2018年ウルフ賞~孔がある物質は面白い!~

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こんにちは!今日は「化学」コミュニケーターの梶井です!


先日、嬉しいニュースが入りましたね!


国際的に権威ある賞「ウルフ賞」の2018年化学部門を、藤田誠教授(東京大学)とOmar M. Yaghi(オマー・M・ヤギー)教授(カリフォルニア大学バークレー校)が受賞されました!






藤田先生、ヤギー先生、おめでとうございます!!






※ウルフ賞はイスラエルのウルフ財団から贈られる賞で、 農業、化学、数学、医学、物理学、芸術の6部門があります。




「日本人がすごい賞をとった。めでたい!」という印象の方がほとんどかと思います。 しかし、私にとってこのニュースは一大事でした。


今回の受賞内容は、私の修士時代の研究に近い分野であり、お二方は私にとってのスターだったからです!
※藤田先生のご研究に関しては、一昨年のノーベル賞予想ブログで簡単に紹介させていただきました。



いったいどういった内容で受賞されたのか!

少しマニアックな記事ですが、どうぞお付き合いください。



■受賞理由・・・超分子ってなに?

まずは今回の受賞理由から!


"For his contribution/achievements in the field of supramolecular chemistry(超分子化学分野における貢献/業績)"


超分子とは、「分子と分子が高秩序に集まり、新たな機能をもった構造体」のことです。


超伝導しかり超臨界流体しかり、「超」とつくとそれだけでカッコいいですね。
単純だった青年・梶井はこの響きだけで研究テーマを決めてしまったような記憶があります。


化学が専門でない方にとっては、あまりなじみのない単語だと思うので、少し段階を踏んで考えてみましょう。



ご存知のように、分子は原子と原子が共有結合などで強くくっついたものです。そして元の原子にはなかった性質を持つようになります。

例えば、よく知られる水素と酸素が反応して水が生まれる反応を下に示しました。ともに気体である水素と酸素が組み合わさってできる水分子は、常温常圧で液体といった、原料とは異なる性質をもちますね。
個人的には、これだけでも、この世に存在しない物質を作り出すことのできる、化学の持つポテンシャルに感動します。

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上のたとえで、共有結合という強い結合で結びついた原子が新たな機能をもつ分子となるように、複数の分子がもっと弱い結びつき(配位結合や水素結合など)でくっつき、元の分子だけでは発現できなかった機能を持つことがあります。この分子が弱く集まり、機能を持つようになった構造体を「超分子」といいます。

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たとえば、上図のような箱状の超分子であれば、孔の中に別の物質を閉じ込める(吸着させる)こともできます。これを使えば、臭いの原因物質を閉じ込めて、無臭化につなげることもできますね。

※簡単のためにイラストで表していますが、実際のこの箱や球の大きさはナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)の単位です。



なんとなく超分子のイメージがつかめましたか?

ただ、超分子にはいろいろとあるので、「超分子は箱型のものだ!」「別の物質を閉じ込めるものだ!」といった誤解だけはしないようにしてください。


例えば、2016年ノーベル化学賞を受賞されたジャンピエール・ソバージュ先生が高効率な合成を達成したカテナンと呼ばれる超分子は有名です。2つの輪っかが、結合していないのですが、外れなくなったような超分子です(詳しくはこちらのブログ記事)。

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出典:ノーベル財団(一部加筆)


今年のウルフ賞を受賞した藤田先生、ヤギー先生の業績をご紹介する前に、もう少し!僕が思う超分子の分野の面白いところを語らせてください!!



孔があったら面白い!!

そうなんです。孔があったら面白いんです。

ですが、ただの孔では面白くありません。


分子を扱うことに関しては化学者の右に出る者はいません。材料分子の形や機能、組み合わせる種類を工夫することで、いろいろな超分子を作ることができます。


例えば、ある物質(下の図だと男の子)にとっては魅力的ですが、別の物質(下の図の犬)にとっては魅力的でない超分子を作れば、一方(男の子)だけを狙って閉じ込めることもできます。

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こうすれば、複数の成分が混ざったようなものからも、欲しいものだけを取り出せるといった応用に使えます。また、閉じ込めたものを乗り物のように目的地まで送り届けるような超分子もあります。


さらに、下の図のように、孔の中にはいった物質(下の図だと男の子)を別の物質に変えることもできます。

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別に孔の外で同じような反応をやれば良いのでは?と思うかもしれませんが、孔の中だと反応を進めやすくできたり、孔の中でしか起こらないような反応を起こしたりできるのです。


化学式等を出さないで簡単に説明したので、逆に今ひとつ実感がわかないかもしれませんね。ただ、上で説明したようなことは、実際に達成されています。化学ってちょっと面白くないですか?


他にも活性炭やゼオライトのような孔をたくさん持つ物質はありますが、超分子だからこそ達成できる利点があり、まだまだ熱く語りたいことばかりです。

ですが、そろそろ先に進みます。

お待たせしました。それぞれの先生がどのような理由で受賞されたかに移りましょう。



まずは、藤田先生のご研究から!

藤田先生の今回の大きな受賞理由は、「金属が誘起する自己組織化原理の創出」のようです。


分子は分子同士で弱く引き合う性質があります。磁石のように互いに引き合う部分を持たせることもできます。また、分子内に窒素(N)など金属イオンと少し強めに引き合う原子をもたせれば、金属イオンとくっつくようにもできます。


そういった性質を利用して、分子がまるで意思を持っているかのように超分子をつくる現象を「自己組織化」と言います。


藤田先生は、金属イオンを接着剤のように用いた自己組織化反応の開拓者です。


ちなみに、このように金属イオンと分子がつくる超分子を"金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks;MOF)"といいます。
MOF(モフ)......なんて良い響きでしょう。発音するだけでテンションが上がりますね。

※多孔性配位高分子(Porous coordination Polymer;PCP)と呼ばれることもありますが、今回はウルフ賞HPの表記や受賞された先生を考慮し、MOFの表記で統一させていただきます。



例えば、現在ではこんな複雑な分子を作ることにも成功されています。

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(図は藤田先生のご提供。論文はこちら: M. Fujita and co-workers, Chem 2016, 1, 91-101.)


