永久凍土がとけると魔王が復活する?

日本科学未来館には、「プラネタリー・クライシス」や「ジオ・スコープ」など、地球環境に関する展示がいくつもあります。それらを見ていて、私は特に北極・南極といった極地の環境について興味をもちました。そしてリサーチしているうちに、ここ数年、永久凍土(一年中氷点下の土壌)について調査が進められていることを知りました。特に日本の研究機関が進めている 「ArCSⅡ」という北極域研究加速プロジェクト〔注1〕で詳しく調査されています。また、東京にある国立極地研究所の南極・北極科学館で開催されていた「変わりゆく永久凍土の世界」という企画展(20241120日~2025118日)を見に行きました。その内容がとても興味深かったので、永久凍土についてブログにまとめてみようと思います。

永久凍土を知るきっかけ

実は私が「永久凍土」をきちんと知ったのは、今から30年ほど前に読んだ「フォーチュンキッズ」(高橋魔也)というマンガからでした。学校ではすでに習っていたはずですが、印象が薄かったんですね、きっと。

マンガの内容は「5000年前、世界の滅亡をたくらんでいた魔王を神族の剣士が永久凍土の奥深くに封印した。しかし、5000年の間に生じた気候変動により永久凍土が融け、魔王が復活してしまう」 というものでした。

実際、ここ数年で永久凍土が温暖化によって融け、氷の中に閉じ込められていた数万年前の馬やサイ、マンモスなどの動物たちが多く発見されています。

日本科学未来館でも、2019年に特別企画展「マンモス展〜その『生命』は蘇るのか〜」を行い、ロシア連邦サハ共和国の永久凍土に眠っていた マンモスをはじめとする動物たちの冷凍標本を展示しました。担当スタッフの裏話によると、本物のマンモスの冷凍標本を冷やす冷却装置の設置などがかなりたいへんだったようです。

図1:永久凍土から発見された古代の仔馬(左)とマンモス(右)

まあ、数万年前のものが地表に出てくるのだから、封印されていた魔王が復活してもおかしくないですよね。

永久凍土とは

さて、ここからは現実的な話をしたいと思います。

まず、「永久凍土」とは何か?というと 2年以上0℃以下の状態にある土地(氷や堆積物、岩盤含む)」 とされています。 シベリアやアラスカ、そして日本などに分布し、実は北半球の陸地の約4分の1から5分の1を占めています。

永久凍土は大きく以下の2つの層に分類されます。

・活動層:表層から数10cm~数mにある、季節によって融解と凍結を繰りかえす地層

     以前は1.5mほどであったが、近年は4mほどまで達するところもある

・永久凍土層:常に土壌が凍っている層。大量の氷を含む「エドマ層」を含み、

       深さは数mから数百mが一般的だが、1500m以上のものも観測されている

図2:永久凍土の層(筆者作成)

私は以前、マンガの「魔王が永久凍土の奥深くに封印されたと」いう内容から、永久凍土は地下数kmにも及ぶものと思っていました。しかし、リサーチするなかで実際はそこまで深いものではないのだと知り、魔王の封印は思っていたよりも浅かった! と驚いたものです。(あくまでもマンガの話です)

 話を永久凍土に戻します。

実は、シベリアやアラスカのタイガでは永久凍土の上に森林が広がっています。活動層の土と融解する水があるために、永久凍土の上には木々が育ちます。そして、その木々のおかげで永久凍土は太陽の光を直接浴びることなく凍り続けています。お互いによい共生関係が築かれているみたいですね。

現存の永久凍土のほとんどは氷河期に生成され、森林に守られて現在まで凍り続けているのです。

ちなみに、地上から3060mくらいは約6000年前からつくられたものらしいです。

永久凍土が融けている

では、永久凍土が融けているとは、どういうことでしょうか? 

永久凍土が融ける原因は、まずは地球温暖化による気温の上昇です。そしてシベリアの森林の伐採や山火事による森林焼失により太陽の光が直接地面に当たることで地面が温められることなども大きな原因となります。これらにより表層の活動層が融けやすくなり、また融ける範囲も深くなっていきます。そうすると活動層が厚くなり永久凍土の層まで達し「エドマ層」の氷の塊を溶かします。これが、永久凍土が融解している。という現象です。

図3:温暖化などによる活動層の深さの拡大と溶けはじめる氷(企画展「変わりゆく永久凍土の世界」で展示されていたサーモカルスト模式図(東京都立大学 飯島慈裕教授提供)をもとに筆者が作成)
図4:露出した永久凍土と地下氷(提供:東京都立大学 飯島慈裕教授)

どんな影響があるの?

