2016年 ノーベル化学賞を予想する① 分子が分子をつくる!

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こんにちは!梶井です!

今年から科学コミュニケーターという偉くもないのに偉そうな肩書きでノーベル化学賞の予想をするので、だいぶ緊張しています。

さて、そんな私が悩みに悩んだ末、一押しするのはこちら!


自己組織化分子システムの創出と応用


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藤田 誠 (ふじた まこと) 教授
1957年生まれ
東京大学大学院 工学系研究科 所属
(写真は藤田先生のご提供。
藤田研究室のURLはこちら: http://fujitalab.t.u-tokyo.ac.jp/)




藤田先生は、自己組織化分子という研究の開拓者として化学界をリードしておられます。その中でも、2013年に科学論文の最高峰であるNature誌に投稿された、「結晶スポンジ法」に関する研究は圧巻でした。
当時、私は大学院に在籍しておりましたが、めったなことじゃ人様の論文を褒めない私の指導教官が一目見て「これはすごい!」とうなっていたくらい化学界が盛り上がった、そんな大事件でした(M. Fujita and co-workers, Nature 2013, 495, 461-467.)。

※ 後にこの論文内の一部データに誤りがあることが、他研究グループによって明らかにされました。しかし、結晶スポンジ法の有用性が否定されるものではなく、この素晴らしい技術が発展するために必要な課題を明らかとした、重要な議論でした。


基礎研究のお話なので少し難しいですが、順をおって説明いたします。



【自己組織化分子とは?】


例えば、最近の藤田先生の研究にこのようなものがあります。Chemという化学雑誌の創刊号の表紙を飾った分子です。


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(図は藤田先生のご提供。論文はこちら: M. Fujita and co-workers, Chem 2016, 1, 91-101.)


「萌え」


全部で13種類ある「アルキメデスの多面体」のうちの二十・十二面体を再現してしまった、つまり化学と数学を目に見える形で繋げてしまった、とても萌えポイント満載の分子です。


目で見えるとつい書いてしましましたが、実際に目では見えません。分子としては非常に大きなサイズですが、直径は8.2 nm (1 mの10億分の1が1 nm )なのです。


では、どうやってこんなカッコいい、美しい幾何学的な構造をそんなスケールで創ったのでしょうか?


残念ながら、人の力だけではこのようなものは創れません。




分子たちの力を借りるんです!



上の球状分子が、おもに橙色の球(金属イオン)と、2つの球をつないでいる緑色の棒(分子)の2種類の部品からできていることに気付かれましたか?
これらの球と棒は、配位結合という力で、決まった場所で互いにくっつくことができます。


そんな2つの部品を混ぜて環境を整えるだけで、あら不思議!あんなカッコいい分子ができます。


このように、互いにくっつくことのできる分子やイオンを適切な環境においてあげれば、まるで意思をもっているかのように集まり、その環境での最適な形を作ってくれます。これを「自己組織化」といいます。



この自己組織化という現象、実は生物の体のなかにあるタンパク質などで頻繁に起こっています。


では、この現象を人が利用したらどんなことができるでしょうか?


創りたいものを思い浮かべ、必要な分子を考えて作り、組みあがりやすい環境を整えてあげるだけで(もちろん、これらの過程で化学者はもの凄くがんばりますが)、欲しいものを手に入れることができるかもしれない!!


分子たちを無理やりくっつけて新たな分子を創っていた従来の化学のなかで、自己集積化の重要性に気付き、研究分野として切り開かれた方こそが、藤田先生なのです!



「カッコいい大きなロボットを作りたい!でも、凄い装置や溶接のプロフェショナルが必要だ!どうしよう!」と悩んでいる人たちの前に颯爽と化学者が現れ、とっておきの部品たちをばら撒きました。なんとその部品たちが、戦隊ヒーローの合体ロボットよろしくどんどん組み上がっていくではありませんか!!そんな妄想をしてみたり・・・



この自己組織化という言葉、とても謙虚な言い回しだと思います。
「どんな分子を用意すれば良いのか」という研究者たちの努力なくしては成し得ないにも関わらず、分子に主役を譲った表現のような気がするからです。改めて、人の力を超越する力のようなものの存在を覚えます。
どなたが「自己組織化」という言い方を初めて提唱されたのか、そして藤田先生がどんなお気持ちで「自己組織化」という言葉をご使用されているのか気になります。



【どんなことができるの? 〜例えば、結晶スポンジ法〜】


さて、分子やイオンの自己組織化という力を借りることによって、簡単に新たな分子が得られることは分かりました。では、こうしてできた自己組織化分子は、どういうものなのでしょう?



