令和4年(第16回) 「みどりの学術賞」 岡田清孝博士

植物の形のナゾを探る

こんにちは、科学コミュニケーターの上田羊介です。
最近未来館の近くで変な形のタンポポを発見しました!

図1.日本科学未来館の近くで発見したタンポポ(画像は2022年4月頃に上田が撮影)

たまに見かける変な形の植物、その形になったのは、植物の側になにか問題が起こったからでしょうか? それとも、その植物が育った環境で効率よく生きるための反応……?ふだんから植物を見る習慣のない私には、その形にどんな意味があるのか判断がつきません。

本日は、植物の形づくりのナゾを解き明かしてきた、岡田清孝さんから伺ったお話を紹介します。令和4年(第16回)「みどりの学術賞」を受賞された龍谷大学 Ryukoku Extension Center 顧問の岡田さんは、人工的に起こした遺伝子の突然変異と植物に起こった変化の関係を調べることで、植物のナゾを解き明かしてきました。

図2.岡田清孝氏(写真は岡田清孝氏提供)

突然変異体を調べて植物のナゾを解き明かすってどういうこと?

遺伝子は生物の体をつくるための設計図にたとえられます。遺伝子の情報にもとづいてつくられたタンパク質は、細胞や組織が形を保ったり、生命を維持するための化学反応を促したりしています。突然変異によって遺伝子に変化が生じると、身体づくりや、呼吸や消化など、生命活動を維持するための生理現象に何らかの変化が起こることがあります。岡田さんはシロイヌナズナという植物の突然変異体にどんな変化が起こったかを調べることで、植物の形づくりの法則や、光や重力といった環境からの刺激に対する反応などを明らかにしてきました。

図3.シロイヌナズナ(2021年4月頃に上田が撮影)

岡田さんが行った研究のすごいところはみどりの学術賞の受賞理由にある「シロイヌナズナを用いた研究を通して、突然変異体を単離し変異の原因遺伝子を同定して植物の様々な生理応答を解明する分子遺伝学的な研究手法を植物科学の分野で確立した。」という部分にあります。それまで分子遺伝学の分野では、バクテリオファージというウイルスや細菌など、体のつくりが単純な生物が研究対象でした。岡田さんは植物の突然変異体に注目し、生命現象を探求する研究手法を確立してきました。

岡田さんの功績の具体的な部分を読み解いてみましょう。まず自然に存在する個体(以後野生型とよびます)と異なる見た目や機能をもった突然変異体を見出します。そして突然変異が起きた原因遺伝子によって、どうやって変化がひきおこされたかを明らかにします。つまり突然変異という「原因」と、見た目や機能の変化という「結果」のあいだにある、「過程」を明らかにする取り組みを行ってきました。過程の部分にあたる生理現象と目に見える結果との関係がわかることで、植物のナゾが一つ明らかになるのです。

図4.原因遺伝子と突然変異体の因果関係

では実際にどのようなナゾを解明してきたのか。具体的に見てみましょう。

pin突然変異体の謎を探る

植物の形づくりのナゾに興味があった岡田さんは、成長すると花になる部分である花芽が形成されず、針先(ピンの先)のような形になるpin突然変異体に注目しました(pin突然変異体は岡田さん自身が見つけたものではないです)。この研究では原因遺伝子がオーキシンという植物ホルモンの輸送に関わっていることをつきとめました。オーキシンという言葉は高校生の時に生物の授業で聞いた記憶がある人もいるかもしれません。オーキシンは茎が重力に逆らうように、根が重力に従うように成長するよう促す(重力屈性)働きと関係があります。また茎の先端の芽(頂芽)と側面の芽(側芽)では、頂芽が成長している間は側芽の成長が抑制される(頂芽優勢)という現象にも関わっています。

図5.シロイヌナズナのpin突然変異体(左)と野生型(右)(写真は岡田清孝氏提供)

pin突然変異体に起こった変化の因果関係を整理すると次のような図になります。

図6.PIN遺伝子におこった突然変異の因果関係を探る

PIN遺伝子の突然変異により生じる変化はオーキシンを輸送する機能の部分※1で起きています。つまりオーキシンの輸送が行われなくなるという過程を経て、結果的に花芽の形成不全が起きたということになります。
花の形は、がく,花びら,おしべ,めしべの4種類の器官が、同心円状に外側から内側に規則的につくられるのが特徴です。そこで器官の位置がどのようにコントロールされているのか、という着眼点から、遺伝子の働き方を変える「転写因子」というタンパク質の研究が盛んに行われていました。ですがPIN遺伝子は成長ホルモンの遺伝子です。
この研究を論文で知ったとき私は2つの意味で驚きました。花芽が形成されない突然変異の原因遺伝子は、成長ホルモンに関する遺伝子だったんだということへの驚きがまず1つ目です。そして2つ目の驚きは原因遺伝子の働きを探ることが植物の生理現象を探ることにもつながることを実感したからです。この研究でわかったのは、PIN遺伝子がオーキシンの輸送に関わっていることだけでなく、オーキシンの輸送自体が花芽の形成に関わっていたことです。恥ずかしながら私は、原因遺伝子の働きの探求と生理現象の解明がこれほど密接につながっているとは思ってもいませんでした。2つ目の気づきは、私にはとても衝撃的でした。
このようにわざとおこした突然変異によりもとの野生型から変わってしまった形や性質に注目することで、本来どのように植物が形づくられるのか、新しい切り口での仕組みが分かるという研究スタイルを岡田さんは開拓してきました。

