2017年ノーベル物理学賞を予想する②
重力波信号の初キャッチ!そこから何がわかる?

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ブラックホールが合体する音が聴こえる。
静かだと思われていた宇宙は、本当はもっと賑やかかもしれません。
「重力波を聴く」ことに成功したアメリカの巨大レーザー干渉計LIGOは、私たちに宇宙の新しい姿を見せつつあります。

こんにちは!今年度ノーベル物理学賞チーム、通称「ぶつりーず」に新しく加わった高知尾です。
今回は、ノーベル物理学賞の予想ブログ記事第二弾!さっそく紹介します。こちらです!

<受賞理由>
大型レーザー干渉計を用いた重力波の初観測による天文学への貢献

本来は、科学者の名前とその業績を挙げるべきなのですが、今回は受賞理由を先に予想してみました。 そして、このテーマならば、受賞するのは以下のお二方でしょう。

combined.jpg

左から、 キップ・ソーン(Kip S. Thorne)博士
1940年生まれ、カリフォルニア工科大学 名誉教授。
重力の理論をはじめとした相対論的宇宙論に貢献。
Photo by Jon Rou

レイナー・ワイス(Rainer Weiss)博士
1932年生まれ、マサチューセッツ工科大学 名誉教授。
レーザー干渉計によって重力波を検出する方法を提案。

本来であれば、干渉計に用いるレーザーの安定化技術に貢献されたカリフォルニア工科大学のロナルド・ドレーバー氏も挙げるべきところです。大変残念なことに今年の3月に永眠されました。ここに謹んでご冥福をお祈りいたします。

■2年つづけて候補に挙げる理由

ぶつりーずは昨年も重力波初観測での受賞を予想しています。

なぜ今年も予想として挙げるのか? 理由の1つは、初観測の時期です。ノーベル賞の選考プロセスでは毎年1月末に推薦者を締め切ります。アメリカの干渉計LIGOによる初観測成功の公式発表は2016年の2月11日でした。選考プロセスに間に合わなかった可能性があります。

理由はもう1つあります。物理学賞の対象領域は幅広いです。近年では、各領域に均等に授与できるよう(にかどうか定かではありませんが)、物性分野と宇宙・素粒子分野が順番に受賞しているという傾向があります。
2016年は物性(トポロジカル相転移)、2015年は素粒子(ニュートリノ振動)、2014年は物性(青色発光ダイオード)、2013年は素粒子(ヒッグス粒子)といった具合です。今年2017年は宇宙・素粒子に関する研究が受賞するという予想は妥当だと思いませんか?

さらにもう1つ、以下のようにLIGOによる重力波の観測の報告はこれまでに3回ありました。

初観測:2015年9月14日 9時50分45秒 (2016年2月11日発表)
2回目の観測:2015年12月26日 3時38分54秒 (2016年6月15日発表)
3回目の観測:2017年1月4日10時11分58秒 (2017年5月31日発表)
注:日時は協定世界時

これは、1回の観測のみならず、重力波を定常的に見つけられるようになったことの証左です。信号が3つ集まっていれば、天文学を始めるための統計量が集まってきていると言えます。
もはや、こう宣言できるでしょう。
「重力波を用いた新しい天文学が開闢した。」

そこで、受賞理由として「重力波の初観測による天文学への貢献」と予想したのです。

そもそも重力波とは何か?といったことやレーザー干渉計の詳細については、以下も合わせてご覧ください。3人の先生方の役割については、昨年の予想ブログをどうぞ。
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201609232016-7.html 
(昨年の予想ブログ)
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160213post-650.html 
(初観測の第一報ブログ)

■重力波で何がわかるの?

さて、天文学といえば、望遠鏡を覗いて恒星や惑星、遠くの銀河を調べる分野のことを言いますね。
LIGOで得られた重力波の信号から宇宙の何がわかるのでしょう。重力波は他の物質と相互作用しにくく何でも通り抜けてしまうので、可視光やX線などの電磁波では他の物質が邪魔して観測できない天体現象を観測することができます。例えば、星の中心部分、ブラックホール近傍、宇宙の始まった当初の様子などです。
しかし、今回得られた重力波の信号だけでは発信した天体の具体的な正体は特定できていません。では、今回の重力波信号からは何がわかって、何がわからないのでしょうか。
残りの紙面で、そのあたりを探っていきたいと思います。

1)得られた信号はどんな信号?
2)なぜ、ブラックホールの合体とわかるのか?
3)なぜ、天体の距離や方向がわかるのか?

1)得られた信号はどんな信号?

