皆既月食が赤い理由と、「第2の地球」の探し方

(2018年1月31日の皆既月食に合わせ、一部、加筆修正しました)

赤い月を見ながら、「第2の地球」の姿を想像してみましょう。

2015年4月4日(土)に皆既月食があります。夜9時前後という、多くの人にとって観察しやすい時間帯。春休みの思い出づくりに、夜桜見物のついでに、ぜひぜひ赤くて暗い不思議な月を見上げてみてください。

(2018年1月追記)
2018年1月31日(水)の22~23時にかけても、全国的に好条件の皆既月食があります。詳しくは、国立天文台のページをご参照ください。
https://www.nao.ac.jp/astro/feature/lunar-eclipse20180131/(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
(追記、ここまで)

で、せっかくの月食を、より楽しく見るために。宇宙のどこかにあるかもしれない「第2の地球」を探す方法を、月食に絡めて説明していきます。分かる人にネタバレをしておくと、ケプラー宇宙望遠鏡とかの話です。

皆既月食の観察に必要な情報は、国立天文台のページに任せて省略。頭の中で、宇宙を旅しながら話を進めます。みなさんの想像力が頼りです。まずは、皆既月食で赤い月が見える理由を、月面に立って考えるところからです。

地球の影の中で赤く輝く月食中の月。ではこの時に月面に立ったら?

地球の"夕焼け"浴びた赤い月

地球の影に入った月には、太陽の光が届かないはず。なのになぜ、暗いながらも赤く見えるのでしょうか。よく、こんな図で説明されます。「地球の大気に入った光が、屈折して、赤だけ月面に届くんだ」と。

皆既月食が赤く見える理由(国立天文台提供)

うーーん、分かったような、分からんような。

そこで、です。月食の時に月から地球や太陽を見たらどう見えるのか、ちょっと想像してみましょう。さぁ、私たちは地球を飛び立って、月食が起こる直前の月面にやってきました。

空にはきっと、月面を照らす太陽が浮かんでいます。そして、そのすぐ近く、太陽の手前に夜の地球が見えています。地球の背後から太陽が月を照らすので、地球からは満月に見えるわけですね。

月食の時間になると、どうなるでしょう?地球が太陽を隠してしまいました。(地球から見たときは月が欠ける「月食」ですが、月から見ると太陽が隠されてしまう"日食"ですね。)こうなると、太陽の光が届かない月面も真っ黒、と思いきや・・・

月食直前(左)と月食中に月から地球と太陽を見たイメージ

もしかしたら、右図のように見えるのかもしれません。地球の縁に、後ろに隠れている太陽の光を受けた大気が、ほんのり赤く輝いているのです。

みなさんはきっと、夕焼けを見たことがあるでしょう。太陽が沈んだ(=地球に隠れた)あと、西の空が赤く染まります。これは、直接は見えなくなった太陽の光を受けて輝く地球の大気そのもの。そして、夕焼けを浴びたみなさんの顔はほんのり赤く染まっているはずです。夕焼けが赤い理由はこちらへ。(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

月食中に月から見た地球のイメージと地球の夕焼け

皆既月食の赤い月も、これと同じこと。地球の夕焼けを遠くで浴びた月面が赤く見えている、と思うと理解がしやすいのではないでしょうか。

ここまでの話は、国立天文台のこちらの動画で復習すると分かりやすいと思います。(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

(追記ここまで)

もっと遠くへ行き、時間を進めると?

さて、次はいよいよ「第2の地球」探しです。またまた、みなさんの想像力が頼りです。

今、私たちは月食が起こっているときの月面にいます。では、月面も離れて、地球や太陽から遠ざかっていったら、地球や太陽はどんな風に見えるでしょうか?地球は太陽よりずっと小さいので・・・。きっと、こんな風に見えるはずです。

月食中に地球からもっと離れて眺めると・・・

大きな太陽の手前に、小さな地球が黒く見えています。(月はもっと小さく、地球と重なっているので無視することにします)。

では、ここで移動をやめて、時間を進めます。地球はどうなるでしょう?動いてどこかに行ってしまいますよね。でも、その場でずっと待っていたら・・・。1年後には地球がまた同じ場所に戻ってきます。つまり、1年に1度、太陽の手前を横切る地球を見ることができるのです。

時間を進めてみると・・・

太陽系外惑星をこの方法で発見、分析

この明るさの変化は、このままさらにずーーっと離れて、太陽が地球の夜空に輝く恒星と同じように小さな点になってしまっても、観測することができます。逆に言えば、夜空に輝く星の周りを回る惑星も同じ方法で発見できるということ。この方法を「トランジット法」と言います。そして、実際にやっている望遠鏡の代表格がケプラー宇宙望遠鏡です。

ケプラー宇宙望遠鏡は2009年の打ち上げ以来、はくちょう座のごく限られた範囲にある約10万個の恒星の明るさの変化を観測しました。その結果、太陽以外の恒星の周りを回る「太陽系外惑星」の発見数が、計約4000個(候補天体も含む)にまで急増したのです。

太陽系外惑星の発見数(ケプラー探査機以外も含む)

そしてトランジット法では、その惑星の環境をさぐることもできます。恒星が暗くなる度合いで、手前を横切っている惑星の大きさが分かります。また恒星が暗くなる周期で、惑星の公転周期が分かります。そこから恒星と惑星の距離を計算し、表面温度などを推定していくことができます。

トランジット法の観測データから分かること(2018年1月更新)

ケプラー探査機が発見した惑星には、液体の水が存在できる温かさで地球よりもやや大きいと考えられる、「スーパーアース」タイプの天体がいくつか含まれています。

ケプラー22b星の軌道と想像図。主星(中心にある恒星)からの距離が地球と似ている

トランジット法の可能性

さて、ここでもう一度、太陽の手前を地球が横切っているところを思い出してみましょう。さらに、地球ではなくて月が横切った場合はどう見えるか、想像して比べてみましょう。まず、月が地球に比べて小さいことが分かりますね。

太陽の手前に地球がある時(左)と月がある時の違いは?

そして良く見ると、大きさ以外にも違いがあることに気が付くでしょうか?ヒントは、皆既月食が赤く見える理由と関係があります。地球にある赤い縁が、月の周りにはありません。なぜでしょう?地球には大気があり、月には大気がほぼないからです。

これはつまり、惑星が手前を横切っているときの恒星の色の変化から、大気の有無や組成を分析することができることを意味しています。ただし、地球サイズの系外惑星で実際に分析するためにはケプラー宇宙望遠鏡以上の精度が必要。ここは、日本などがハワイで建設中のTMT望遠鏡の将来的な活躍に期待したいところです。

皆既月食の夜に空を見上げて

みなさんの想像力を頼りに進めてきた、「第2の地球探し」のお話。一言でまとめると、「天体が重なる『食』は、宇宙を詳しく知るチャンス」というところでしょうか。

月が地球の影に隠れる皆既月食は、逆から見れば、太陽の手前を地球が横切っている"日食"なんだ、というところから始まりました。

そして、もしかしたら、もっとずっと離れたところに、本当にもしかしたら、ですよ、

地球によく似た星があって、そこでは宇宙を観測する技術がとても発達していて、知的生命体が夜空に遠く輝く「太陽」を観測しながら、「今、あの星の手前を惑星が横切っているな。色の変化からすると、水蒸気や酸素を含む大気がありそうだ」なんて考えているかもしれません。

宇宙のどこかでもしかすると・・・

本文中の図はイメージ補助のため、地球や月の大きさ、地球の大気の厚さなどを強調してあります。

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