2014年ノーベル化学賞を予想する③ 分子1つを見る

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お待たせしました。今年のノーベル化学賞予想3人目です。

(優秀な後輩に任せっきりだった)松浦が、今年ノーベル化学賞を受賞するだろうと予想するのはこちらの方。

スタンフォード大学教授、リチャード・ゼア(Richard N. Zare)博士です!

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(写真提供:ご本人)

 

ヒゲと笑顔の素敵な方です。では、なぜ「ゼア博士がノーベル化学賞を受賞するだろう」と予想したのか、その業績をご紹介しましょう。

まずはこの動画をご覧ください。

ゼア博士が、分液ロート(ガラスの入れ物)に緑色のレーザー光を当てています。緑色のレーザー光を当てているのに、中では黄色の光線が見えていますね。分液ロートの栓を緩めて、もう一度同じレーザー光を当てたら、今度は黄色の光線は見えなくなりました。

どういうこと?

実はこの分液ロートの中にはヨウ素の蒸気が入っていて、レーザー光を当てられたヨウ素の分子が黄色の光を出していたのです。途中で栓を緩めてヨウ素の蒸気を抜くと、黄色の光は見えなくなってしまいました。つまり、「黄色い光がある=ヨウ素が存在していることがわかる」ということの説明なのです。

・・・へえ・・・?

って感じですよね。そうですよね。

でもこの現象を使うことで、化学だけでなく物理、生物など幅広い学術分野が発展してきました。

分子1つ1つを「観」る方法を開発・確立させてきた

ゼア博士は、分子1つ1つがどんな挙動をしているのかを観察・分析する「一分子計測」の手法の開発を、理論と実験の両方向から進めてきた人です。

そもそも分子1つを「観」るとはどういうことなのか。

物質が分子からできていることは、学校で習いましたよね。分子とはその物質の性質を持っている最小単位です。たとえば、二酸化炭素は温暖化ガスになったり、水に溶けると酸性になったりしますが、その性質は元をたどればCO2という分子の性質です。逆に言うと、分子の性質を知ることは、その分子が集まってできる物質を知ることにつながります。

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どんなモノも分子が集まってできている

もう一つ例を挙げてみましょう。私たち生物の働きを担っているたくさんの種類のタンパク質も分子の1つです。それぞれのタンパク質がどんな振る舞いをしているのかを調べることは、私たちが「生きる」ということを理解するために重要なこと。しかし、たくさんのタンパク質分子が集まった状態で色々な性質を調べたのでは、それぞれのタンパク質の様子はわかりません。実際の細胞内での様子などは、タンパク質分子1つ1つが働いている状態を「観」察する必要があります。

その1つ1つを「観」る方法をたくさん開発、確立させてきたのがゼア博士なのです。

例えば・・・レーザー誘起蛍光法を開発

ゼア博士が開発した手法の一つに、レーザー誘起蛍光法があります。レーザー誘起蛍光法は、分子にレーザー光を当てることによって、その分子から出る蛍光を計測し、その分子そのものの様子を観察する方法です。なぜレーザーを当てると分子から蛍光が出るのかを説明しましょう。レーザー光を当てるということは、その分子にエネルギーを与えるということです。でも高いエネルギーを持った分子は落ち着かないので、元の状態に戻りたがります。元の状態に戻るときは、与えられたエネルギーを放出しなければいけません。そのエネルギーを放出するときに見えるのが蛍光です。

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○が分子。人間だって分子だって、ハイテンションな状態はそう長くは続かず、落ち着きたいのです。

 

冒頭の動画をもう一度思い出してください。分液ロートの中にはヨウ素の蒸気が入っています。レーザー光を当てることで、ヨウ素はエネルギーが高い状態になります。しかし、高エネルギーのヨウ素は元のエネルギー状態に戻りたがります。そして、黄色の蛍光を出して元のエネルギー状態に戻ります。「レーザー」によって「蛍光」を「誘い起こす」ので、レーザー誘起蛍光法、というのです。

この蛍光の強さやその時間変化等を計測することで、分子がどこにどれくらいあるのか(濃度)やどれくらいエネルギーを持っているのかなど、その分子そのものの様子を知ることができるのです。

レーザー誘起蛍光法は、いまや幅広い分野で計測方法の基本として使われています。例えばヒトゲノム解読。1970年代に用いられていたサンガー法やギルバート法ではヒトゲノムすべてを解読するのに8000年近くかかる、と言われていました。もちろん、すばやく解読する手法の開発も、ヒトゲノム計画の1つだったのですが、このレーザー誘起蛍光法を導入したことで、解読スピードが飛躍的にアップし、当初予定よりも早い約13年で概要を発表することができました。

レーザー誘起蛍光法だけでなく、様々な計測手法を開発してきたゼア博士のことを「化学業界のヒーローだ」なんていう教授がいるほど、彼の功績は幅広い分野に影響を与えています。

 

番外編、超親切。

そんなわけで、ゼア博士をイチオシの方として紹介する、と決めてから数日。彼のお顔をみなさんにご紹介するために、写真をいただけないですか?とご本人にメールをしました。すると。

 

You have my permission and my strong support in any effort to popularize science.

