2025年4月13日から10月13日まで、大阪・関西万博が開催されています。
みなさんは、万博の中で気になるパビリオンや、実際に見たり体験したりしてみたい未来の技術はありますか? 今回は、多種多様な分野の未来技術が集まる万博の中で、とりわけ光を(物理的に)浴びているものをご紹介したいと思います。
それは、太陽電池です。
夏の日差しが懸念される万博会場ですが、その日差しを活用すべく、あちこちで太陽光発電が行われています。
今回のキーワードは「ペロブスカイト太陽電池」。実際に万博会場内を歩き回りながら、さまざまな場所に、いろいろな姿で潜んでいるペロブスカイト太陽電池を探してみました!

ペロブスカイト太陽電池とは?
そもそも「ペロブスカイト」とは、灰チタン石(CaTiO3)という鉱物のこと。そして、この鉱物がもつ独特の結晶構造をペロブスカイト構造とよびます。この構造をもつ鉱物は、灰チタン石以外にもさまざまな種類がありますが、ペロブスカイト太陽電池は、このペロブスカイト構造の結晶を利用した太陽電池なのです。
太陽光パネルと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、黒くて四角く、大きなパネルではないでしょうか。これはシリコン太陽電池とよばれるもので、現在流通している太陽光パネルの約95%がこの仲間です。シリコン太陽電池は広く普及した一方で、たとえば大きくて重いために設置場所に制約があるなどの課題もありました。

一方で、ペロブスカイト太陽電池は、薄くて、軽くて、曲がるという柔軟な性質をもっているため、設置場所の自由度が高いのです。近年では、シリコン太陽電池に引けを取らない高い発電効率も期待できるようになり、次世代の太陽電池として注目されています。
さらに、ペロブスカイト太陽電池は、日本で発明された技術でもあります。研究開発を行ったのは、宮坂力先生です。未来館の5階常設展示「プラネタリー・クライシス」のZONE4でも宮坂先生の取り組みを紹介しています。

ペロブスカイト太陽電池の普及には、依然として課題があるのも事実です。耐久性や大型化にともなう技術的な問題に加え、鉛を使用している場合には、適切な処理・回収を行う必要性などが指摘されています。とはいえ、こうした課題をクリアして広く使用されるようになれば、太陽光発電のあり方が大きく変わるかもしれませんね。
万博で見つけた、個性豊かなペロブスカイト太陽電池たち
万博では、ペロブスカイト太陽電池をさまざまな姿で見ることができました。今回はその中でも印象的だった3つの事例をご紹介したいと思います。
①バス停の屋根に設置された、1mmのフィルム
まずは、フィルム型のペロブスカイト太陽電池。西ゲート交通ターミナルのバス停にある曲線状の屋根に、直接張り付けられています。まさに「薄くて、軽くて、曲がる」というペロブスカイト太陽電池の特性を生かした活用事例です。

フィルムの厚さは、なんと1mmほど! 間近で見てみると、フィルムに少しシワが見えるほどの薄さで驚きでした……!
しかも、このフィルムは約250メートルにもわたって貼り付けられており、世界最大級のペロブスカイト太陽電池となっています。ここで発電された電気は蓄電池に蓄えられ、バス停の夜間照明に使用されます。
このバス停があるのは万博会場の外ですが、とくに西ゲートから入退場予定の方は、ぜひバス停の屋根の上のフィルムにご注目ください!
②背中で発電できる、スマートウェア
続いては、会場内の一部スタッフが着用しているスマートウェア。なんと、背中にペロブスカイト太陽電池が貼り付けられており、発電することができるんです! 薄くて軽いため、着用していてもとくに重さは感じないのだそうです。

背中で発電された電気はポータブルバッテリーに充電され、首にかけるファンを動かすためなどに使用されます。これから夏本番にかけて、暑さ対策に役立ちそうです。

このようなスマートウェアが普及すれば、スマホなどの電池切れも心配しなくてよくなる未来がやってくるかもしれません。
③透明で素敵な見た目の、ガラス型太陽電池
最後に紹介するのは、なんと透明なペロブスカイト太陽電池!
太陽電池は黒っぽい色をしているイメージがあると思いますが、そうとも限らないんですね。一見すると、太陽光パネルとは思えない、素敵なたたずまいです。

このガラス型ペロブスカイト太陽電池のパネルは、ペロブスカイト太陽電池で表現された世界初のアートともいわれています。透過性を実現することで、太陽電池のデザインの幅も広がったのです。
さらに、透明なペロブスカイト太陽電池はガラス建材に組み込むことができるため、未来にはビルの窓ガラスなどで発電することもできるようになるかもしれません! だとすると、太陽電池の設置場所も大きく変わりそうですね。
古い太陽光パネルはどうなるの?
ところで、ペロブスカイト太陽電池が普及したら、これまで使われていた太陽光パネルたちはどうなってしまうのでしょうか? 実は、それらを廃棄せずにリサイクルする方法の例も、万博で紹介されていました。
それが、万博会場のいろいろな場所で見かけるこちらの椅子です。

背面のパネルは、廃棄された太陽光パネルを再利用したものです。発電した電気は、椅子に取り付けられた扇風機やスマートフォンなどの充電に使うことができます。
古い製品が新しいものに置き換わっても、それらをリサイクルして有効活用しながら、サステナブルな社会を目指していけるといいですね。
万博会場で、いろいろな太陽電池を探してみては?
このように、万博会場ではさまざまな場所でユニークな姿のペロブスカイト太陽電池が使用されています。また、今回紹介したもの以外にも、万博会場ではさまざまな種類や形の太陽電池に出会うことができます。
少し先の未来には、こうした新しい太陽電池が当たり前になるのかもしれないと思うと、ちょっとわくわくしませんか? ぜひ、万博を訪れた際には、パビリオンの中を楽しむだけでなく、屋外にあるさまざまな太陽電池を探してみてください!
参考文献
日本館 月刊日本館 Issue10「薄い。軽い。曲がる。未来の太陽電池「ペロブスカイト」はこんなにすごい!」
https://2025-japan-pavilion.go.jp/magazine/backissues/issue10/feature02/
経済産業省 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会「次世代型太陽電池戦略」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
経済産業省 資源エネルギー庁 「未来のエネルギー技術が集結!大阪・関西万博の見どころをチェック ~太陽光・水素編」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/expo2025_01.html
経済産業省 METI Journal Online 「【万博60秒解説】会場はペロブスカイト太陽電池の社会実装の最前線!」
https://journal.meti.go.jp/p/38864/
積水化学工業株式会社 「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)への協賛およびフィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置について」
https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1390849_40075.html
パナソニック ホールディングス株式会社 「ガラス型ペロブスカイト太陽電池の可能性を追求したプロトタイプを大阪・関西万博パナソニックグループパビリオンに展示」
https://news.panasonic.com/jp/press/jn250214-1