おむつは下水に流せません

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こんにちは!科学コミュニケーターの伊達です。未来館に来る前は、メーカーでおむつの研究開発をしていました。ここからは、おむつマイスター伊達としてこのブログをお届けします。

先日、おむつをうっかり洗濯機で洗ってしまっても、塩を入れれば吸水ポリマー(以下、ポリマー)が溶けるので下水に流すことができる、と書かれたものをネットで目にしました。

洗濯機の中がポリマーだらけ...という経験は、子育てや介護をされた方は、一度はあるのではないでしょうか。

洗濯槽にこびりついた細かいポリマーを一つ一つ取り除く...気が滅入ると思います。塩を入れて流せば良いのならば、簡単にできます。

ですが、残念ながら、この方法は排水溝を詰まらせてしまう危険があり、お勧めできません。マンションのような集合住宅であれば、洗濯機からの排水溝が詰まると床に水があふれ出し、下の階にまで被害が及ぶおそれがあります。

面倒ですが、地道にポリマーを取り除くことがおむつメーカーの推奨する方法です。

おむつメーカー、花王株式会社が勧める対処方法を下に記します。もし、おむつを洗濯してしまった場合、参考にしてください。(参考:花王株式会社HP )

●おむつを洗濯してしまった時の対処方法

くず取りネットにたまったものをとり除き、洗濯槽の中は、ティッシュぺーパーなどでよく拭き取ってください。一度で取りきれない場合は、もう一度水をためてすすいでください。

おむつを洗濯してしまった後は、洗濯槽のなかに紙のようなものやゼリー状のものがこびりついてしまっています。ゼリー状のものがおむつの尿を吸収する部分に含まれているポリマーです。これらは直接肌に触れても心配はいりません。

 

 

塩を入れればすむのであれば、本当に楽なのですが、ここから先は、なぜこの方法が危険なのか、について簡単な実験を交えて紹介したいと思います。

●実験で用意するもの

・おむつ1枚 (今回は、子供用パンツタイプ、Lサイズを使用)

・500mlビーカー (500ml程度液体が入る容器で代用可能)

・色水:水道水に青色の食紅をまぜたもの

・塩

●実験手順と結果

空のビーカーに、おむつ1枚をバラバラにしてから投入。

※ ポリマーの様子を見やすくするため、ポリマーを含む吸収に関わる部分のみを入れています

20180518伊達_01.jpg

色水400mLを加えて、1分間かき混ぜる。(うっかりおむつを洗濯してしまった状態を想定)

20180518伊達_02.jpg

⇒ポリマーが色水を吸収して膨らんでいます (上図 a)。ゼリーのような状態になっており逆さにしても色水はもれません (上図 b)。

③-1 ②のビーカーに、塩20gを加えてかき混ぜる (洗濯槽に塩をいれた状態を想定)

20180518伊達_03.jpg

⇒しばらくかき混ぜると、色水がふたたび出てきました。

※後で詳しい原理を説明しますが、塩の濃度が高くなったためにポリマーの吸収量が減り、体積が減っています。

③-2 ポリマーは溶けたのでしょうか?ビーカーの中身をろ過。

20180518伊達_04.jpg

⇒加えた色水の半分、約200mLがあふれ出ています。右側のビーカーには、ポリマーを含む吸収部分が残っています。ポリマーは溶けてはいません。小さくなっただけなのです。

③のビーカーに残ったものを取り出し、あふれ出た200mL分の色水を加える (排水溝に流れた時の状態を想定)

20180518伊達_05.jpg

⇒ポリマーが①と同じ程度の大きさまで膨らんでいます。同じ現象が排水溝の中でおきていると... 詰まりの原因になることは想像に難くありません。

※排水溝に流すときに水道水によって塩の濃度が薄まり、同様の現象が起きると考えられます。

おまけ ②-④のポリマーの大きさを比較。

20180518伊達_06.jpg

⇒塩を加えた後のポリマー (③)は、加える前 (②)に比べて小さくなっている様子が分かります。さらに色水を加えたポリマー (④)は再び膨らんでいます。

●実験結果の考察

以上の実験から考えられる事は、

・おむつを洗濯した後に塩を加えると、ポリマーのサイズが小さくなる。その結果、(洗濯槽の網目よりもポリマーが細かくなれば) 排水溝に流すことができるかもしれない。

・しかし排水溝の中で再度ポリマーが膨らみ、排水溝の詰まりの原因になるリスクがある、ということです。

 

 

それではなぜ、ポリマーは塩を加えることで吸収量が変わるのでしょうか?

