2014年ノーベル物理学賞を予想する② スピンを操るあの方!

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今年のノーベル物理学賞、私はこの方が受賞するのではないかと予想します!

受賞者: 大野 英男 (東北大学電気通信研究所 教授)

受賞理由:希薄磁性半導体における強磁性の特性と制御に関する研究

20140914_sasamoto_1.jpg写真提供:東北大学電気通信研究所

大野先生が研究しているのは、磁石にもなる性質ももっていて、かつ半導体でもある物質、磁性半導体です。「スピントロニクス」という新しい技術での期待の物質で、これを使うとたとえば待機電力ゼロのパソコンが可能になると期待されています。

半導体ってなに?

半導体とは、全く電気を通さないわけではないけど、すごく良く電気を通すというわけでもない物質です。電気抵抗でみると、絶縁体と金属の間にあるようなもの。何だかはっきりせずに、中途半端だと思われるかもしれませんが、実は私達の生活に欠かせないものなんです。

どんなところに使われているかというと、集積回路(IC)!そんなもの使った覚えないけど・・・、という方もいるかもしれませんが、皆さんきっと使っています。集積回路は携帯電話やパソコンの頭脳部分として欠かせないものなんです。


20140914_sasamoto_3.jpgのサムネイル画像

磁性ってなに?

磁性とは、磁石になる性質のことです。磁石は皆さんすぐに思い浮かびますよね?よく理科の実験で使うあれです。ご自宅の冷蔵庫などに磁石でメモを貼っている方も多いはず。でも、「磁石になっている状態」ってどういうことか、考えたことありますか?実は意外と難しいんです。

磁 石の"もと"になっているのは電子のスピンです。物質の中には電子がたくさんあり、その電子は「スピン」という物理量を持っています。いきなり物理量?と かって言われても・・・と思うかもしれません。それで当然です。スピンというのはとっても難しい概念なので、きちんと理解するのは大変なのですが、よく フィギュアスケートで「スピン」という言葉がでてきますよね。あれをイメージしてください。コマみたいに自分の中心に回転軸があって、くるくるとまわる回 転のことです。右回りと左回りというふうに2種類あります。右回りのときにはスピンが上向き、左回りのときにはスピン下向き、と考えて下の図のように描か れることが多いです。そのスピンの向きが揃うと磁石になります。


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磁石も私たちにとって欠かせない技術に使われています。パソコンに入っているハードディスクは、この磁石の性質を利用して、磁石のS極、N極の向きで情報を記憶しています。

半導体と磁石の関係?

ここで、はじめに出てきた「半導体」も「磁石」と関係があることに気付きましたか?

そう、半導体も磁石も「電子」が関係しています。同じ電子が関係しているのですが、半導体では電子のもつ「電荷」が利用され、磁石では「スピン」が利用され、今はそれぞれの性質ごとが別々に電子製品などに利用され、その技術は「エレクトロニクス」と呼ばれています。

「スピントロニクス」!!

大 野先生の研究テーマは、電子がもつ「電荷」と「スピン」を同時に利用する「スピントロニクス」です。ガリウムとヒ素という組み合わせや、インジウムとヒ素 といった組み合わせの化合物半導体に、磁性を持つマンガンを数%混ぜて、半導体でもあり磁石にもある物質をつくりました。ちょっと科学っぽくかくと、 (In,Mn)Asや(Ga,Mn)Asという物質です。

つくりました、と簡単に書きましたが、(Ga,Mn)Asの結晶をつくること自体 も難しいんです。大野先生が研究をする前からガリウムとヒ素の半導体にマンガンを混ぜる試みはされていました。しかし、マンガンが溶けて均一の結晶をつく ることはなかなかできませんでした。そんな中、大野先生は"低温エピキタシ法"という低い温度でじっくり結晶をつくる方法をとりいれることで成功したので す。

大野先生が作成した半導体であり磁石にもなる材質は、電気の流れ(電界)をかけることで磁石になったり、ならなかったりを操作することができます。

大 野先生の研究内容は論文で報告され、その論文は多くの人に引用されています。各分野で引用された数が上位に入った研究者に送られる、トムソン・ロイター引 用名誉賞を2011年に大野先生は受賞されています!論文が引用されるということは、研究がそれだけ注目され、評価されている証拠です。

磁 石になったり、ならなかったりが操作できるということは、スピンの向きを操作できるということであり、その向きで情報の記憶ができたりするわけです。磁石 の性質を使った情報の読み込み・書き込みは非常に高速で、何回も書き換えることが可能で原理的には書き換えの制限はありません。さらに、情報はスピンの向 きとして、つまり磁石の向きとして記憶され、そう簡単にはかわりません。なので、電源を切ったとしても記憶はそのまま残ります。

そんな技術 すでに使ってるじゃん、パソコンだって電源切ってもデータは保存されているし・・・、と思うかもしれません。確かに既存のハードディスクは磁石の性質を利 用して情報の読み書きをしていますが、磁気センサーを使って磁石の向きを読みとっています。つまり、磁石の力である磁界を使って情報を操作しているので す。一方、スピントロニクスでは、磁石の性質を全て"電気の力"で操作しているという点がハードディスクと違います。また、電源を切ってもハードディスク のデータは保存されていますが、ファイルの保存ができていないうちに停電になりデータを失い、泣きたくなった経験はありませんか?スピントロニクスの技術 では、電子にもともと備わっている性質を利用するので、電力が完全に断たれてもデータを保持できるようになります。

そ して、スピントロニクス技術は省エネルギーの観点からも注目されています。コンピューターなどの電子機器はコンセントにつないでいる限り電源をオフにして いても少量の電流が機器に流れ続けます。この待機電力は消費電力の約6%をしめると言われ、使用していない時にもエネルギーを消費していることになりま す。スピントロニクスの技術は、使うときだけ電力を消費するといった使い方ができるので、原理的には"待機電力ゼロ"が実現できます。

こ の電気の力だけで操作できるスピントロニクス技術を集積回路の中に入れれば、高速でより少ないエネルギーで動作する省エネルギーな集積回路が実現でき、い ま限界にきている集積回路に大きな改革が起こると考えられています。今はスピントロニクス技術をつかった集積回路の実用化が進められ、私たちが使える日も 近づいてきています。

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大野先生は、地元のネット新聞「宮城の新聞」で のインタビューで研究の楽しみを「推理小説」に例えて表現しています。基礎研究は、どこに結末があるかわからないけれども、おもしろいから次へ次へと進ん でいく。そんな推理小説のページを一枚一枚めくるようなおもしろみが基礎研究にはあると言います。しかし、大野先生は基礎研究だけではありません。ご自身 の研究は広い意味では応用研究の分野に入ると大野先生は言っています。こういうものを作りたいという目的意識がはっきりしていなければ応用研究はできな い、その分非常にやりがいがある仕事だと。

基礎研究だけでなく、応用研究としての視点も持ち合わせている大野先生の研究は、先生が上記イン タビューでもメッセージとして発信している「新しい土俵をつくる」という言葉を思い起こさせます。新しい土俵をつくるということは、与えられた条件下でベ ストを尽くすということ以上に、さらなる変化を成し遂げようと常に意識する、という大野先生の言葉です。

ついつい、与えられた環境の中で、すでにあるものを使ってベストを尽くそうと考えがちですが、その枠を超えて新しいことに挑戦する、大野先生の言葉からそんな勇気がわいてきました!

ノーベル物理学賞の発表は10月7日です。

発表が楽しみです!

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