宇宙の起源に迫る! ついにとらえた「原始重力波」からのメッセージ

このエントリーをはてなブックマークに追加

20140320_fukuda_00.jpg


(国立天文台・HSCプロジェクトより)

「天文学は宇宙からの"手紙"を読み取る学問だ。

"手紙"とは何か分かるかな?」 

私が物理学の門を叩いて大学生になったばかりのころ、教授に問いかけられました。教授曰く、手紙は「光」。「宇宙から地球に届く光には、多くの情報が詰め込まれているんだよ」

こんにちは、福田大展です。宇宙はどのように始まったのか?」。そんな物理の根源に迫る実験結果が18日未明、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターらの研究チームにより発表されました。今回の歴史的発見も、宇宙からの光を観測した実験によりもたらされました。なぜ光を見ただけで、宇宙の始まりが分かるのでしょうか。

 

20140320_fukuda_24.png

宇宙は最初、この世の物質をつくる最小の粒々「素粒子」よりも小さかったと考えられています。そして一気に膨張しました。この考え方を「インフレーション理論」と呼んでいます。その後、膨張にブレーキがかかり、宇宙が超高エネルギー状態になりました。これが「ビッグバン」です。ビッグバンのころの宇宙は、超高温・超高密度の火の玉のようだったと考えられています。

 

20140320_fukuda_01.png

 

20140320_fukuda_17.png

上を見上げてみてください。何が見えますか?天井と答えたあなたは、花粉症を恐れずに外に出てみましょう。春はもうすぐですよ。

雲が見えますか。何色ですか?黒い雲が見えるあなたは、屋根のあるところに避難しましょう。分厚い雲が大雨を降らせるかもしれません。

白い雲が見えるあなたは、よく観察してみてください。なぜ雲は白いのでしょうか? 雲の正体は、水滴や氷の粒の集まりです。太陽の光が雲に入ると、水滴に反射して、いろんな方向に進みます。このあちこちに散らばった光が目に入るので、雲は白く見えるんです。

 

20140320_fukuda_02.png

 

それでは、話を宇宙に戻しましょう。ビッグバンのころの超高エネルギー状態の宇宙では、電子が自由に飛び交っていました。なので、光は飛び交う電子と衝突して、まっすぐに進めません。光があちこちに散らばってしまうので、このころの宇宙は、白い雲に覆われたように見ることができないのです。

 

20140320_fukuda_03.png

 

その後、宇宙ができて38万年後、飛び交う電子は電磁気力により陽子に捕らえられて水素原子になり、光がまっすぐに進めるようになりました。つまり、初期の宇宙にかかっていた霧が晴れ、宇宙からの光が見えるようになったのです。この瞬間を「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。そして、若々しい宇宙の姿(といっても38万歳ですが・・・)を伝えるこの光のことを「宇宙マイクロ波背景放射」と呼んでいます。

 

20140320_fukuda_04.png

 

20140320_fukuda_18.png

ここで、ある矛盾が生じます。宇宙から地球に届く光は、宇宙の晴れ上がりより後のものだけ。つまり、光をとらえる望遠鏡では、38万年より前の宇宙は調べられません。おっと、行き詰まりました・・・。

 

20140320_fukuda_05.png

 

 「あきらめるのは、まだ早いぜ!」

「あ!あなたは!」

20140320_fukuda_07.jpg

 「ただの通りがかりの赤ネズミさ」

「ヒッグス粒子の記事で軽く登場した、赤ネズミさん!」

 「光にこだわる必要はねえ。

インフレーションのときに生まれた

『原始重力波』を探すんだ!また会おう」

「ありがとう!赤ネズミさん!」

 

20140320_fukuda_19.png

赤ネズミさんが言い残した「原始重力波」とは、いったい何なんでしょうか? インフレーションのとき、宇宙は一気に膨張したと書きましたが、凄まじい速さなんです。

「0.00000000000000000000000000000000001秒」(0が36個)という"一瞬"で、

素粒子よりも小さかった宇宙が、

「100000000000000000000000000倍」(0が26個)に膨らんだんです!