本当に、何回見てもきれいです。

自己組織化をイメージしやすくするために、動画を作ってみました。(※どの中間体生成が優位にはたらくかという点までは考慮できておりません。申し訳ございません。)

20180220_kajii_08.gif

(gif動画は梶井が作成。藤田先生の許可を得て掲載。)


ちなみにこの球状超分子の直径は、8.2ナノメートル。分子の中では大きい方ですが、やはり私たちのふだんの感覚からすると非常に小さいです。


人の手だけではとうてい作ることのできない超分子も、分子のことを理解し、分子の力を借りることで作ることができる......カッコイイですね!



藤田先生は、このように自己組織化を駆使してさまざまな超分子をつくっているだけではなく、その超分子を用いた応用研究にも取り組まれています。

すべて紹介することはできないのですが、少しだけ詳しい内容を、2016年の未来館ノーベル化学賞予想で簡単に紹介させていただきました。私が駆け出しのころの記事で恥ずかしいですが、よろしければご覧ください。

http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201609062016.html


お次はヤギー先生!

ヤギー先生は、網目状、格子状に孔をもつ物質の研究、"Reticular Chemistry(網目状構造化学)"という分野を開拓したことが大きく評価されて受賞に至ったようです。


ヤギー先生もいろいろなご研究をされているので、どれを取り上げようか本当に迷います。しかし!ヤギー先生といえばこの研究だけは外せません!


1999年に発表された、MOFのさらなる可能性を切り開いた研究です!



そもそもMOFをどのように作るのかということから説明が必要です。


一番単純なのは、何らかの方法で材料(分子や金属イオン)の溶けた液体をゆーっくりと濃くしていき、結晶としてMOFを得る方法です。

液体の中を漂っている材料同士がゆっくりと出会い、集まりやすく、つまり自己組織化を促進する方法です。塩を水に溶かして、水を蒸発させていくと塩の結晶が出てくるのと似たようなイメージです。

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その他にも高温にして化学反応を促進して作る方法、高温高圧にして無理やり溶かして冷やして作る方法などもとられます。


ただ、いずれの方法でも共通しているのは、液体中でMOFをつくることです。


すると、必然的にMOFの孔の中には液体の分子(溶媒分子)などがすでに入っている状況となります。


孔を使いたいのに孔の中に邪魔な先客がいるのです。


これを孔の中から完全にどかすためには、液体中から取り出したMOFに熱を加えたり、圧力を下げたりする必要があります。


しかし!どかした瞬間、構造が崩れてしまうことが多いのです。

(自分の作った愛しの結晶が弾ける瞬間を見ると、少し心が折れます。)

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初めの方で説明しましたが、MOFのような超分子は、材料同士が弱くくっついている物質です。孔の中にあった支えのようなものがなくなると、壊れやすいという欠点があるのです。


このため、MOFを液体から取り出し、空気中などの気相で使うことは難しいと考えられていました。
※ 液体中での応用であれば、孔に入っていた分子よりも、その穴に入りやすい分子を用います。



1999年!

ヤギー先生は、MOF-5という、溶媒分子を取り去っても安定なMOFを報告したのです!


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MOF-5の構造
(図は、論文中の図を元に梶井が作成: Yaghi, M. O. and co-workers, Nature 1999, 402, 276.)


これにより、MOFの気相中での応用という新たな可能性が切り拓かれました。

今では、溶媒分子を取り除いた後にも安定なMOFが、世界中の研究者によって数多く報告されています。


1999年当時、私はまだ小学生で、残念ながら当時の研究現場の驚きを知りません・・・MOF-5が化学の世界に及ぼしたインパクトをどなたかに伺ってみたいものです。



また、今回は紹介できませんでしたが、ヤギー先生はMOF以外にも共有結合性有機構造体(Covalent Organic Framework;COF)という新たな多孔性物質などの研究でも有名で、それらも今回の受賞に大きな影響を及ぼしています。

たとえば、化石燃料に変わるエネルギー減として関心の高い水素を運ぶ物質として注目されているアンモニアを大量に吸着させることのできるCOFも報告されています。


ヤギー先生、そして藤田先生のご研究は、将来、私たちの生活を支える技術へ応用されているかもしれません。




さてさて、少し熱く語りすぎてしまった感もありますが、いかがでしたでしょうか?

もし、「こんな化学もあるんだ・・・」「化学ってちょっと面白いかも?」といった感想をお持ちいただけたならば、化学コミュニケーター冥利に尽きます。


ノーベル賞もそうですが、こういった大きな賞は、一般にはあまり知られていない面白い研究を皆さんと共有できるチャンスなので、今後も機会があればお伝えできればと思います。


改めまして、藤田先生、ヤギー先生、2018年ウルフ賞受賞おめでとうございます!!



2018年ウルフ賞のページはこちら↓
http://www.wolffund.org.il/index.php?dir=site&page=winners&name=&prize=3016&year=2018&field=Select+All

藤田先生の研究室HPはこちら↓
http://fujitalab.t.u-tokyo.ac.jp/

ヤギー先生の研究室HPはこちら(英語です)↓
http://yaghi.berkeley.edu/