こんにちは!科学コミュニケーターの梶井です!
すっかり秋ですね。 未来館で秋といえば「ノーベル賞」。最近の科学コミュニケーターブログもそれらの話題で盛り上がっています。
まじめな科学の記事の後で若干恐縮ですが、今回の記事は私の失敗談です。 ゆるくお楽しみください。
さて、9~10月になると、未来館内ではあるすてきな落とし物がチラホラと見られます。
その落とし物は、未来館の横にあるこの木からやってきます。
少し近づいてみましょう。
落とし物の正体は、子どもたちがせっせと運んでくる「ドングリ」でした!
(木はマテバシイです。)
このフサフサに実ったドングリたちを眺めながら、梶井はあることを思いました。
ドングリってどうやって大きくなるんだろう??
ちょうど、成熟していない実とあるていど熟した実を見つけました。
どこがどう成長して、どうすればあんな実ができるのでしょうか。なんとなく、ヘルメット(殻斗(かくと))になりそうなところはわかりますが......
成長過程の写真入りの図鑑はおそらくあるでしょう(後から探したらありました。参考文献(1)をご覧ください)。
しかし、図鑑ではなく実際に成長の様子を見てみたい......
観察するしかない!!
ということで、観察した結果が次の写真です。
あれ?大きくなっていない......?
元から大きかったドングリの色がキレイに変わっているのは分かりますが、肝心の成長過程がわからない!!
少し困った梶井は、ドングリに関する研究で博士を取得した科学コミュニケーターの高橋明子に相談をしました。
すると、衝撃の答えが......
・・・え?
なんと、私が観察していたドングリ中絶されていて成長の見込みがないというのです!
いったい、どういうことでしょうか? それを知るために、まずは果実の実り方についてです。
私たちが見慣れている陸上の花を咲かせる植物の場合、一般的には花の中にある雌しべに雄しべからの花粉がつき(受粉)、実をつけます。
例えば、マテバシイならば、春に開花、受粉して果実(ドングリ)を実らせます。そして、翌年の秋に果実が成熟します。 (X年掛けて成熟する果実をX年成の果実といいます。マテバシイのドングリは2年成ですね。)
このように、果実を実らせるために植物は多くの花を咲かせますが、成熟した果実になるまでには多くの花や未発達果実が脱落していくようです。
そもそも花粉が届かずに受粉できないなど、脱落理由は多岐にわたりますが、そのうちの1つに「中絶」があります。
例えば、虫害など何らかの要因でそれ以上成長するのが難しくなった実があると、親植物はこの実に養分を届けるのを止めてしまうのだそうです。
親植物はなるべく多くの次世代を残そうとします。 ですが、投資できるエネルギーは限られています。より次世代まで残る可能性の高い実を優先的に成長させるため、可能性の低い実は切り捨ててしまうのです。
簡単だと思っていた観察にも落とし穴はありますね......
しかし、このままでは肝心のドングリの成長過程がわからないままです!
ドングリをつけるのは、マテバシイだけではありません。 ちょうどシラカシのドングリが成長する時期だったので、観察しました。
「なるほど、君たち(ドングリ)はこうやって大きくなるんだね!」
という満足感を得たところで......
そもそもドングリの観察はいつ頃から始めれば良いのでしょうか?
それは、観察の目的と対象の樹種によって異なります。
今回の私のようなドングリの成長過程を目的とした観察ならば、秋だけの短い期間の観察で済みます。
しかし、開花から成長過程を観察し続けたいという場合は事情が異なります。
1年成のシラカシのドングリなら春の開花から観察を始めればその年の秋には終わりますが、マテバシイのような2年成ドングリならば2年がかりでの観察となります。
行き当たりばったりの観察ももちろん楽しいですが、どういった観察をしたいのか予め考えて計画を立て、実験を始める前に下調べをすることが大事ですね。
ということで、「ふだん何気なく生活していると気づいてないことばかりなんだなあ」ということを再認識した体験でした。
みなさんも、ふだんの生活の失敗を掘り下げてみたら、思いもよらない発見があるかもしれません。
また、マテバシイもシラカシもウバメガシも身近なところで出会える樹なので、ぜひ今年の秋はドングリを見ながら季節の変化を楽しんでみてください。 今ならウバメガシのドングリが観察し頃だそうです!
【参考】
(1) 北川尚史 監修; 伊藤ふくお 著, どんぐりの図鑑, トンボ出版 2001, 79p
(2) 菊沢喜八郎 著, 植物の繁殖生態学, 蒼樹書房, 1995, 283p