そして昔、アインシュタインが予言しました。インフレーションによる急激な膨張で時空が歪められて、時空のゆらぎが波として伝わる「重力波」を生み出すと。その宇宙の初期のインフレーションのころに生み出された重力波のことを「原始重力波」と呼んでいます。

この記事を書いている現在、まだ原始重力波を「直接」観測したことはありません。しかし、この原始重力波が、宇宙の晴れ上がりのころの若々しい光に、ある"痕跡"を残したのです。

 

20140320_fukuda_06.png

 

20140320_fukuda_20.png

 

20140320_fukuda_25.JPG

(画像をクリックしても大きくなりません)

汚いひげ面のアップはきついですよね・・・すいません。

夏の日差しがまぶしいときにサングラスをかけると、建物や地面に反射した光を遮れます。なぜ、まぶしくないのでしょうか?「偏光サングラス」には、レンズの間に「偏光膜」が挟まっています。偏光膜は細かいスリットが入った膜のこと。決まった方向にのみ振動する光だけを通すから、まぶしくなかったんですね。このように、光は決まった方向にのみ振動する場合があり、そんな光を「偏光」と呼びます。

 

20140320_fukuda_08.png

 

20140320_fukuda_21.png

それでは、いよいよ核心に迫ります。「原始重力波が、宇宙の晴れ上がりのころの若々しい光に残した"痕跡"とは何か」。それは、いくつかの偏光の集まりが、決まったパターンの"模様"を作り出すんです。そのパターンの種類は2種類。ひとつは泉から水が「湧き出る」ようなパターンで、もうひとつは「渦」を巻いているようなパターンです。最初の湧き出るパターンを「Eモード」渦のパターンを「Bモード」と呼んでいます。

 

20140320_fukuda_09.png

 

このパターンを作り出すのは、原始重力波だけではありません。宇宙の晴れ上がりのころの若々しい光には、微かに暖かい場所と冷たい場所があり、温度に"ムラ"があることが分かっています。しかし、温度の"ムラ"では、Eモードの分布しかできません。つまり、Eモードは原始重力波だけでなく、温度の"ムラ"によっても作られる。しかし、Bモードは原始重力波でしか作れません(※)。だから、Bモードを観測することは、原始重力波を「間接的」に観測したことになるのです。

 

20140320_fukuda_10.png

 

20140320_fukuda_22.png

それでは、観測したデータを見てみましょう。

 

20140320_fukuda_13.png

(画像をクリックすると拡大します) 

これは、宇宙の晴れ上がりのころの若々しい光「宇宙マイクロ波背景放射」のBモードの偏光パターンです。横軸と縦軸は光が放たれた位置を表しています。黒い線が偏光の方向で、長さが偏光の強さ。背景の色は偏光の渦の回転方向を表していて、赤が時計回りで青が反時計回りの分布を表しています。

 

 渦を巻いてる!

 

20140320_fukuda_27.png

この実験で、原始重力波が作り出した痕跡である「Bモード偏光」を初めて観測しました。これにより、原始重力波を「間接的」に観測。初期の宇宙が急膨張した「インフレーション理論」の、実験的な証拠が初めて発見されました。このインフレーション理論を考えたのは、自然科学研究機構の佐藤勝彦機構長と、米宇宙物理学者のアラン・グース博士たちです。

「今後は直接、重力波を測定し、宇宙の生まれた瞬間の『写真』を出してほしい」

佐藤博士は発表後の会見でこう語っています。 「光」では38万年より前の宇宙は調べられません。しかし、もし原始重力波が「直接」観測できるようになれば、38万年より前のインフレーションのころの宇宙を観測できるかもしれないのです! 楽しみに待ちましょう!

 

20140320_fukuda_26.png

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

この記事への8件のフィードバック

いろいろな解説を読みましたが、一番分かりやすかったです。いろいろなモデルが否定、排除される根拠を、もう少し説明してください(^o^)

コメントありがとうございます!
「一番分かりやすかった」なんて、うれしいお言葉ありがとうございます。
励みになります。

質問にお答えしたいと思うのですが、1点確認をさせてください。
「いろいろなモデル」とはどんなものを指すのでしょうか。
宇宙は火の玉から始まったという「ビッグバン理論」などでしょうか。

よろしくお願いします。

わざわざお返事をありがとうございました。
インフレーション理論の中のいろいろなモデルではなくて、それらと異なる考え方のサイクリック宇宙論などが否定されたのでしょう。インフレーション以外では、今回観測された原因の初期のゆらぎがなくて原始重力波が発生しないのかな?
そもそも最初にBモード偏光を計算した研究者は誰で、観測を始めようと思った人は誰で、観測機材やデータ処理方法は、どれくらい難しいものなのか、世界で何カ所で観測しているのか、日本の研究者たちも観測しているのか、興味はつきません。他のグループの観測結果が集まると、すごいことがわかりそうで、ワクワクしています。私にとっては、ヒッグス粒子の100倍も関心の大きい発見です!

