道具の1つ、「透明マント」もメタマテリアルならば、実現可能なのです。

漫画の中の透明マントは、外見が透明の布で、これで覆った物は目に見えなくなるので、全身を覆えば透明人間になれます。

なぜ、メタマテリアルならば、透明マントが可能になるのでしょう? メタマテリアルを使えば、光の屈折を操ることができます。光が当たった物体を迂回するように曲がって後ろに進むようにすれば、その物体は目に見えず、後ろの背景が見えるようになります。つまり、あたかも透明のように見えるのです。まさに「透明マント」 が作れると考えられています。

ノーベル2

Illusration by He Jiang

光を反射させず、迂回させることで、人や物の姿をばれずに、後ろの景色を見ることが出来る。

人や物が透明のように見える。

未来館の3階にも透明マントがありますが、これは「再帰性反射材」という素材を使っていて、メタマテリアルとは別の手法です。

実は、2006年に先ほど紹介したペンドリー教授が透明マントの理論を発表しました。さらにスミス教授らが、可視光より波長の長い「マイクロ波」の領域で、透明マントになるメタマテリアルの開発に成功しました。しかし、人間の目に見えないようにするには、可視光を曲げる透明マントが必要になります。可視光はマイクロ波に比べて波長がとても短いため、可視光を操作して曲がるのが現在の技術ではとても難しいとされています。

以上の3人の研究者、ベセラゴが負の屈折を予言し、ペンドリーが負の屈折を持つ人工物を設計し、スミスによってメタマテリアルが作られたことで、今や光学の世界は大きく変わろうとしています。将来には、「分子や原子はもちろん、無限に小さい物でも見えるレンズ」や「透明マント」のようなものが現れるかもしれません。

さて、今年の未来館予想は、一体どうなるでしょうか?!今年のノーベル物理学賞は、「ヒッグス粒子の存在」を予言したロバート・ヒッグスだろうと言っている方が多いと思います。正直、私も実はそう思います。でも、あえてヒッグスを避けるとすると、今回の3人でなないかと予想しました。

まぁ、いずれにせよ、ノーベル物理学賞の発表は10月8日(火)日本時間の18時45分頃になります。

ヒッグスなのか、それとも他の方なのか、みなさま、こうご期待!

特設サイト「ノーベル賞を予想しよう!2013 」もぜひご覧ください。

 

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