【2014年ノーベル生理学・医学賞】私は、ここに、いる


今年もノーベル賞の季節がやってまいりました! 早速、生理学・医学賞の受賞者も発表されました。

受賞者はこちら!

ジョン・オキーフ先生(アメリカ)、マイブリット・モーザー先生(ノルウェー)、エドバルド・モーザー先生(ノルウェー)(なんとご夫妻!)のお三方です。

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ジョン・オキーフ(John O'Keefe)先生(©2014 The Nobel Committee for Physiology or Medicine)

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マイブリット・モーザー(May-Britt Moser)先生(左)、エドバルド・モゼール(Edvard I. Moser)先生(右)、(Wikimedia Commonsより転載)

過去にご夫婦でノーベル賞を受賞された研究者としては、「キュリー夫人」で有名なマリ・キュリー、ピエール・キュリー夫妻(フランス、1903年物理学賞)の例がありますが、モーザー夫妻で5組目です。生理学・医学賞としては2組目です。※

※(10/7 11:50追記)
10/6にキュリー夫妻以来と書きましたが、誤りでした。誤った情報をお伝えしてしまい、大変失礼致しました。ちなみに、マリ・キュリー、ピエール・キュリー夫妻の娘イレーヌ・ジョリオ=キュリーも夫妻で1935年にノーベル化学賞を受賞しています。


受賞テーマは「位置情報を司る脳の神経細胞の発見」。
お三方は、「『自分がどこにいるか』が分かるのは、脳に特別な細胞があるからだ!」と発見したのです。

未来館の生理学・医学賞チームにとって全くの予想外。 しかし、外した悔しさよりも、研究の面白さに興味が魅かれてなりません。 自他ともに認める「方向音痴」の古澤も、前のめりで研究について調べていました。

では、今年のノーベル医学・生理学賞の世界にダイブしましょう! 皆さんが「迷わない」ように科学コミュニケーターが精いっぱい「ナビゲート」します。

 

さて、皆さんに質問です。 「皆さんはどこにいますか?」

突拍子もない質問ですみません。

「自宅パソコンの前で見ています」「東京スカイツリーの展望室で、スマホで見ています」 さまざまなお答えがあるでしょう。 しかし、答え方としてはなんらかの「目印」を元にするのが普通ですよね。 部屋の家具であったり、大きな建物を基準にしたりすることが普通です。

しかし、私たちは「目印からの位置」だけではなく、「位置そのもの」を脳で知ることができるのです。「位置」を把握するための細胞、今年のノーベル賞はこの発見に送られました。

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ポイント① ある場所にいるときだけ活動する細胞が脳にはある!

「場所細胞」の発見 ~ジョン・オキーフ先生~

オキーフ先生は脳にその秘密があると考え、ラット(ネズミの一種)で実験を行いました。

ちょっと可哀そうですが、まずラットの脳の海馬とよばれる場所に、細い電極を何本か刺します。電極は脳の神経細胞に刺さっています。神経細胞が働くと、信号として電気が細胞に流れます。(ビリビリ)この電気が電極に流れるのを記録できるようにします。

そこで、ラットが小さな部屋を動き回ると、ある場所にいるときだけ活動する細胞がありました。例えば、下図の黄色で示した場所にいるときだけある細胞が活動する、といった具合です。

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(ノーベル財団のプレスリリースより)

どうやら、場所ごとに対応する細胞集団があるようです。 オキーフ先生はこの細胞を「場所細胞」と名付けました。 細胞が場所の判断しているということは驚きの事実でした。

しかし、「自分」と「全体」の関係が分からないと、正確な位置はわかりません。 「全体」をどうやって知るのでしょうか?

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ポイント② 位置の「基準」をつくる細胞が脳にはある!

「格子細胞」の発見 ~マイ・ブリット・モーザー先生、エドバルド・モーザー先生ご夫妻~

モーザー夫妻が注目したのは、嗅内皮質(きゅうないひしつ)。場所細胞がある海馬のすぐ隣にあります。

モーザー夫妻はラットの嗅内皮質に電極を刺して脳の活動を測定しました。 そしてラットを部屋の中で動き回らせたところ、細胞は、今度は部屋の複数の場所で活動することが分かりました。

その部屋の場所を線でつないだ時、現れた模様にモーザー夫妻は驚いたことでしょう。 出てきた模様は、なんと六角形!(私は「三角形と呼んだ方がふさわしいと思うのですが......)。 脳がつくる地図は、六角形のマス目が基準となっていたのです。 この地図をつくる細胞をモーザー夫妻は「格子細胞」と名付けました。

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(ノーベル財団のプレスリリースの図を一部改変)


隣り合った「格子細胞」と「場所細胞」はネットワークをつくっています。 格子細胞がつくった蜂の巣のような六角形の地図を基準に、場所細胞が位置を判断することで、上空から眺めるように自分の位置を正しく知ることができるのです。

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これらの研究はラットを対象にして行われました。 私たちヒトでも近年、場所細胞と格子細胞が見つかっています。 方向音痴を治すには、まだまだ研究が必要なようですが もしかしたら将来、道を覚える効果的な方法が見つかるかもしれませんね。

「私はどこにいるのだろう?そして、どうやってそれが分かるのだろう?」

この問いはイマヌエル・カントのような偉大な哲学者や科学者をはじめ、多くの人を悩ませてきました。今年ノーベル賞にこのテーマが選ばれたのは、この哲学的な問いに、科学の力で一定の答えを出したからかもしれません。

今年の受賞者のおかげで、私は確信をもってこう言えます。

「私は、ここに、います。 場所細胞と格子細胞のおかげで、間違いなく、ここに、います。」

 

※10月10日20時ごろ、一部を修正しました。(編集管理人)

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