その見た目以外にも面白いことがあるのでしょうか?



例えば、先ほどの研究のような、中身がスカスカな自己組織化分子の中に他の分子を閉じ込めてみるというのはいかがでしょう(実際には中身はたくさんの分子で満たされていますが、図では消されています)。


分子をいじくりまわすという点において化学者は無敵なので、とある別の分子が「孔があったら入りたい!」と思ってくれるような、魅力的な孔ボコを創ることができます。 ※恥ずかしくて入るわけではないです。


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↑イメージ。


外では動き回っている分子(上のイメージ図では男の子)もお気に入りの孔ボコ(イメージ図の部屋)の中ではじっとしています。私達は、中でしか見せてくれない一面を観察したり、その形を変えたりすることができます。


このような「孔」をもつ構造体(多孔性物質)の研究は、昔から世界中でされていますが、自己組織化分子を用いた応用例に、藤田先生のグループが生み出した結晶スポンジ法があります。


詳しい話は省きますが、分子がじっときれいに整列した単結晶というものを用意することで、その分子の形を正確に知ることが出来ます。単結晶X線構造解析といいます。


分子の形を知ることは、その分子の性質や反応メカニズム、そして生命現象などの解明などにつながる重要なことです。 なので、あらゆる分野の科学者が分子の形を知りたがっています。


しかし、この単結晶を作ることが非常に難しい!タンパク質などは結晶にするのが特に難しく、宇宙にまで持って行っていタンパク質もあります。




単結晶化は、科学者が100年間も悩んでいるほどの問題です!



そんな中、下図左のように孔を規則正しくもつ単結晶が、自己組織化によって簡単に得られることが分かりました。では、まるでスポンジに水が染みこむように、下図右のよう別の分子を捕まえることができれば・・・?


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分子(男の子)がじっと規則正しく整列した状態を簡単に作ることができる、すなわち中の分子の形を簡単に知ることができるんです!これが結晶スポンジ法です!!


実際に、最近、藤田先生の研究グループが結晶スポンジ法によって形を解き明かした分子に、astellifadieneという天然分子があります。緑色の壁で囲まれた孔の中に捕まっているのが分かると思います。


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(図は藤田先生のご提供。論文はこちら: M. Fujita and co-workers, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 5785-5788.)



・結晶になりにくい分子だけではなく、結晶にならない液体のような分子の形も分かる!!
・結晶を作らずに済むので、ごく微量のサンプル量があれば解析できる!!





などなど、結晶スポンジ法が与えたインパクトは計り知れません!しかし、結晶スポンジ法をはじめとする藤田先生の研究について本気でお話するためには、科学コミュニケーターブログの記事1本や2本では足りません・・・もう少し詳しい解説をご希望の方は、ケムステさんの記事などをご参考にして下さい。
http://www.chem-station.com/blog/2013/03/okok.html





【おまけ】梶井の超個人的な推薦理由


毎日毎日、愛しの結晶ちゃんたちが砕け散るさまを見て、「こんな研究やってられるか!」とやさぐれていた私の大学院時代、藤田先生や京都大学の北川進先生、カリフォルニア大学のOmar M. Yaghi先生らの論文は「多孔性物質ってこんなに面白いんだぜ!」といつも光輝き、私を元気づけてくれました。


「そんな先生方の研究を知ってほしい!ノーベル賞をとって欲しい!」そんな思いで、今回のノーベル化学賞に一押しさせて頂きました。


また、ノーベル賞は実用化による社会貢献が重視されるので、藤田先生の研究はもう少し先のようにも思われます。結晶スポンジ法も、まだ発展中の技術です。


化学、特に分析に関する分野はこれまで、物理学や数学の力を借り、新しい理論や装置を生み出すことで発展してきました。しかし、結晶スポンジ法をはじめとする藤田先生の研究は、「分子を知り、新たな分子を創る」という化学の力によって化学の問題を解決している、まさに化学賞を受け取るのにふさわしい内容だと思います。


最後となりましたが、お写真や研究データを快くご提供してくださった、藤田誠先生にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。






2016年ノーベル賞を予想する
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