2016年ノーベル物理学賞を予想する① アト秒で切りひらく電子の世界

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こんにちは!科学コミュニケーターの坪井です。

 梶井の化学賞の予想に引き続き、物理学賞の予想、第一弾!早速予想します!

私の予想は、0.000000000000000001秒(10-18 秒, アト秒)という、とてつもなく短い時間でおこる物理現象を「見る」ための方法を確立した、こちらのお二人です!!!!

 


アト秒物理学の発展に対する貢献


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(左)
カナダの物理学者、ポール・コーカム(Paul B. Corkum)博士
1943年生まれ。
オタワ大学所属。
アト秒だけ出る光の波(アト秒パルス)の発生原理を説明する「スリーステップモデル」を1993年に提唱。

(右)
ドイツの物理学者、フェレンツ・クラウス(Ferenc Krausz)博士
1962年生まれ。
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、マックス・プランク量子光学研究所所属。
ウィーン工科大在籍時に、世界で初めてアト秒パルスの発生と計測に成功。

 

◆ そもそもアト秒ってなに?

1アト秒は、10-18 秒です。ちょーーーーーーーーー、一瞬です。

「マイナス18乗」なんて言われてもイメージ湧かないかもしれませんね。
100京分の1です。もしくは、10億分の1の10億分の1です。

なになに?余計にわからなくなった??
では、アト秒の短さを実感するため、地球の46億年の歴史を例に見てみましょう!

46億年は、秒に直すと0.15 × 1018 秒です。お、18乗が出てきました。
では、 46億年の1018分の1(100京分の1)はどれぐらいの時間になるでしょうか。
そうです、0.15秒です。

先ほどお話ししたように、1秒の1018分の1の時間が1アト秒なので、 地球の46億年の歴史を1秒という時間に置き換えて考えると、 この長ーい地球の歴史の中のたった0.15秒という時間が、1秒の世界の1アト秒 に相当します。

人間のまばたきは約0.3秒と言われていますので、私が今ここでパチっと一回まばたきすると、地球のこれまでの長ーい人生を1秒と置き換えて考えたとき、2アト秒に値します。

(編集注:S.K.さまのコメントを受けて、10月17日11時頃に「46億年は~」からの文章を加筆修正いたしました。S.K.さま、ありがとうございました)

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ほら!皆さんもパチっとまばたきしてみて!
そうそれ、地球のこれまでの歴史を1秒にすると、それが2アト秒です!

私の専門の地学では、46億年の地球の歴史について、数百万年くらいを単位として議論しています。1万年も違うとはいえ、100万年前と101万年前を区別するのは難しいからです。それなのに、まばたきレベルがわかるって、本当にすごいことです。

 

◆ どうやってアト秒の世界を見るの?

では、どうやってアト秒の世界を見ているでしょうか?

例えば、暗闇でバウンドしているボールを、パパパッ!と点滅するフラッシュを使って写真を撮るとこのような写真が撮れます。

20160823_tsuboi_03.PNG

この写真を見ると、ボールがどのように動いているのか、よくわかりますよね。
ということは、より速い物体の動きを見るためには、より高速に点滅するフラッシュを使って写真を撮れば良いのです。

そう、アト秒の世界を見るためには、アト秒の短さだけ光るフラッシュ(アト秒パルス)があれば良いのです。
アト秒の世界を見るためのフラッシュには、普通のランプから出る自然光ではなくレーザー光を使います。レーザー光とは、広がらずに真っ直ぐに進み、含まれる光の波の形が揃っている光のことを言います。

 


◆ アト秒の壁をコーカム博士とクラウス博士が超えた!!

レーザーが発明されたのは1962年。それ以降、次々と発光時間の短いレーザーが開発され、1986年には6フェムト秒に到達しました(1フェムト秒とは10-15秒、つまり1000アト秒です)。

順調にそのままアト秒に突入するかと思いきや、停滞期に入ります。そこから約10年間、人類はアト秒の壁を破ることができずにいました。今までの方法とは違うアプローチが必要になったのです。

(参考文献:新倉(平成16年)『再衝突電子を用いたアト秒の電子・分子動学』)

20160823_tsuboi_04.PNG 達成されたレーザーの最短発光時間と年代の関係
新倉(平成16年)『再衝突電子を用いたアト秒の電子・分子動学』を参考に作図

その壁を打ち破ったのが、コーカム博士です。フェムト秒レーザーを気体の分子に当てると、アト秒パルスが発生することを提案しました。これは、フェムト秒レーザーによって、外にはじき出された気体分子の電子が、分子に再衝突するときにアト秒パルスを発生するというものです。

そして、そのアト秒光パルス発生を実際に確認したのが、クラウス博士です。

 


◆ これによってどうなる?