1 PIN遺伝子はどんな働きをしているの?

今回注目しているPIN遺伝子からはPINタンパク質(タンパク質ではアルファベットは斜体ではなく正体になります!)がつくられます。PINタンパク質は細胞膜に存在し、細胞から細胞へとバケツリレーのように移動するオーキシンの排出に関わります。PINタンパク質が細胞膜の一部分に偏って存在することにより、一部分だけでオーキシンが排出される。そうすることで、オーキシンの一方向への流れ(極性)が生じます。今回、PINタンパク質がつくられないと、オーキシンを細胞間でリレーすることができず、オーキシンによる極性が生じないのです。

オーキシンの濃度が高まることが花芽の形成では重要です。オーキシンが蓄積すると、そこが成長して盛り上がり、特定の器官のモトになる器官原基ができます。花の原基もこのしくみでつくられます。オーキシンの局所的な蓄積には、細胞間で方向性をもったオーキシンの流れ「オーキシン極性輸送」があることが必要です。そのため、オーキシンを輸送できないpin突然変異体は花芽を形成できなくなるのです。

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7PINタンパク質が細胞膜の下部に遍在することよって、バケツリレー方式で下方向にオーキシンが輸送されるイメージ

もっと知りたい人向けの参考:

  • 松浦 友紀,田中 博和.オーキシン輸送体の局在制御因子が関わる発生制御.植物科学の最前線(BSJ-Review).11:172 (2020)
  • 三村 徹郎,鶴見 誠二.植物生理学 (基礎生物学テキストシリーズ).化学同人.2009
  • 奈良先端科学技術大学院大学プレスリリース「花や葉を形作る分子メカニズムを解明 ~器官の発生に必須なオーキシンの流れを生み出す仕組みを発見~自在に園芸植物をデザイン、増産にも期待」http://www.naist.jp/pressrelease/2014/01/002187.html

バケツリレー方式の輸送を明らかにした論文(※英語です)

  • Gälweiler L, Guan C, Müller A, Wisman E, Mendgen K, Yephremov A, Palme K. Regulation of polar auxin transport by AtPIN1 in Arabidopsis vascular tissue. Science. 1998 Dec 18;282(5397):2226-30.

他にも岡田さんが解き明かした植物の機能は多岐にわたります。葉っぱの形成や根が重力という外部からの刺激に対してどのような応答を示しているかなども研究してきました。

これらの研究を行う上では、野生型とは異なる性質をもつ突然変異体に注目するところから始まります。ここからは岡田さんに突然変異体をどうやって見出すか、そしてどうやってつくるのかを伺ってきた内容をお伝えします。

突然変異体、どうやってつくる?何に注目する?

上田「どうやって突然変異体をつくり出すのですか?」

岡田さん「突然変異を誘発する液体に半日ぐらい浸した種子から植物を育てます。その世代の植物には変異による形質はまず現れないので、自家受粉(同じ花の中にある雄しべと雌しべで起こる受粉)させます。すると突然変異が起きた個体の子孫からはだいたい1/4の確率で変異が見られます。」

上田「1/4というとメンデルの法則※2ですね!」

※2 メンデルの法則

メンデルは、親から子へ性質や特徴(形質)が受け継がれるという遺伝現象にみられる、いくつかの法則を発見しました。そのひとつが「顕性(以前は優性と言った)の法則」です。紫色か白色の花を咲かせる植物があったとき、花の色に関する2つの対立する特徴について、紫色の花を咲かせる遺伝子をA、対立する白色の花を咲かせる遺伝子をaとします。紫色の花の個体と白色の花の個体を掛け合わせた結果、子ども世代には紫色の花しか現れなかった場合、紫色の形質を顕性といいます。一方、子ども世代に現れなかった白色は潜性ですが、遺伝子がなくなったわけではありません。遺伝子を運ぶ染色体は2つで1ペアなので(例外あり)、子どもの世代の遺伝子は親世代から1つずつ遺伝子を受け継いだAaで、白色の遺伝子は持っています。自家受粉で生まれる孫世代は、1:2:1の比率でAA:Aa:aaの遺伝子型に分かれ、花色は紫:白は3:1になります。
※生き物の遺伝がすべてこの法則に基づくわけではないことをご注意ください