なるほどですね。興味深いです。ありがとうございます。
宇宙の起源になる素粒子よりも小さい粒粒からかもしれませんね。
だとしたらこれは、粒自体が自由運動可能な物質だったかもしれません。
やがて、素粒子の基になるような性質を持っていたと思うからです。
でもですよ、その粒は、どうやって出来たのでしょうか?

興味深いテーマで、つい目がとまりました。
1つ教えていただきたいことがございまして、メールさせていただきました。
Bモード偏光は、なぜ原始重力波でしか生じないのでしょうか。
また、BモードはEモードと何が異なるのでしょうか。偏光の向きが四方八方に向いているという意味では同じだと思うのですが。
素人にもわかるようにお教えいただければ幸いです。

りょう様

はじめまして。福田大展と申します。
ご質問をいただきありがとうございます。

このブログを書いたのは、かれこれ2年半前になるのですが、
とても思い入れがあります。
ご質問をいただき大変うれしいです。ありがとうございます。

2年半の間にいろいろな変化がございまして、
現在は、未来館を離れて、東京大学宇宙線研究所で働いております。

ご質問ですが、長くなると思いますので、
何回かに分けて、コメント欄に回答致します。

福田

——-
▼EモードとBモードの違い

「BモードはEモードと何が異なるのでしょうか。
 偏光の向きが四方八方に向いているという意味では
 同じだと思うのですが」

確かにそうですね。どちらも四方八方に向いています。

まずは「E」と「B」なのですが、
なぜこのような表現になったのかというところから始めたいと思います。
高校の物理で「E」は電場を表し、「B」は磁場を表していたかと思います。

そして、電場は電荷がある場所から湧き出すように放射状に広がる向きで、
一方、磁場は電流の向きから円を描くような向きだったのを覚えていますでしょうか。
(下記のリンクに図があります。コメント欄は図が載せられないので、リンクを使います。笑)
https://dj1hlxw0wr920.cloudfront.net/userfiles/wyzfiles/d1c49c5c-adc7-49b2-92b0-ed8f96ffd36d.png

そしてなぜ、EモードとBモードという名前が付いたのかですが、
Eモードの偏光パターンは「湧き出す」ように広がって見える。
また、Bモードの偏光パターンは「渦を巻くように」広がって見えます。
これが電場(湧き出す)と磁場(回転するように)にリンクすることから、
それぞれ、EモードとBモードと名付けられました。

質問に答えますと、
確かに、「四方八方に広がって見える」という点では同じように見えますが、
【渦を巻くような回転成分があるか】というところがポイントです。
その違いで、「E」と「B」が分けられています。

りょう様

▼Bモード偏光はなぜ原始重力波でしか生じないのか

するどいですね。
確かブログを書いているときに、この部分は難しすぎるので、
省略した記憶があります。笑

この点は私もきちんと説明できる不安なので、
私が参考にした資料を提示したいと思います。

<Bモード偏光とは何か?(小松英一郎先生)>
http://wwwmpa.mpa-garching.mpg.de/~komatsu/presentation/jps_bmodes_komatsu.pdf
小松先生は宇宙マイクロ波背景放射を観測するWMAP計画に参加する研究者です。

この資料をお読みいただくと分かると思います!

