【速報&詳報】2017年ノーベル物理学賞受賞者が決定!今年はやはり重力波!

みなさん、こんにちは!科学コミュニケーターの高知尾です。

やりました!重力波の受賞です!
先ほど、2017年のノーベル物理学賞の発表があり、今年の受賞者が決定いたしました。

●レイナー・ワイス(Rainer Weiss)博士
1932年生まれ、マサチューセッツ工科大学 名誉教授。

●バリー・バリッシュ(Barry C. Barish)博士

1936年生まれ、カリフォルニア工科大学 名誉教授。

●キップ・ソーン(Kip S. Thorne)博士
1940年生まれ、カリフォルニア工科大学 名誉教授。

そして受賞理由は、
「レーザー干渉計LIGOを用いた重力波観測への多大なる貢献」
です!

御三方、おめでとうございます!!パチパチパチ!

キップ・ソーン博士は天体現象から放出される重力波をモデル化し、実際に干渉計で観測されたときの解析手法の開発に貢献しました。レイナー・ワイス博士はレーザー干渉計によって重力波を検出する方法を提案しました。また、バリー・バリッシュ博士は、LIGOの元責任者でLIGOがまだ今よりも小さなプロジェクトだったころに、国の予算を得て国際的なプロジェクトにするのに貢献しました。

重力波の観測についてはこれまでに3度、科学コミュニケーターブログで紹介されています。ここからは要点をおさらいしていきます。詳細はそれぞれの文末にあるリンク先をご参照ください。

1)重力波とは?
2)重力波望遠鏡LIGO
3)重力波天文学

1)重力波とは?

まずは、今回の受賞のキーワードである「重力波」についてです。アメリカの重力波望遠鏡LIGOによって2015年9月14日に達成された重力波の初観測は、アインシュタインの「最後の宿題」の解決でありながら、人類の「新しい知覚機能」の獲得でした。

このキーワードによる詳しい解説は科学コミュニケーター雨宮による初観測時のブログ (リンクは削除されました)をご覧ください。

上記のブログにも書かれているとおり、重力波は「非常に重い天体が、加速しながら移動した時に生じる、周囲の時空をゆがめる波」です。

credit: LIGO/T. Pyle

初観測時に得られた波の信号からは、2つのブラックホールが合体したことにより生じた重力波であることがわかりました。1つは、太陽の29倍の質量でもう1つは太陽の36倍の質量でした。合体してできたブラックホールは太陽の62倍の質量だったので、差分である太陽3個分の質量エネルギーが重力波として解放されたのです。

2)重力波望遠鏡LIGO

Credit: Caltech/MIT/LIGO Laboratory

重力波を初観測した一辺4kmのレーザー干渉計LIGOは「地球から太陽までの間で、空間が水素原子1つ分ほどひずんだ」以下の小さなひずみを観測できるほど高感度です。これがアメリカ大陸の2カ所に設置されているのですが、今回なんと2台同時の観測に成功したのです。干渉計はレーザーを用いて垂直方向に光を分け、最終的に2つの光が合わさって到達したタイミングのずれを光の干渉という性質を用いて検出する技術です。

また、観測された信号波形はアインシュタインの一般相対性理論から予測される波形とぴったり同じでした。物理学者が究極の重力理論を追い求めるためには一般相対性理論がどこまで正しいかを検証する必要があります。しかしながら、一般相対性理論が適用されるのは非常に強力な重力源が必要なため地球上だけの実験では限度があります。非常に高精度なLIGOを使ってブラックホールからの重力現象を地球で捉えられたことは、その検証を進めるための大きな一歩となったのです。

LIGO検出器の詳細は、2016年のノーベル賞予想時に書かれた科学コミュニケーター山内のブログ (リンクは削除されました)が詳しいのでそちらをご参照ください。

3)重力波天文学

上記のブログでは「『重力波天文学』が、まさに今年、幕を開けたのです!」とあります。重力波はその後、これまでに4度の観測が発表されています。定常的に観測できるのであれば、それらの情報を用いて天体の現象を知ることができます。では、具体的に得られた波形からどんな情報を得ることができるかと言うと、天体の種類、質量、お互いの距離、地球からの距離、方向などを知ることができます。
詳細は、今年の予想ブログ (リンクは削除されました)をご覧ください。

上記のブログに示すように、現時点では、まだ具体的な天体を特定するに至っていません。正確な位置の特定には、少なくても3台以上の干渉計を同時に運転している必要があります。先日、イタリアの重力波望遠鏡VirgoがLIGOとともに重力波の検出に成功しました。このデータを用いて重力波の到来方向をこれまでの1/10まで絞ることができました。

しかし、測定に誤差はつきものなので、さらに精度を上げるために日本の重力波望遠鏡KAGRAもいち早くそこに加わることが求められています。KAGRAは地面振動の少ない地下に設置され、鏡を冷却することで熱雑音を押さえてあることが大きな特徴です。これらの技術は次世代重力波望遠鏡アインシュタイン・テレスコープにも使われる予定なので、KAGRAは今後の重力波天文学の発展のために重要な役割を担っています。

また、位置決定には重力波だけではなく他の観測手段を用いた同時観測も重要になります。

例えば、超新星爆発や中性子星の合体では重力波と同時にガンマ線が放出されると考えられています。その信号をフェルミ望遠鏡などのガンマ線検出器で観測して到来方向を絞ることができればさらなる情報を得ることができます。

このように従来の電磁波(可視光や電波、X線、ガンマ線)を用いた天体の観測に加え、ニュートリノや重力波を用いた観測を行うことで、相補的に観測することを「マルチメッセンジャー」と言います。こうすることで、発生源の位置の特定や、天体現象のプロセスの理解が進むことになります。

重力波初観測の発表がなされた当時、私は岐阜県飛騨市の研究施設において宇宙から到来する暗黒物質の直接探索の実験XMASSに携わっていました。ここには、2015年にノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生が研究に用いたニュートリノ観測装置スーパーカミオカンデがあります。
初観測の際は、ブラックホール合体と連動してニュートリノが放出している可能性も捨てきれなかったため、スーパーカミオカンデやXMASSで得られたデータを用いたニュートリノ探索の解析もすぐさま行われました。結果として、重力波信号と関連のあると言えるニュートリノ信号を見つけることはできませんでしたが、実際に解析した研究者が身近にいたのでその興奮を共有できたという点で良い経験をさせてもらえました。

4回目観測時のプレスリリースによると、2018年秋から始まる次の観測では毎週のようにこのようなイベントが見つかるだろうと述べられています。宇宙にブラックホールがどれだけ存在するかといった知見が得られるのはもちろんのこと、これまで予想だにしなかった結果をもたらしてくれるかもしれません。そう考えるとわくわくします。

最後に、改めてキップ・ソーン博士、レイナー・ワイス博士、バリー・バリッシュ博士、そして観測に関わった1000人を超える研究者の方々、おめでとうございます!

※ 編集注

キップ・ソーン博士のお名前の英語綴りが間違っていたため、10/4 11:30頃に修正いたしました。大変失礼いたしました。

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