2014年ノーベル生理学・医学賞を予想する③ 博士が見た「大きな夢」と「小さなRNA」

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時は1970年。

アメリカでは「アポロ13号」が奇跡の帰還を果たし、イギリスではビートルズが最後のアルバム「LET IT BE」を発表した年でございます。

科学への情熱をたぎらせた17歳の青年が、アメリカの名門校「マサチューセッツ工科大学(MIT)」の入学試験に挑んでおりました(※1)。

課題は小論文。 「なぜあなたはMITに入学したいのか?」という問いに その青年は、さらさらとペンを走らせ、たった6語の小論文を書き上げます。 そこに書かれていたのは......

"I want to be a scientist."

「僕は科学者になりたいのです。」

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ノーベル生理学・医学賞の予想も今回で3回目。

私、志水が担当いたします。

時は移って2014年、さきほどの青年は生理学・医学賞の有力候補といわれる科学者になりました。

その人物はこちら!

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(Wikimedia commonsより)

マサチューセッツ大学ウースター校の

ヴィクター・アンブロス(Victor R. Ambros)博士でございます!!  

現在、60歳になるアンブロス博士は「マイクロRNA(miRNA)」という物質を発見したことで知られています。マイクロとは「小さい」という意味。小さなものを「ミクロ」と言ったりしますよね。小さなRNAが細胞の中で思わぬ働きをしていることを明らかにした功績によって、すでに多くの賞を受賞されているのです。

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細胞でさえ小さいのに、さらに小さな『マイクロRNA』のお話って面白いのかしら......?

 

おやおや、小さいからって馬鹿にしちゃあ、いけません。

ことわざにも「山椒は小粒でもぴりりと辛い」というじゃありませんか。

まあ、ゆっくりとお付き合いくださいませ。

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 マイクロRNAのお話に入る前に、「そもそも『RNA』って何者?」というところから始めましょう。

RNAは私たちの細胞の中に存在しています。 そこで、細胞をズームアップ!

 20140912_shimizu_02.jpg

見えてきたのは、丸い小部屋(図の紫色部分)。これは「核」です。 核の中には、私たちの体の設計図が収められた「DNA」が入っています。 設計図があるだけでは、ただの絵に描いた餅。 筋肉や皮膚といった体の部分をつくるには、「タンパク質」がつくられなければなりません。

しかし、DNAは重要な設計図。核の外に簡単に持ち出すわけにはいきません。 そこで、DNAの一部をRNA(の一種、メッセンジャーRNA)にいったんコピーして、さらにタンパク質がつくられるのです。

RNAにはメッセンジャーRNA以外にもいくつかの種類があるのですが、当初は「タンパク質がつくられる過程での中継役」としか考えられていませんでした。

だが、しかーし!

アンブロス博士は、このRNAの中でも特に短い断片であるマイクロRNAが、つくられるタンパク質の量を調節していることを明らかにしました。

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マイクロRNAの長さはわずか22塩基程度(塩基とは、先ほどの図でいうと、のブロック一つのことです)。一般的なメッセンジャーRNAが1000塩基をかるく超えることから考えてもその短さは格別です。

核から飛び出したマイクロRNAはタンパク質と結合したのち、なんとなく配列が似ている他のメッセンジャーRNAにくっつきます。その結果、メッセンジャーRNAの並びを読み取ることができなくなり、タンパク質がつくられなくなる、と考えられています。

(実は、タンパク質の量を調節する仕組みは、まだ研究途上。マイクロRNAがくっつくことでメッセンジャーRNAが分解されやすくなる、ともいわれています。) 

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小さな世界も、よく見てみると味わい深いわねえ。アンブロス博士も小さな世界がお好きなのかしら?例えば、アリみたいに小さな生き物とか。

うーむ、博士がどんな生き物がお好きかは存じ上げませんが、研究には長さ1mmくらいのこんな生き物を使ったそうでございます。

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これは「線虫(C. elegans)」とよばれる生き物で、土の中にすんでいます。 体が透明なので、卵から体ができあがっていく様子を調べるのに使われています。 マイクロRNAは体が順序良く適切につくられるために重要だ、ということをアンブロス博士は証明したのです。

マイクロRNAが重要なのは線虫だけではありません。私たちヒトにとっても重要です。

線虫でmiRNAが発見されたのは1993年。

20年経った今では、私たちヒトには約2000種類ものmiRNAがあると予想されています。

マイクロRNAの量が変わると、つくられるタンパク質の量も変わります。タンパク質のバランスが崩れると、細胞の調子が悪くなる。その結果、病気になるというわけ。そこで、マイクロRNAの量を測定して、いち早く病気の予兆を見つけよう!という研究が世界中で行われています。

日本では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や国立がん研究センターが、今年6月に大型プロジェクトを発表しました。血液中のマイクロRNAの量を測定して、乳がんなどの13種類のがんを迅速に判定しようというものです。今後、マイクロRNAは多くの人の生命を救うかもしれません。

こんな可能性を秘めたマイクロRNAは、アンブロス博士が発見するまで誰にも知られていなかったのです(ヒトでは2000種類もあったのに!)

アンブロス博士こそノーベル賞にふさわしいと思いませんか?

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そういえば、17歳のアンブロス青年が、いかにして世界に知られる科学者になったのか、話の続きを忘れておりました。

無事MITに入学できたアンブロス青年は、2人のノーベル賞受賞者、デビッド・ボルティモア博士とロバート・ホロビッツ博士の指導の下、頭角を現していきます。 アンブロス博士はこの頃を振り返ってこのように述べております(※1)。

「科学は『普通の』人たちによって行われてきたということを私はMITで学んだ。それはほっとすることだったし、喜びでもあった。科学は、人類が懸命に成し遂げた大事業だ。だから科学が好きなのさ。」

謙虚に大事業と向き合ったアンブロス博士にとって、ノーベル賞はおまけにすぎないのかもしれません。しかし、私は気になってしまうのです。アンブロス博士は栄冠を勝ち得ることができるのか?それは発表の日(10月6日(月))まで誰にも分かりません。

と、いったところで、今日はお時間です。 次の予想者が、今や遅しと出番を待っております。

お後がよろしいようで。

※1ラスカー賞受賞時のコメントより

http://www.laskerfoundation.org/awards/2008_b_accept_ambros.htm

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③ 博士が見た「大きな夢」と「小さなRNA」(この記事)

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