と「!」を付けてみましたが、
これで終わるといささか乱暴なので(笑)、
うまく説明できるか不安ですが、少しだけご説明させていただきます。

まずは資料のp9.10をご覧ください。
このページがいわゆる、
私のブログ上の「温度のムラ(ゆらぎ)」による偏光です。
資料によると、温度ゆらぎによる偏光は、
熱のゆらぎに添って生じるので、
ゆらぎの方向に対して垂直か平行の方向に変更します(p10)

次に、資料のp20.21をご覧ください。
こちらのページが「原始重力波」による偏光です。
資料によると、原始重力波による偏光は、
空間の伸び縮みによって生じる温度変化によります。(p20)
ですので、宇宙の温度ゆらぎの方向に関係なく、
ゆらぎの方向に対して、垂直か平行の場合もありますが、
45度に傾く場合も考えられます。(p21)
この「45度傾く」というのが、
最初の文章の「渦を巻く」ように見えることにつながります。

つまり、以上をまとめると
温度のムラ(温度ゆらぎ、密度ゆらぎ)はEモード偏光しか生じない
原始重力波(空間のゆがみ)はEモード偏光もBモード偏光も生じる。
なので、Bモード偏光を観測すれば、原始重力波を間接的に観測したことになる
ということです。(p23)

▼おまけ
なぜか三部作にまでなってしまい、
これはコメント返しなのか、新たなブログ記事なのか、
自分でもよく分からなくなってきております。(笑)

この「おまけ」では、何を書こうかと考えているのですが、
・「間接」ではなく「直接」重力波を観測できるのか
・最近ニュースで話題になっている重力波の検出とこの話の区別
・原始重力波は直接観測する計画はあるのか

このような流れで書きたいと思います。
完全にライターズハイに入りました。
最後までお付き合いいただければと思います。笑

【「間接」ではなく「直接」重力波を観測できるのか】
このブログの内容は
「Bモード偏光による原始重力波の間接的な観測」についてですが、
それでは、「直接」重力波を感じることはできるのか!?
その話題が、実は今年はじめから世間を騒がせているニュースです。
この話は、私の個人的なブログにまとまっていますので、
そちらをご覧いただければと思います。

とらえた!アインシュタインが残した最後の予言~重力波を直接観測
https://note.mu/kurosiokun/n/n240817e6dd23
KAGRAとLIGOを徹底比較! 重力波の微かな「信号」と「ノイズ」の戦い
https://note.mu/kurosiokun/n/neeee1768226e

そうなんです。人類は重力波を直接観測することに、
アインシュタインの予言から100年経ってようやく達成したのです!
すごい!
そして、今回観測したLIGOはアメリカの装置ですが、
日本でも現在、岐阜県の神岡鉱山の地下にトンネルを掘り、
「KAGRA(かぐら)」という装置を作っています。
2017年度末の本格運転を目指して、現在整備を進めています。

【最近ニュースで話題になっている重力波の検出とこの話の区別】
それじゃあ、原始重力波も直接観測できるんだね!
って思われるかもしれませんが、そうかんたんには行きません。
今回観測したLIGOやKAGRAも、現在の装置の感度では、
設計では7億光年の範囲の天体現象による重力波の観測を想定しています。
ですので、
138億光年離れた宇宙の最初のインフレーションのころに生じた、
原始重力波は、今の検出器では感度が足りません。

もどかしい! 感度を上げるにはどうしたらいいの!?
装置を大きくすればいい。
しかし、現在の装置はL字のパイプの長さが3km、4kmある。
これ以上大きなものを地上には作れないよ、兄さん!
地上が駄目なら・・・


【原始重力波は直接観測する計画はあるのか】

・・・宇宙だね!兄さん!
そうだよ。レーザー干渉計を宇宙に持っていくんだ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙重力波望遠鏡
(最後はWikiを貼る乱暴もの)


ということで、そろそろ終わりたいと思いますが、
実は、先程の日本のKAGRAの装置の建設にかかわっているのが、
今私が所属している宇宙線研究所なんです。(告知)

そして、なんとグッドタイミング。
なんと、10月21日(金)22日(土)に、
宇宙線研究所がある東京大学柏キャンパスの、
オープンキャンパスがあるのです!(告知)

そして、その日に宇宙線研究所に来れば、
へとへとになっている私がいます!
これも何かの縁ですので、ぜひ会いに来てください。
もはやコメントの返信ではないですが、
これをお読みになった方はぜひ、宇宙線研究所に遊びに来てください。
(読む人いるのだろうか?)

当日は重力波グループの研究者の方たちも参加していますので、
質問攻めにしてあげてください!
レーザー干渉計を組み立てるワークショップも午後にあります。

それでは、大変長くなりましたが、
終わりたいと思います。
ありがとうございました。


おまけが一番長くないだろうか。
いいや。そんなはずはない・・・。

コメントを残す