信号と言うとどんなものをイメージするでしょうか。
道路の交差点にある3色のあれもそうですが、一般には「離れた相手に情報を伝える力をもつ記号」です。今回、地球にいる私たちに重力波信号を送ってきた送り主は10億光年以上も離れた2つのブラックホールでした。
重力波の信号は、電磁波や音波、水面のさざなみと同様に波です。今回観測した重力波は100Hz程度なので、どちらかというと音に近い周波数です。私たちは初めて天体の声(歌声?)を聞いたということになります。

fig1.png

初観測で得られた重力波信号とブラックホールの合体の様子

LIGO ホームページより(説明の都合上、一部改変)

上の図が、人類が最初に観測した重力波の信号です。横軸が時間で、縦軸が波の振幅。下に描かれている2つの黒い球はブラックホールで、互いに相手の周りを回りながら徐々に近づき、速度をだんだん上げて、最終的に一つの大きなブラックホールになったことを示しています。ちょうど、フィギュアスケートの選手がスピンしながら、伸ばした手を縮めて、くるくるとだんだん速くなるイメージでしょうか(実際には重力波の放出で角運動量は保存していません)。その際、一つの波の間隔もだんだん狭くなっていくのが見てとれるかと思います。

2)なぜ、ブラックホールの合体とわかるのか?

さて、ここでひとつ疑問がわきます。信号を送った相手がブラックホールだと、なぜわかるのでしょうか? 重たい天体はブラックホールのほかにも中性子星などがあります。そもそも、初観測前にもっとも期待されていたのは、中性子星どうしの合体からの重力波だったくらいです。
中性子星かブラックホールかは、実は波形からわかります。合体前(前半)の波形を解析すれば、2つの天体の公転周期に加えて一般相対性理論を用いることで質量とお互いの距離がわかります。解析の結果、2つの天体は合体する寸前、数百キロメートルという近距離で光速に近い速さでお互いを回っていることがわかりました。この距離は、一般的なブラックホールの数倍程度しかありません。また、天体の質量はそれぞれ太陽の36倍と29倍でした。この質量自体が中性子星では重すぎることに加え、これほどまでに近づいているのに接触してないのですから、2つの天体は質量のわりに小さい天体ということになります。そのような天体はブラックホール以外にはありません。ということで、2つの天体がブラックホールだとわかったのです。

3)なぜ、天体の距離や方向がわかるのか?

天体までの距離は、得られた波形の振幅と天体から地球まで届くのに予想される減衰量を比較することで推測できます。

実は、距離の測定は天文学の世界ではなかなか難しいのです。重力波での観測が可能になったことで、従来からの光学観測とは独立に天体までの距離を測定できるようなります。2つの別々な方法で見ることで、精度が上がります。これにより、たとえば宇宙論での変数なども精度良く求められるようになると期待されます。

では、天体の方向はどうでしょう。この波形だけでは、宇宙のどの方向からきたかはわかりません。しかし、アメリカのLIGOは西海岸(リビングストン)と東海岸(ハンフォード)で2台の干渉計が設置されています。2台の干渉計での信号のキャッチ時刻の時間差から逆算することで、三角測量の要領で天球面のどこから来たかを推定できるのです。それでも、LIGOの観測では満月2000個分の領域のどこかといった情報までしかわかりません。現在、イタリアのVIRGO検出器が新しくこの重力波観測ネットワークに加わろうとしています。VIRGOのデータや他の電磁波観測も併用すれば、より正確に発生源を特定できるようになるでしょう。

fig2.png

では、日本の重力干渉計KAGRAはどうでしょう? KAGRAは2020年の本格稼働を目指して邁進中ですが、本格稼働してこのネットワークに加われば、発生源の誤差をさらに小さくすることに貢献できるでしょう。また、どの干渉計も24時間365日稼働しているわけではなく、不具合やメンテナンスなどのために頻繁に稼働をストップしているのが現状です。稼働率の高さが期待されているKAGRAは、いつどこで宇宙の大イベントが起きても、その重力波を逃さずにキャッチするために必要不可欠な存在となるのです。重力波が観測された今、重力波研究は競争から協働の時代に移っています。それぞれの干渉計の利点を活かしながら、重力波源の特定や一般相対性理論にほころびが無いかの検証を進めていく必要があるでしょう。

ここまで、重力波信号からわかる情報についてお話してきました。重力波をキャッチした技術力自体も驚くべきことですが、そこからわかる天体や宇宙の情報もたくさんあります。8月25日にはLIGOの公式ホームページで、LIGOとVIRGOが同時に重力波候補を観測したと伝えています。これから精査して、ホンモノとわかれば4回目にして初の重力波源の特定に近づくかもしれません。これから先の研究の進展がますます楽しみです。
宇宙の賑やかさを私たちに伝えてくれた重力波は、まもなく始まるストックホルムからの新たな賑わいの波も作り出してくれるのでしょうか。期待しましょう。

参考文献:
"Observation of gravitational waves from a binary black hole merger" (Summary by LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration)
自然科学研究機構 国立天文台ニュース No.247 (2014)
The ConversationHow did the odd black holes detected by LIGO form - and can we spot them in the sky?

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