2015年ノーベル物理学賞発表!「ニュートリノ振動の発見」で梶田隆章博士ら

このエントリーをはてなブックマークに追加

「私たちは、まだ世界のすべてを知ることが出来ていない」。

その証拠を示した発見に、ノーベル物理学賞です。

2015年のノーベル物理学賞は、東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章博士と、カナダ・クイーンズ大学のアーサー・マクドナルド博士が受賞しました。受賞テーマは、「ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノに質量があることを示したこと」です。


20151006tani_kajita.jpg

梶田隆章博士(東京大学提供)

20151006tani_mcdonald.jpgのサムネイル画像アーサー・マクドナルド博士(Photo: K. MacFarlane. Queen's University /SNOLAB)

簡潔に言うと、「ニュートリノ」という目に見えない粒子の振る舞いを観測し、人類がそれ以前に観測してきた物理現象から組み立てた「標準理論」に、まだ足りない部分があることを明らかにしたのです。目の前の物質から宇宙全体までに対する、私たちの理解をあらためる発見でした。

【ニュートリノって何?】

ニュートリノは素粒子の一種。物質をつくる基本の(=つまりこれ以上は分けることができない)、粒のようなものです。目に見ることができず、人体や構造物、地球などをスルスルとすり抜けてしまうため、(人体を毎秒100兆個が貫通していると計算されています)、観測が難しく、"オバケ"や"幽霊"に例えられます。

ニュートリノには3種類(反粒子含まず)あって、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノといいます。太陽の核融合で生まれたり、大気や地中で発生したり、人工的に発生させることもできます。

20151006_tani11.pngのサムネイル画像

標準理論の素粒子たち。ニュートリノは3種類

【ニュートリノ振動とは】

ニュートリノの"変身"です。先ほど紹介した、電子、ミュー、タウの3種類が、空間を飛び交っている際にそれぞれに姿を変えることです。

T2Kimage01.jpg元科学コミュニケーター林田美里による、2011年7月15日のブログより



【割合が違う!?=梶田博士の発見】

梶田博士らのグループの観測対象は、「大気ニュートリノ」。大気に、宇宙線(=太陽や、宇宙の彼方から飛んできたエネルギーの高い粒子)が衝突したときに生じ、地上に降り注ぎます。

 AKI_8704.JPG

大気ニュートリノ。宇宙線が大気中の原子核と反応し、ニュートリノ(オレンジ色)が地上に降り注ぐ。未来館の展示より

梶田博士らのグループは、地上での観測で、電子ニュートリノとミューニュートリノの割合が、理論から導かれた予想と異なっていることを発見しました。

理論では「ミューニュートリノ:電子ニュートリノ=(だいたい)2対1」となるはずだったのに、ほぼ同じくらいの数が観測されたのです。

この時点で、2つの可能性がありました。ひとつは、「ミューニュートリノが電子ニュートリノや、タウニュートリノに変わった」。もう一つは、「ミューニュートリノがなくなった」。前者であれば、ニュートリノ振動です。でも、後者は、ただ消えた?だけです。

それは、タウニュートリノの観測が難しいためでした。観測をしたのは、岐阜県にある「スーパーカミオカンデ」という施設。見えない、捕まえられない粒子を観測する、世界でも最先端の技術が結集されていますが、「タウニュートリノが観測できない」という弱点があったのです。

20151006tani_2.pngのサムネイル画像

スーパーカミオカンデの内部(名古屋市科学館提供)



【でも、消えてはいない!=マクドナルド博士の発見】

その「もう一つの可能性」を打ち消したのが、カナダのマクドナルド博士らのグループでした。

彼らの観測対象は、太陽ニュートリノ。施設はスーパーカミオカンデと異なり、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの全種類をとらえることができました。ミューニュートリノとタウニュートリノが区別できない、という弱点もありましたが、観測できた総数と理論に矛盾がなかったので、「ニュートリノは消えない」と結論づけることができたのです。



【ニュートリノ振動で、質量があることが分かる理由】

光は粒であり波であると聞いたことがあるかもしれませんが、ニュートリノも粒でもあり波の性質も持っています。ニュートリノは量子論をふまえて考えると、異なる質量を持つ複数の波が重なり合った状態として表されます。

このニュートリノの波は、軽い波の方が重い波よりも速く進むので、進むにつれて2つの波に「ずれ」が生じます。つまり、飛んでいるうちに重ね合わせた波の状態が変わるため、ニュートリノの種類も変わってしまうのです。

具体的には、大気中で生み出されたミューニュートリノは、ある程度飛んでいくとタウニュートリノに変わり、さらに進むとまたミューニュートリノに戻るというふうに、「振動」しながらニュートリノの種類が変わっていくんです!

仮に、ニュートリノの質量が「ゼロ」だとして考えると......。

重なり合った波が全て同じ速度で進んでいくため、波形が変わることがなく、振動(=変身)する理由を説明できないのです。

※2015年10月7日午前、【ニュートリノ振動で、質量があることが分かる理由】の部分を全面的に差し替えました。10月6日23時に公開した内容には、解釈の誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

【「標準理論」はどうなる?】

標準理論とは、この世界の自然法則を説明する理論。これまでのさまざまな物理学の積み重ねで、築き上げられてきました。

しかしそれは、「ニュートリノに質量がない」という前提の上でつくられた理論。ニュートリノ振動が確認された以上、それを包括する新たな理論を組み立てていかなくてはなりません。

「世界の自然法則を理解したい」という、人類の根源的な好奇心。まだまだ奥は深そうです。しかし、この「ニュートリノ振動の発見」は、その奥深い世界への、新たな大きなステップになったのです。



【今日はここまで】

未来館のノーベル物理学賞チームの福田、ヘイチク、雨宮をはじめとする、多くのスタッフと協力しながら書いてきましたが、ここらで時間切れです。

この続きは、未来館のフロアや、ブログなど、さまざまな形で発信していきたいと思います。

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

この記事への2件のフィードバック

「逆に考えていくと、「振動している以上、質量がある」ということになるのです。」は変だと思います。光(質量ゼロ)も電磁波ですので,振動してますし…。

T.H.さま

編集管理人の詫摩と申します。
お返事が遅くなってしまい、申し訳ありません。
また、このたびはご指摘をありがとうございました。

本日のお昼頃に、修正をして原稿を差し替えました。

今後とも、ご愛読、ご指導、よろしくお願い申し上げます。

詫摩雅子

コメントを残す