「漢方で元気復活!忍者の携帯食"兵糧丸"をつくってみた」の巻

一見チョコクランチ...

これは忍者の携帯食"兵糧丸"なるものです。
 

 

未来館では2016年7月より企画展「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」 (リンクは削除されました)を開催しています。

忍術書からうかがえる忍者が持っていた能力や忍術を科学的な視点からも紹介されています。また、実際に心・技・体を鍛える修行体験ができることも魅力です。中でも私が最も興味をもったのは、忍者が持ち運んでいた"携帯食"です。

例えば、梅干しがベースでのどの渇きを抑える「水渇丸(すいかつがん)」、そば粉やもち米をまぜ、腹持ちを良くした「飢渇丸(きかつがん)」などが紹介されています。

水渇丸と材料

そして、私が一番惹かれたのが、 "兵糧丸(ひょうろうがん)" 。

 

カロリー補給だけでなく、漢方薬にも使われる材料である"生薬"の効能による気力回復をねらった携帯食なのです。いったいどんな生薬が使われていて、どんな味がするのでしょうか。

材料と作り方は、企画展でも販売しているこちらの公式ブックに載っています。

名軍師・山本勘助が書いたとされている『老談集』のレシピを基に、三重大学の久松眞氏が約1/4のスケールで試作した分量です。

ほとんど氷砂糖なのでかなり甘そうですね。氷砂糖、もち米、うるち米は体や動かすエネルギー源です。その他の蓮肉(ハスの実)、山薬(長芋)、桂心(シナモン)、ヨクイニン(ハトムギ)、朝鮮人参が、漢方薬でも使用される生薬です。

 

漢方薬の材料でもある生薬(漢方薬に使われる薬草)のいくつかは、日本にも自生しており、医療の専門家ではない一般の人の間で薬草の効能が伝承され、昔から経験的に使われてきました。忍者ゆかりの地、三重県の北西部に位置する「甲賀」は薬草の産地で、薬の知識が豊富な忍者は薬売りとして全国で忍の活動にあっていたそうです。

 

 

様々な生薬を含む兵糧丸は、いったいどんな効果が期待されるのでしょうか。

 

蓮の実は、「滋養強壮」、「疲労回復」、「下痢止め」、「緊張緩和」に用いられる生薬です。

成分としては、糖質が豊富に含まれているため、体を動かすエネルギー源になります。さらに、豊富に含まれるビタミンB1は、体内での糖質の分解を助け、効率よくエネルギーへと変換するサポートをする働きがあります。精神の安定に関わるカルシウムや、高血圧の予防や水分の排出を助ける作用のあるカリウムなどのミネラルも豊富に含まれています。

 

 

山薬(長芋)は、漢方では「滋養強壮」、「胃潰瘍」、「食欲不振」に用いられます。

成分としては、デンプン分解酵素のアミラーゼやジアスターゼを含むため、消化を促進し、栄養分の吸収率を高めます。また、ねばねば成分には胃の粘膜を保護する作用が知られています。

 

 

桂心(シナモンの仲間)は、漢方では「鎮静・鎮痛」、「整腸効果」、「血行促進」、「発汗」、「解熱」、「風邪予防」に用いられます。風邪のひきはじめに飲まれる桂枝湯や葛根湯にも入っている生薬です。

体を温める作用があるため、発汗を促し、血流が良くなります。シナモンの甘くてスパイシーな香りは桂皮アルデヒドという成分で、食欲を高める効果もあるようです。

 

 

ヨクイニン(ハトムギ)は漢方では体の余分な水分を排出する働きがあるとされ「抗炎症」、「肌荒れ」、「むくみ」、「イボ取り」に用いられます。

成分としては、米の2倍以上のタンパク質、そして食物繊維、カルシウム、ビタミン、鉄などを豊富に含み、栄養価の高い食材と言えます。

 

 

朝鮮人参は、漢方では体を温めて新陳代謝を促し、「滋養強壮」、「疲労回復」、「鎮痛」、「整腸効果」に用いられる生薬です。

 

 

つまり、"兵糧丸"は「滋養強壮」、「鎮痛」、「救急医薬」、「エネルギー補給」、「疲労回復」「健康維持」が期待されるスーパー携帯食なのです!!
このレシピから察するに、忍者は生薬の効能を使いこなしていたのかもしれません。