ここからはポリマーの吸収原理を元に説明していきます。

おむつで使われるほとんどの吸収ポリマーの主成分はポリアクリル酸ナトリウムです。水を吸収する前は、小さな枝がたくさんある長い紐状の分子が絡まり合った状態をとり (下図 ①)、大きさは米粒の10分の1程度 (約0.5mm)です。これが水を吸収すると、紐の絡まりがほどけて小枝のカルボキシル基 (-COOH-)に水 (H2O)をトラップして保持します (下図 ②)。今回行った実験では、乾燥前の大きさの約4-6倍 (2-3mm)に膨らみました。直径で4倍ならば、体積では64倍にもなります。ポリマーによっては、真水であれば自重の約1000倍も吸うものもあります。

しかし塩 (NaCl)を加えると、トラップしていた水の一部がナトリウムイオン (Na+)に置き換わります。トラップしきれなくなった水が、ポリマーから放出された結果、水が外にでてきます (下図 ③)。このようなメカニズムで、ポリマーの吸収量が変化して、体積が変わっていたのです。

20180518伊達_07.jpgそれでは最後に、下水に流せるおむつはあるのでしょうか?

現時点では、そのような商品は販売されていません。しかし、同じ吸収性物品であるパンティライナーでは、トイレに流せるタイプが売られていました(現在は販売されていないようです)。

こちらの、ソフィKiyora「流せるタイプ」です。

パンティライナーは、おむつと異なり吸収対象が尿ではなく粘性の高いおりものであることや、吸収量も数ccと限られていますし、ポリマーも含まれていません。この製品での技術をそのままおむつに応用することはできませんし、下水道への負荷の問題などのクリアすべき課題もあります。ですが、技術の進歩によりこれが可能になる未来が来るかもしれません。

そんなおむつができるまでは、おむつを洗濯してしまったら地道にポリマーを取り除きましょう。

 

【参考】

・三洋化成ニュース ❹ 2013 秋 No.480

この記事への6件のフィードバック

先日、国交省にて、下水道への紙オムツ受入実現に向けた検討会が立ち上がったとのニュースがありましたが、2021年の実現可能性について検討するとのこと。もし実現すれば、未来はちょっと楽チンになっているかも知れません。(検討会はトイレ想定なので、洗濯機はやっぱり詰まるのかも)

少子高齢化の進む、人口減少時代の日本においては、介護問題、子育て問題と同時に、環境問題でもあります。引き続き、注目していきます。

伊達様、はじめまして。

おむつ(そのものではなく、中の吸水ポリマー)は下水に流す、はダメなのですね…。
当方、おむつは日常的に使用しませんが(短時間の手術の際にパンツタイプおむつを着けましたが、お世話にならずに済みました)猫を飼っているため、使用済みの猫のトイレの砂(以下「猫砂」)を人間用トイレから流していました。
が、ある日ネットでおむつ同様、「猫砂はトイレ/下水に流してはいけない」との呼びかけが。
理由はおむつと同じで、排水管が詰まりやすいためだそうです。
市販の猫砂は簡単に水に溶けないため、水の量が足りないとおむつ同様、「排水管詰まる⇒家中のトイレ・台所・洗濯・風呂その他使用不能⇒業者さんを呼んで排水管が通水後、まとまったお金(!)が飛んで行った」と
なった事例があるそうで…どうしてもトイレから流す場合、面倒でも水を多くして回数をこなす必要があるようです。
おむつの吸水ポリマーも猫砂も、包装にきちんと「下水に流しちゃダメ!」はもちろん、「その理由と結末」もきちんと書いて欲しいですね。
もちろん、ペット用のおむつ(マナーウェア)も。

