2017年ノーベル物理学賞を予想する①
300億年に1秒しかずれない究極の時計!

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チクタクチクタク ーーー
地球上に生きる私たち皆が共有している"時間"
小数点以下18桁の精度で測る究極の時計を提唱・開発したのは...?


こんにちは!ノーベル物理学賞チーム、通称「ぶつりーず」の坪井です。

以前のブログで、アト秒科学を勝手にフライングで予想しておりますが、ノーベル賞にふさわしい研究はまだまだある!

(どれも「スゴすぎる!」ので、あれこれ紹介したくなるのです)

 

ノーベル物理学賞の予想ブログ記事第1弾は、0.000000000000000001秒の精度で時を刻む研究を紹介します。

 

テーマ:光格子時計の先駆的研究
受賞者:香取 秀俊(かとり ひでとし)博士

20170831_tsuboi_01.JPG

香取秀俊博士。1964年生まれ。
理化学研究所 香取量子計測研究室 招聘主任研究員、
東京大学大学院 工学系研究科 教授。

 

■ 1秒を刻むもの

あなたの1秒を刻むものは何ですか?

私の1秒を刻むのは、20歳の頃から毎日つけている腕時計の秒針。ブロンズの文字盤の上を、チクタクと1秒ごとに進む紫の針です。

もし1秒の長さが人によって違っていたら...?
私たちは、時を共有できません。

 

1秒の長さは、もともとは地球の自転の周期から決めていました。自転1回にかかる時間を1日としていたのです。そこから、1日の24分の1を1時間、1時間の60分の1を1分、そして、1分の60分の1を1秒としました。

しかし、のちに自転周期は変動することがわかってきたため、より普遍的な物理現象をそれまでの1秒にあてがう形で、世界の1秒が定義されています。

 

現在では、世界の1秒を刻むのは、セシウム原子時計。1967年国際度量衡総会によって世界標準時計に採用されてから、50年の時を刻んでいます。

時の刻み方の定義は至ってシンプル。セシウム原子が吸収するマイクロ波が、91億9263万1770回振動する時間が1秒と定めらています。これにより、10-15秒の精度、つまり、0.000000...と続けた小数点以下15桁まで正確に測れます。3000万年に1秒ほどのくるいです。

 

十分な精度のように見えますが、香取先生が提唱・開発した光格子時計は、これを上回ります。なんと、10-18秒の精度。300億年に1秒しかずれません。

宇宙が誕生したのは138億年前ですから、ビックバンから今までの時を光格子時計が刻み続けていたとしても、まだ1秒もずれていないことになります。

 

こんな究極的な精度の時計を使うと、何が起こるのでしょうか?

 


■ 光格子時計が拓く未来

逆説的ですが、光格子時計のような精確な時計を使うと、時間が共有できなくなります。

 

アインシュタインによる相対性理論によると、その人の立っている場所の高さと移動の速さによって、時間の進む速さが変わります。地上では重力が小さくなる高い場所にいる人ほど、また、ゆっくり移動する人ほど、速く時間が進むのです。

どれくらい速く進むかというと、高さ1cm、もしくは、秒速40cmの違いで、0.000000000000000001(10-18)秒ほど。時間の違いはごくわずかながら、椅子の上に立ったり歩いたりと、普通に暮らす中で現れてくる量です。

 

20170831_tsuboi_02.PNG高さや速度が違うと時間の進みが違う

 

精度が10-18秒の光格子時計を使うと、1cmでも高さが違う場所にいる人の間で、時間が異なることがわかるのです。逆にいうと、それぞれの時計のズレから、高さや重力、速度の違いを検出できることになります。これらをきわめて高い精度で測定するセンサーになり得るのです。

 

例えば、地下資源の探査のためのセンサー。標高が同じでも、地下に重い物質が存在すると、地表面での重力の値は大きくなります。そのため、複数地点の光格子時計が示す時間のズレから、地下にある鉱床などの重い物質の存在を掘らずに見つけられます。

また、火山噴火の前兆現象を見るためのセンサーにもなります。周囲の岩石より重いマグマが地表近くまで上昇してくると、地表面での重力の値が大きくなるからです。

 

光格子時計をこれからどう使うのかは、「大きなビジネスチャンスでもある」と香取先生はニヤリ。身の回りの時計すべてが光格子時計になったら...?

