まずは、約5ヶ月前の科学コミュニケーター(SC)福田の記事を思い出してください。
福田は冒頭でこう言っています。
「エネルギーは地域の風土に合った方法で
土地を "耕し" て "収穫" するもの」
福島第一原発事故のあと、大規模な電力会社に頼らず、自分たちで再生可能エネルギーをかき集めようという取り組みが、じわりと広がっています。そんな取り組みを紹介する企画をはじめます。タイトルは「エネルギー再耕」。「エネルギーは本来、地域に根ざした1次産業じゃないだろうか」との思いを込めて、課題を考えなおす「再考」の文字に「耕す」を用いました。・・・(中略)・・・SCの松浦と細々と続けてまいります。
SCの松浦と細々と続けてまいります。
そうです。エネルギー再耕は、福田と私とで続けていくシリーズ物なのです...
すみません。5ヶ月も放置していたのは私です。
というわけで、気を取り直してエネルギー再耕シリーズ、第2回目は
石川県金沢市
をご紹介します。
11月半ば、加賀百万石の城下町金沢をふらりと訪ねました。
市街中心部に、金沢城、兼六園、金沢21世紀美術館など文化施設が集まっていて、お天気が良ければ歩いて移動していくことができます。訪問した初日、私もテクテクと街を散策していました。
石川県立能楽堂を見学した後、金沢21世紀美術館の方へ向かう途中、本多公園という公園を通りました。
中を辰巳用水という水路が流れています。
水を追いかけていくと、途中に急勾配の階段が。なんとなく降りていくことにしました。
降りた先にあったのは、本多公園マイクロ水力発電施設。
仕組みは、私が降りてきた階段の高低差を生かし、辰巳用水から流れ落ちる水の速さと量を利用して水車発電機を回して発電する、というシンプルなもの。
発電された電気は本多公園の外灯や公園の中にある中村記念美術館で使われているとのこと。
ほう。金沢らしいエネルギーだな。
街を歩いていると気づきますが、金沢の街には辰巳用水だけでなく、たくさんの用水路があります。水の街、と言ってもいいと思います。まさに地域に根ざしたエネルギー。
というわけで東京に戻ってから、金沢市役所環境政策課の堀本正芳さんに取材をさせていただきました。
計画・実施について
福島第一原発事故をきっかけに、各地で再生可能エネルギーが注目されるようになりました。が、金沢市は事故よりも前から再生可能エネルギーの導入を積極的に取り組んでいました。1997年に制定された金沢市環境保全条例に基づき、1999年には環境基本計画(第1次)を、そして2002年には金沢市新エネルギービジョンを策定し、自然環境に優しい街づくりを進めてきました。そして、2009年に策定した環境基本計画(第2次)を基に、持続可能な都市「金沢」をつくる、という理念を掲げました。この環境基本計画には3つの基本目標があります。
基本目標Ⅰ:潤いのある都市「金沢」をつくる
基本目標Ⅱ:環境への負荷が少ない都市「金沢」をつくる
基本目標Ⅲ:市民・事業者・市が力をあわせて取り組む都市「金沢」をつくる
基本目標Ⅱの取り組みとして「再生可能エネルギーの導入を推進」、基本目標Ⅰの取り組みとして「用水、わき水の保全」という項目があります。これらの取り組みが融合した形の1つがこのマイクロ水力発電施設です。
事業の検討は2010年度にスタート。設置場所として本多公園が選ばれ基本計画が立てられたのが2012年度、設計・整備工事が行われたのが2014年度とのこと。
発電量について
最大出力が1kWなので、1日だと最大24kWhの発電量。単位時間あたりの出力は、用水路の水量などに影響されます。一般家庭における日使用電力量が12kWh程度だそうですから、最大出力量が得られれば一般家庭2軒分。とある電気自動車のバッテリー満タンと同量です。
人によっては、1日最大24kWhの発電量は少ない、と感じるかもしれませんが、この発電施設がたくさんあったら、いくつかの一般家庭もしくは美術館などの施設の電気は賄えることになります。塵も積もれば、という発想で考えたら、なかなかの発電量だと思います。
(単位についてはこの記事の最後を参照)
発電した電力の使い道、蓄電方法について
用水の水量さえあれば常時発電する仕組みのため、蓄電はせず本多公園の外灯や中村記念美術館の電力として使用されています。現状では電力が余るということはないそうです。最大出力の1kWで外灯5本分だそう。
今後のマイクロ水力発電施設を増やす計画について
金沢市では、用水の流れが生み出す街並みの風情を保全することを目的に、必要以上に架けられた広い私有橋をわざと狭くしたり、流れの上に蓋をかぶせるのを止めたりして、用水を流れとして見せる方向性を打ち出しています。市の中心部を流れる犀川・浅野川を源とする用水の数は55、総延長は150kmに及ぶとか。しかし、水力発電を行うために必須である安定した水量と高低差のある場所は本多公園のみなのだそう。今、街中以外の山間地などで可能性を検討されているそうです。
マイクロ水力発電施設と金沢の街との関係について
「この施設を導入して以来、立ち止まって様子を見る市民の方の姿を良く見かけ、特に年配の方ほど興味を持っておられるようでありがたい」
とは堀本さんの言葉。自治体の取り組みが市民に受け入れられている証拠なのではないかと思います。また、金沢市は全国で唯一市営の水力発電事業を行っている自治体で、市内に水力発電所を5カ所有しています。さらに、10月30日には「かなざわ次世代エネルギーパーク」の認定を受けたそうで、ますます地域に根ざした「金沢らしいエネルギー」を創出されていくことが期待されます。
・・・いかがでしょうか。
土地の風土に合わせた最適なエネルギーを形にし、そして街全体で育てていく。
そんな姿をまた1つ見つけた気がします。
その土地ならではのエネルギーは、福田が紹介した岩手県葛巻町や今回ご紹介した金沢市だけではなく、全国津々浦々にあると思います。地道に見つけてはまたここでご紹介しようと思っています。お楽しみに!
取材協力:金沢市環境政策課 堀本正芳さん
お忙しい中ご対応いただき、ありがとうございました!
参考:単位について
kWは単位時間あたりのエネルギー量、kWhはある期間におけるエネルギーの総量を表します。
エネルギー再耕シリーズ
①牛のうんちは大地の恵み (リンクは削除されました)