東京の夏、暑すぎません? ―気候変動と「平均値」の誤解

今年、2024721日および22日には、世界の平均気温が観測史上最高を連続して更新したというニュースがありました。

東京の夏の気温も例年どんどん上がっている感じがして、地球温暖化を実感します。とくに、最近は最寄り駅である東京テレポート駅から未来館への道のりが、私は毎日暑くてつらいです……。

今回のブログでは、私たちが体感する気候変動について、実際のデータを見ながら考えてみたいと思います。

夏のお台場は日差しを遮るものが少なくて、本当に暑いです……

地球の気温上昇を+1.5℃までに抑える?

未来館の5階には、「プラネタリー・クライシス」という展示があります。プラネタリー・クライシスとは、地球の危機のことです。とくに、気候変動、生物多様性の損失、汚染の3つの危機に瀕しているといわれています。

プラネタリー・クライシスは、4つのゾーンで構成されています。そのうち、Zone1Zone2で扱われているテーマが気候変動です。

Zone2では、地球の気温に関するグラフが紹介されています。地球の平均気温は近年急激に上昇しており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)6次評価報告書によると、2011年~2020年までの10年間では、1850年~1900年の間の平均気温と比較して約1.09℃の気温上昇が起きているとのことです。そして、気候変動がもたらす悪影響をできるだけ避けるため、世界の気温上昇を+1.5℃までに抑えることが世界共通の目標になっています。

プラネタリー・クライシス Zone2のパネルでは、地球の気温上昇が+1.5℃に迫る勢いと紹介されていますが……?

逆に言うと、ここ数百年の地球では、+1.5℃に迫る勢いで気温上昇を続けている、ということになります。

でも、これって本当なのでしょうか? 気温が上昇しているのは確かですが、体感としては1.5℃なんてものじゃなくて、もっと上がっている気がしませんか?

とくに近年の東京の夏の暑さを考えると、10年前、20年前と比べても1.5℃以上、上がっている気がしてなりません。

東京の直近100年間の気温変化はおよそ+3℃!

そこで、東京の100年間の気温変化を調べてみました。

気象庁のデータをもとに、昨年までの直近100年間(1923~2023)の東京の年間平均気温をグラフにしてみました。

東京都(千代田区)における直近100年間の年間平均気温の推移 ※年間平均気温は月平均気温の平均値から算出

近似直線を引いてみると、なんと1年あたり0.0296℃、100年あたりに換算すると約3℃も気温が上昇していることがわかりました……!

もちろん、この結果は観測地点や観測期間などをはじめ、さまざまな条件がプラネタリー・クライシスのデータと異なるため、単純な比較はできません。しかし、東京の平均気温上昇は世界と比べても明らかに大きいように見えます。どうしてこのような差が生じたのでしょうか?

「平均値」を信じると、間違うかもしれない

この違いを読み解くためのキーワードとなるのが、「平均値」の概念です。

プラネタリー・クライシスで紹介している気温上昇のグラフは、あくまでも「地球全体の気温上昇の平均値」です。気温上昇は、世界の各地域で同じように起こっているわけではありません。東京のように、地球全体の平均値よりも気温が上昇している地域もあるのです。平均値よりも気温が上昇する地域があるなら、逆に平均値ほど気温が上昇しない地域もある、ということになります。

また、一般に「地球の平均気温」という場合、陸上のみならず海洋のデータも考慮されているということにも注意が必要です。前述のIPCCによる報告書で、陸上は海洋に比べて平均気温の上昇がより進んでいることがわかっており、仮に地球全体で平均気温が1.5℃上がるとき、陸上では1.5℃以上の上昇となる可能性が高いのです。今回調べた東京のデータは陸地のみの観測データであるため、こうした観測地点の違いも、東京と地球全体の平均気温上昇の差に影響を与えていそうです。