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図8.顕性の法則イメージ

岡田さん「そうですね。シロイヌナズナはメンデルの法則に登場するエンドウやアサガオと同じく対立遺伝子が2つで1ペアです。突然変異の誘発剤により対立遺伝子の片方に変化が生じても、もう片方は変わらないのでその世代では形質が変化することはまずありません。それは突然変異はだいたい潜性だからで、自家受粉させた2代目に突然変異による変化が現れます。」
※対立遺伝子とは花の色が紫色か白色かなどの対立する形質に関わる遺伝子のこと

図9.突然変異が誘発された個体から生まれた2世代目の植物には1/4の割合で突然変異が表れる

上田「突然変異はけっこうな頻度で誘発されるのですか?」
岡田さん「体感ですが突然変異を誘発する処理をした100個体のうち1個体、あるいはそれより低いくらいの頻度で突然変異体に出会えますどの個体で突然変異が起きるかはわかりません。そして突然変異が起きたとしても、(この方法では)どんな変異が起きるかもわかりません。自家受粉させた2世代目をたくさん育て、それらを丁寧に育てながらどんな変異が出るかを注意深く観察します。幼いときに変異が原因で育たないときもあります。その一方で花に変異が出る場合は育つまで待たなければいけません。」

図10.シロイヌナズナの栽培室(写真は岡田清孝氏提供)

上田「どの変異体に目を付けるのでしょうか?」

岡田さん「変異体はいろいろできるので、どれに目を付けるかはその研究者のセンスになります。植物の何をおもしろがるかはその人それぞれです。」

上田「先生が興味をもつのはどんなところですか?」

岡田さん「植物の形に関わる部分に興味があります。植物は芽が出た環境に合わせて柔軟に形づくりを変化させますが、その規則性を探るのがおもしろいと感じます。そう思っていても、その規則性を探ることができる変異体に出会えるかどうかは運しだいですが…」

出会えるかどうかも運しだい。しかし探そうとしている人しか出会えないセレンディピティ(偶然の幸運)に思えます。植物の形づくりを研究している人は普段から植物をどう見ているんでしょう。取材することが決まってからずっと聞いてみたかったある疑問を最後に聞いてみました。

上田「岡田先生は普段から植物を見ること自体を楽しまれているんですか?」

岡田さん「はい。変異体を見出すにはその植物にとっての“当たり前”が自分の中でできていないといけません。目の前の植物が普通じゃなさそうな育ち方をしたとしても、それが遺伝子の変異によって出てきたのか、環境に合わせただけなのかを見極めなければいけません。そのためには普段から当たり前を見出す目が養われていることが重要です。そうすることで、当たり前とは異なるサインに気付くことができます。」

「研究している植物についての当たり前ができていないと変異を見いだせない」

この言葉にとても衝撃をうけました。普段から“なんのへんてつもない”植物の姿を目にすることがこんなにも突然変異体の研究に関係してくるとは思ってもいませんでした。そして私も普段から植物がなんでこんな形をしているのかな?と考えながら植物を見てみたいという気持ちになりました(冒頭の写真の植物はそう考えながら散歩していたら見つけました!)。

皆さんもぜひ、通勤通学の道すがら植物の形づくりの不思議について考えてみませんか?

参考資料

  • 科学コミュニケーターブログ「令和4年度(第16回)「みどりの学術賞」受賞者が発表されました!」https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220411416.html
  • 内閣府プレスリリース、令和4年(第16回)「みどりの学術賞」受賞者の決定について、https://www.cao.go.jp/midorisho/houdo/houdo220307.html
  • 松浦 友紀,田中 博和.オーキシン輸送体の局在制御因子が関わる発生制御.植物科学の最前線(BSJ-Review).11:172 (2020)
  • 三村 徹郎,鶴見 誠二.植物生理学 (基礎生物学テキストシリーズ).化学同人.2009.
  • 産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 生物時計研究グループ 花井修次、遺伝子の記述方法、https://staff.aist.go.jp/s-hanai/gene_name.html
  • The Arabidopsis Information Resource (TAIR)、Nomenclature for Genes Identified by Mutationhttps://www.arabidopsis.org/portals/nomenclature/namerule.jsp
  • Okada K, Ueda J, Komaki MK, Bell CJ, Shimura Y. Requirement of the Auxin Polar Transport System in Early Stages of Arabidopsis Floral Bud Formation. Plant Cell. 1991 Jul;3(7):677-684.
  • Gälweiler L, Guan C, Müller A, Wisman E, Mendgen K, Yephremov A, Palme K. Regulation of polar auxin transport by AtPIN1 in Arabidopsis vascular tissue. Science. 1998 Dec 18;282(5397):2226-30.

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