 

 

注)薬草は古くから経験的に人で用いられてきて、その効果・効能が伝承されてきました。近年の研究により、薬草の効果・効能の一端が科学的に解明されつつありますが、伝承されてきた効能・効果を完全に解明するには至っていません。

 

 

 

「兵糧丸を食べてみたい!」という気持ちが収まらなくなったので、家にある材料やスーパーなどで手に入れた食材で作ってみることにしました。

 

朝鮮人参は高価なので、朝鮮人参茶のエキス粉末で代用しました。

また、もち米とうるち米は分量も少なく、味に影響はないと判断し、自宅にあった玄米を使用しました。

作り方

① すべての材料を粉末にする

江戸時代では薬研や乳鉢を使って粉末にしていたそうですが、フードプロセッサーを使用すれば簡単に粉にすることができます。

フードプロセッサーで粉末にした後(ヨクイニンと玄米とは混ぜて粉にしました)

② 氷砂糖以外の材料に適量の水を加え、煎じる

煎じるとは、水を加えて材料の成分を煮出すことを意味しますが、どのくらいの分量か明記されていなかったため、結局約300mL加え、約10分煎じました。色は茶色で、桂心(シナモン)の香りが強いです。煎じ終えたあとは、どろ~としています。

水を入れる前の様子(山薬(長芋)はすり下ろしました)

③ 氷砂糖に適量の水を加え、弱火で温めて煮詰める

ほんの少しの水で十分に溶けるので、ここで水を入れすぎないのがポイントです。私は水を入れすぎてしまい、後で水を蒸発させるのにかなり時間がかかりました。

④ ②と③を合わせて、弱火で煮詰める

写真のようにどろどろです。どれくらい水分を飛ばしたらいいのか、レシピに記載はありません。

冷めたら砂糖が固まるかなと思い、ひとまずクッキングシートに広げましたが(写真)、丸めるためには粘度が不十分でした。鍋から取り出せないくらいの粘度になるまで、水を飛ばす必要がありました(反省)。

表面がぶつぶつしているのは桂心(シナモン)のつぶです。つぶでも問題は特にありませんが、粉の方が舌触りが滑らかになりますね。

⑤ 丸めて、乾燥して固める

粘度を上げるために静置して約4時間後に、ようやく丸めることができました。写真の兵糧丸は表面がごつごつパリパリです。これは④の行程で十分に水を飛ばせておらず、しばらく乾燥させていたため、表面だけがパリパリな状態で丸めなければいけなかったからです。鍋で煮詰めながら水を飛ばしておくことがポイントでした!

乾燥のしやすさを考慮し、私は直径約2cmの大きさのボール状に丸めましたが、次の日にはほどよく内部がしっとりし、結果的にちょうどいい大きさでした。

の状態からさらに一晩乾燥させて完成!!

さあ、待ちに待った味見の時間です!同僚にも食べてもらいました。

 

シナモンの味がしっかり効いていて、見た目よりも柔らかくおいしいです!表面は乾燥していますが、中はねっとりしています。同僚は「ミルクティーに合いそう!」「おいしい」と好評でした。

忍者の携帯食を食べたら、忍者が身近に感じてきました。

 

材料集めが少し大変ですが、材料とフードプロセッサーがあれば簡単に作れます。

兵糧丸作りは水分量がポイントです!焦がさないように水分をしっかり飛ばして、ぜひ作ってみてくださいね。

【参考文献】

「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」公式ブック:企画展会場内の「ニンジャ百貨店」のほか、ネット(朝日新聞ショップ)でもお買い求めいただけます。ネット販売はコチラ。 (リンクは削除されました)

厚生労働省「統合医療」情報発信サイト:https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

編集部注)この記事の公開時には「山薬(長芋)」の項で「ねばねば成分のムチンは」としておりました。長年、日本では植物のねばねば成分も「ムチン」と呼んでおりましたが、動物のムチン(ぬめりやねばねばのもととなる成分)と植物のねばねば成分は異なる物質であるため、この項の文章を修正しました。(2018年9月12日)

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