追記:短時間手術の際のおむつは、術前に看護師さんから1枚だけ渡され、「これ今履かないと、手術台の上でしびん使用だけど、いい?」と言われ、「宇宙飛行士も船外活動で着けるよね」とシミジミしながらおむつチョイスして履きましたが、疑問が。
NASAその他「御用達」のおむつは、ごく普通の大人用おむつなのでしょうか? それとも「特殊仕様(おむつの中のエリート?)」なのでしょうか?
また、どのように地上から宇宙まで運び、使用後の「処理(廃棄)」はどうしているのでしょうか?
もしご存知でしたら、ヒマな時に回答頂けると幸いです。

sensen様

はじめまして。科学コミュニケーターの伊達です。
コメントを頂き、また貴重な情報を教えて頂き、ありがとうございます。

国土交通省は、おむつを粉砕処理した後に下水に流す計画をしているのですね。検索してみると、以下のページが目に止まりました。
(http://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo13_hh_000368.html)

sensen様がおっしゃる通り、石油起源の材料を使って作られた後、ただ廃棄される現在のおむつの生産・消費を環境負荷の少ないシステムに変えていく事は重要だと思っております。

どのようにおむつを生産、消費し、廃棄していくことが持続可能な社会を創ることにつながるのか。
この課題について、科学コミュニケーションとして、一消費者として、何ができるかを私自身も考えていきたいと思います。


ソラシド様

はじめまして。科学コミュニケーターの伊達です。
コメントを頂き、ありがとうございます。
おっしゃる通り、猫砂も「下水には流しちゃダメ」です。
パッケージデザインとの兼ね合いにはなると思いますが、確かに表記があった方が親切ですね。

手術をされたとの事、大変でしたね。
宇宙飛行士の方が使うおむつの仕様については、私も詳しく存じておりません。
しかし、地上用おむつは重力で排泄物が地面側に落ちることを前提に設計されているため、それがない宇宙用の特殊仕様のモノがあれば、何か特殊な工夫があってもおかしくないかな、と思います。

例えば、おむつの吸収体の端にある立体ギャザーは、吸収体で受け止めきれなかった排泄物を、おむつから溢れないようにせき止めることで吸収量を増やす構造です。
これは、尿が重力で地面側に溜まるために効果を発揮しますが、重力がない宇宙では同じ効果を得る事は難しいと思います。
※ おむつの構造は、こちらのURLをご参照ください。(http://www.jhpia.or.jp/product/diaper/data/structure.html)

また、宇宙までの運搬は「こうのとり」などのモノを運ぶ補給船に乗せて運び、使い終わると地球の大気圏に突入させ、燃やし尽くすそうです。

ソラシド様の疑問点に答えられましたでしょうか?
もし疑問点などございましたら、是非ともまたコメントを宜しくお願い致します。

パナソニックが、国土交通省のAタイプ(固形物分離タイプ)で検証するそうです。
http://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_000800.html
ポリマーから脱水するのに、塩化カルシウムを使うそうです。これも「塩」だと思うのですが、大丈夫でしょうか?あと、洗濯機で紙オムツを洗ってポリマーだらけになった時、塩を使うのがいけないのは「洗濯機が錆びるから」とどこかの電気メーカーのホームページに書いてあったような気がしました。
いろいろと、難しいですね。

ふくちゃん様

貴重な情報を教えて頂きありがとうございます。
実現に向けて、企業も動き出しているのですね。

教えて頂いたHPの実証事業の概要を拝見したところ、
塩化カルシウムは水分を抜いてごみを減量する目的で使われており、
減量後のポリマーを含む部分(ブログ内ろ過後のビーカーに残ったものに相当)はごみとして廃棄するようです。
計画では下水道が詰まる、という問題は回避できそうだと感じました。

下水処理は私達の生活を支えるインフラです。洗濯槽の錆の問題などを含めて、メリットとリスクを慎重に議論して進めたいですね。
引き続き動向を見守っていきたいと思います。