時間だけに留まらない、さまざまなことを私たちに教えてくれそうです。

 

そんな未来社会を変えるであろう光格子時計は、どのように時を測定するのでしょうか?

 


■ 光格子時計を創った3つのブレイクスルー

光格子時計は、セシウム原子時計と同じように、原子が吸収する電磁波の振動を数えて時を刻みます。違うのは、より振動の細かい光を使う点。セシウム原子時計の1秒は約92億回のマイクロ波の振動だったのに対し、光格子時計の1秒は、ストロンチウムが吸収する可視光が429兆228億422万9873.65回振動する時間です。振動が細かな光ほど、精度よく計測できるのです。

 

しかし、用いる電磁波を変えるだけでは精度向上に限界があります。セシウム原子時計では、多数の原子をまとめて測っているため、それぞれの原子がほかから影響を受けてしまっています。

 

「ならば、他の原子から影響を受けないように1つの原子で測ろう!」

そんな発想で作られたのが、単一イオン原子時計。原子1つを測ることで、理論的には10-18秒の精度の1秒を得られます。

しかし、たった1つの原子で測定するので、測定のゆらぎを取り除くために何回も何回もデータを取る必要があります。皮肉なことに、正確な1秒を測るために、何日もの時間がかかってしまうのです。

 

それをも解決したのが、香取先生の光格子時計。

光格子、という名前そのままに、光で原子を収納する格子を作るのが特長です。格子の穴一つ一つに原子を閉じ込めることで、ほかの原子の影響から守りながら、多数の原子を一挙に測ることを可能にしました。

その数なんと100万個。一瞬にして、1秒を10-18秒の精度で測定できます。光格子の中に原子を閉じ込めると、原子の状態が変わり、吸収する電磁波も変わってしまう問題がありましたが、原子の状態が変わっても吸収する電磁波が変化しない「マジック波長」を使って光格子をつくりました。

 

より細かな振動の可視光・光格子・マジック波長、この3つのブレイクスルーを経て、光格子時計の構想が完成したのです。

20170831_tsuboi_03.PNGレーザー光を使って、原子を格子の穴一つ一つに閉じ込める


香取先生がアイデアを発表した2001年当時、世界的には単一イオン時計がポストセシウム原子時計として主流でした。それを吹き飛ばす新しい風となりました。

2003年に香取先生が最初の実験に成功して以降、現在では世界中で光格子時計が実際につくられており、2019年に開かれる国際度量衡総会では、光格子時計こそが新たな「世界の1秒を刻む時計」になると期待されています。

これは、ノーベル賞が贈られる基準である「人類ための最大の貢献」となるのではないでしょうか?

 

また、ノーベル賞の歴史を見てみても、1989年には単一イオン時計の提唱が、そして、2012年にはその実験の成功が、それぞれノーベル物理学賞を受賞したテーマだったことを考えると、光格子時計を提唱・開発した香取先生がノーベル賞をとらない理由が見当たりません!

皆さんもそう思いませんか?

 

 


取材協力:香取秀俊先生
参考文献:
 日経サイエンス(2011), 日経サイエンス2011年01月号, p.10-13.
 理化学研究所 (2013), RIKEN NEWS No.388, p.6-9.
 安田正美 (2014), "1秒って誰が決めるの? 日時計から光格子時計まで", ちくまプリマ-新書.


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この記事への1件のフィードバック

ブログは、よく勉強してよく書いてあります。

米国には確か、70億年で1秒の誤差の原子時計があると言われていますが、300億年に1秒の誤差とは驚きました。

べき乗表示の文字は小さくて読めにくいです。 べき乗をキーボードで表示するには、「^」(Back Spa-ceキーの左側2番目)キーを使います。
例えば2の10乗は2^10と書きます。この方が読みやすく、変換の手間もかかりません。 

これはインターナショナルのやり方で、日本人には知らない人が多いので、何回も表記する時は、最初の表記で、2^10 (これは2の10乗と言うことです。以下同様) とでもかけばみんな解ります。

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