アト秒パルスレーザーを使うことで、原子や分子の中での電子の動きを見ることができます。原子核の周りに電子があると当たり前のように学校で習いますが、実は誰もその動きを見たことがなかったんです。

原子核の周りにある電子の動きだけではなく、化学反応が起こっている時の原子の動きも見えるようになりました。

そうです、「見え」ます。

今まで理論的にわかっていても、誰も見たことのなかったものが...!!!

 

20160823_tsuboi_05.png

新倉(平成24年)『軟X線レーザーによる時間分解分子軌道イメージング』
戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)研究報告書の図1を元に作図
(この図は9月12日に追記しました)

おおお...!!すげー.........!!(ジワジワきません?)

アト秒が見せる新しい世界を切り開いた、コーカム博士とクラウス博士。お二人の大きな業績は、ノーベル物理学賞こそ、まさにふさわしいと思います!

 

2016年ノーベル賞を予想する
生理学・医学賞①その1 アレルギー反応機構の解明~IgEの発見編
生理学・医学賞①その2 アレルギー反応機構の解明~制御性T細胞編
生理学・医学賞② 小胞体ストレス応答のしくみを解明
生理学・医学賞③ 先天性難病 根治の可能性を拓く!遺伝子治療
物理学賞① アト秒で切りひらく電子の世界(この記事)
物理学賞② 移動するのは「情報」!量子テレポーテーション!
物理学賞③  アインシュタイン最後の宿題!重力波の直接観測
化学賞① 分子が分子をつくる!
化学賞② 一条の光できれいな世界を
化学賞③ 薬よ、届け!細胞よ、結集せよ!

(編集注:2017年6月23日15時半頃に「アト秒の壁をコーカム博士とクラウス博士が超えた!!」の章と、最後の図の出典元を追記しました。)

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この記事への2件のフィードバック

ノーベル賞が発表されてからで申し訳ありませんが、この予想記事の一部が少しわかりずらい気がしたので、ご参考までにお話させていただきます。(THE PAGEにも掲載されていて影響力が大きいと思いましたので)

↓下の表現ですが(数字が上付きに表記できないので、そこはご了承ください)

『46億年は、秒に直すと0.15 × 1018 秒です。お、18乗が出てきました。
つまり、46億年を1秒に縮めると、0.15秒が1アト秒になります。

人間のまばたきは約0.3秒と言われていますので、私が今ここでパチっと一回まばたきすると、地球のこれまでの長ーい人生から見て2アト秒に値します。』

この説明だと、一読しただけではパッと理解するのが難しいように思います。
この部分は、例えば

『46億年は、秒に直すと0.15 × ‘’10の18乗‘’ 秒です。お、18乗が出てきました。
では、 46億年の‘’10の18乗‘’分の1(100京分の1)はどれぐらいの時間になるでしょうか。
そうです、0.15秒です。

さっきお話ししたように、1秒の‘’10の18乗‘’分の1の時間が1アト秒なので、
地球の46億年の歴史を1秒という時間に置き換えて考えると、
この長ーい地球の歴史の中のたった0.15秒という時間が、1秒の世界の1アト秒
に相当します。

人間のまばたきは約0.3秒と言われていますので、私が今ここでパチっと一回まばたきすると、地球のこれまでの長ーい人生を1秒と置き換えて考えた時、2アト秒に値します。』

いかがでしょうか。


S.K.さま
コメントをいただきまして、誠にありがとうございます!このようなコメント、とても嬉しいです。対応が遅くなり申し訳ありませんが、ご指摘箇所の文章を修正いたしました。
ノーベル賞の発表前には、こちらのブログの内容を館内のサイエンスミニトークでも紹介していたのですが、実は、この部分はいつも説明が難しいなと感じていたところでした。
大変ありがたいご助言を誠にありがとうございました!!

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