 

と返ってきたのです。

 

はわわわわわわわ。(感動のあまり動揺する松浦)

 

とてもとても好意的なお返事です。その後も、レーザー誘起蛍光法の紹介をするのに、HPの写真を使いたいのですが許可いただけますか?とメールをしたところ、その写真に関する論文等を送っていただけました。その中に冒頭の動画も入っていたというわけなのです。ブログに使いますから!と返事をした松浦。この記事のURLを博士にメールする予定です。ゼア博士!読んでますか-?!日本語だけど!

 

というわけで、とてもフレンドリーで偉大な化学者、リチャード・ゼア博士をノーベル化学賞受賞者予想3人目としてご紹介しました。

 

さてノーベル化学賞、自然科学3賞の中で一番予想しづらい、と言われております。

松浦も大苦戦。今までのノーベル賞受賞者の研究内容を眺め、ノーベル前哨戦と呼ばれる数々の国際賞の受賞歴を調べ、中身を理解するために10数年ぶりに大学の教科書も引っ張り出し・・・(実は工学部化学系卒業の松浦。)

後藤が予想した先生方やゼア博士のほかにも、まだまだたくさん化学賞を取りそうな方はいらっしゃるのです。「化学」と呼ばれる学問は幅広い分野で使われています。そもそも、大学の教科書だって「物理化学」とか「生化学」とか・・・

 

そもそも化学って何だーーーー!!!!

 

と、夜のお台場で一人叫んだこと数知れず。(不審者ではありません。)

 

というわけで、ノーベル化学賞何がくるか本当にわかりません

発表の瞬間、10月8日18:45(日本時間)をドキドキハラハラしながら待ちます。でもただ待つだけじゃつまらない。

みなさんも予想してみませんか。(にやり)

 

未来館科学コミュニケーター、まだまだだな。

 

なんて言ってみませんか。

昨年、物理学賞はまいど科学コミュニケーターほんだが当てましたが、生理学医学賞はお客さまが的中させました!(詳細はこちら

 

ほらほら、予想したくなってきたでしょ?

 

22日に、特設サイトノーベル賞を予想しよう!2014がオープンします。

みなさんが自分の予想を投票したり記入したりできるサイトです。ぜひ、参加してください。

 

私たち科学コミュニケーターもイチオシしたい研究者がまだまだたくさんいます。

それはきっと、番外編、なんて形でご紹介していきます。お楽しみに!

 

秋の始まりは、ノーベル賞予想で決まり、です。

ブログ管理人より(2014年9月22日17時35分

9月19日夕方の公開当初、Zare博士のお名前の表記を「ザーレ博士」としておりました。にゃーす様にコメントをいただき、松浦が博士自身に確認したところ、ご指摘にいただいた通り「ゼア博士」と書くのがふさわしい発音でした。訂正いたします。

2014年ノーベル賞関連のブログ記事など

ノーベル賞を一緒に予想してみませんか?

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この記事への2件のフィードバック

博士の名前はザーレではなく、ゼアもしくはゼーアかと
思います。大変失礼にあたるので訂正された方がよいのでないでしょうか。
これは私見ですので、気にされなくても結構です。
科学コミュニケーターなるもの、国民(子供含む)に科学技術を正確にかつ丁寧に紹介するのが仕事の1つかと思います。
また、世界的研究者に特集ページのURLを伝えるのであれば、
英語を併記されてはどうですか。
いずれにしろ、読者およびZare博士に対し、配慮に欠けていると感じました。

以上、辛辣なコメントになり恐縮ですが、今後の松浦様の記事を楽しみにしております。

にゃーすさま

コメント及びご指摘ありがとうございます。
にゃーすさまのコメントの後、Zare博士ご本人に確認を取りました。

Air
Bare
Care
・・・
といった単語と同じ発音だよ、

とお返事をいただきました。
にゃーすさまのおかげで、間違った情報を発信し続けることにならずに済みました。
ありがとうございました。

また、記事を楽しみにしている、とのこと、ありがとうございます。
今までも何本か書いておりますし、これからも書き続けますので、
今後ともよろしくお願いいたします。

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