このように、平均値を信じて安易に身の周りに当てはめようとすると、実態をうまく把握できないこともあるのです。

ジオ・スコープを見てみよう: 地球の変化は一様ではない

ところで、未来館の3階と5階には、ジオ・スコープというタッチパネル式の展示があり、地球に関するさまざまな科学的データを見ることができます。

ジオ・スコープは未来館のシンボル展示である球体ディスプレイ、ジオ・コスモスが見える位置にあります

その一つが、世界各地の気温の未来予測シミュレーションのデータです。世界と東京の比較から、地球の気温が一様には上昇しないことがわかったので、世界各地の気温がどのように変化していくのかを見てみました。

未来予測シミュレーションによる、2100年の気温予測。黄~赤色が気温上昇の予想されているエリア、青色が気温の低下が予想されているエリアです(データ提供:JAMSTEC)。

2100年の気温を見ると全体的に真っ赤で、世界各地で気温が大きく上昇する見込みということがわかります。しかし、よく見てみると地域によって色に違いがあり、気温上昇は均一でありません。意外なことに、南極大陸付近の海上など気温が下がる予想がされている場所もあるのです。

実は、海水面が下がっている地域もある?

さて、地球温暖化の文脈で気温の上昇と合わせて出てくるのが、海水面の上昇の話です。プラネタリー・クライシスでも、仮に二酸化炭素を多く排出し続ければ、2100年には海水面が2mも上昇するといわれていますが、これもすべて平均値の話です。

プラネタリー・クライシスでは、海面上昇の予想をARで体験できます

地球全体では海水面が上昇傾向にあるのは、皆さんも耳にしたことがあるかもしれません 。地球温暖化により、地球上の氷河や氷床が解けたり、海水が膨張したりするからです。 しかし、実は温暖化が進むと海水面が下がると考えられている地域もあります。アイスランドやスカンディナビアなどの地域では、近年海水面の下降が観測されています。

海水面が下がっている地域があるということは、平均よりも大きく海水面が上昇している地域がある、ということになります。実際、プラネタリー・クライシスのAR体験で見られる海面上昇よりも、もっと速い速度で海面上昇が進んでいる地域もあります。NASAなどのデータによると、アメリカ東海岸の海面上昇は平均の2倍から3倍の速さで進行しており  、中国の黄河デルタ地帯では年間25センチ以上の海面上昇が観測されているようです。

そもそも、地球の海水面の高さは一様ではなく、地域によって異なります。同様に、地域ごとの海水面の上昇も一様ではなく、地球全体の平均値を各地域に当てはめて考えようとすると、現実に起きていることを見誤って認識してしまうこともあるかもれないのです。

「平均値」からは見えないこともある!

今回調べてみて、東京の気温上昇は地球全体の気温上昇と比べて急速に進んでいることがわかりました。

気温上昇や海面上昇などの環境問題は、地球全体で均一に起こっているとは限らないのです。仮に地球の平均気温が1.5℃上がるとしたら、東京の平均気温は一体どれだけ上昇するのでしょう……?

このように、地球環境の変化は、データから平均値だけを見ていても気が付かないことがあるかもしれません。近年における東京の気温上昇の事例に見たように、世界各地ではいろいろな大きな変化が起きつつあることを意識していく必要があります。

そのためにも、データに対して「これって本当なの?」という疑問をもったら、自分で調べてみることも大切ですね。


参考文献

朝日新聞デジタル 「世界の平均気温が観測史上最高を更新 地球温暖化の影響が深刻化」

https://www.asahi.com/articles/ASS7S2GQ8S7SULBH005M.html (2024/8/18閲覧)

IPCC ″CLIMATE CHANGE 2023 Synthesis Report Summary for Policymakers″

https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/downloads/report/IPCC_AR6_SYR_SPM.pdf (2024/8/18閲覧)

気象庁 「過去の気象データ・ダウンロード」

https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/ (2024/8/18閲覧)

NASA ”The fingerprints of sea level rise”

https://sealevel.nasa.gov/news/24/the-fingerprints-of-sea-level-rise/ (2024/8/18閲覧)

NASA ″Gravity Anomaly Maps and The Geoid″

https://earthobservatory.nasa.gov/features/GRACE/page3.php (2024/8/18閲覧)

CNN 「世界の海面は上昇、アイスランドでは下降 地球の裏側に流れる水

https://www.cnn.co.jp/fringe/35187074.html (2024/8/18閲覧)

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