では、この凍土融解は地球環境にどのような影響を与えるのでしょう?

まず1つ目は、土地への影響です。

図3のように温暖化などにより氷の塊である氷楔(ひょうせつ)の表面が融け始めると、氷が溶けたところに水の層ができます。その水が蒸発したり流出したりして氷だったところだけがへこみ、土壌の部分が残ります。この現象が「サーモカルスト」と呼ばれるものです。


図5:サーモカルストの様子(企画展「変わりゆく永久凍土の世界」で展示されていたサーモカルスト模式図(東京都立大学 飯島慈裕教授提供)をもとに筆者が作成)

その結果、地面がボコボコした多角形になる「ポリゴン地形」ができて家が傾いたり、サーモカルスト湖と呼ばれる大きな水たまりができて人が住めなくなったりします。

図6:永久凍土融解によるポリゴン地形(左)とゆがんでしまった家屋(右)(提供:東京都立大学 飯島慈裕教授)

今のまま森林伐採や温暖化が進むと、2090年には永久凍土は現在の半分になってしまうというシミュレーション結果もあります。 

そして2つ目の影響は、何千年、何万年も前に氷に封印されたCO2、メタン、そして菌や微生物が地上に現れてくることです。

永久凍土には、低温のため微生物の活動が抑制されて分解されなかった有機物が閉じ込められており、大気中の約2倍、陸上植物の約3倍の炭素が含まれているといわれています。また、特に「エドマ層」にはCO2、メタンなどが大量に含まれていることもわかっています。これらの物質が、永久凍土が融けることにより温室効果ガスのかたちで放出され、そのまま温暖化の原因になります。

さらに永久凍土には多くの未知の菌や微生物が眠っているといわれています。現代の人間には耐性がないこれらの古い時代の菌や微生物は、世界的な感染症の原因になる可能性があります。永久凍土の融解は「感染症の時限爆弾」といわれることもあるようです。

 

う~ん……。これだけ人間に悪影響を与える可能性があるということは、やはり永久凍土の融解と魔王の復活は関係があるのかもしれない。(意見には個人差があります)

森林ってすごい

ただ、一部では温室効果ガスによる影響に対して面白い観測結果も得られています。

「温暖化が永久凍土の森林へ与える影響」について、日本の研究グループ〔注2〕がArCSⅡの研究の一環として、アラスカの永久凍土の森林におけるCO2放出・吸収量を2003年から 20年間観測しました。その結果、後半10年間のCO2吸収量は前半10年間と比較して約20%増加していることがわかりました。特に夏季の差は顕著に現れていますね。

図7:CO2交換量の平均的な季節変化(Ueyama et al. 2024 PNAS の Fig.3A を論文著者らが改変し各所属機関のプレスリリースに掲載したものを引用)

温暖化により永久凍土が融けてCO2が放出されると、木々が光合成によりそのCO2を吸収し、森林が成長する。そして成長した森林がまたさらに多くのCO2を吸収する、という循環が起こっているようなのです。ここでも森林と永久凍土の共生というものができつつあるのでしょうか? 森林のたくましさが伝わってきますね。

しかし、永久凍土融解が要因のCO2の増加による森林の成長と、温室効果ガスによる温暖化とのバランスなどについては、まだまだ長期的な観測が必要です。

まとめ

永久凍土についての話はここまでです。

私は、未来館の展示を通して極地の環境に興味を持ち、国立極地研究所の南極・北極科学館の特別展で永久凍土のしくみの面白さを知りました。皆様も未来館はもちろん、いろいろな科学館に足を運んで、身の回りだけでなくいろんな場所のことも調べてみてください。私の「魔王」の話のように、「そういえば昔こんな話を聞いたことがある!」「こんなことにつながっていたのか!」なんていう発見があるかもしれません。

<注釈>

1:北極域の環境変化を調査し、その研究成果を役立てることで持続可能な社会の実現を目指すプロジェクト。国立極地研究所、海洋研究開発機構(JAMSTEC)および北海道大学の3機関が中心となり、20206月から20253月まで約4年半の期間で実施される。

  ArCSⅡ https://www.nipr.ac.jp/arcs2/index.html

2:大阪公立大学、信州大学、新潟大学の共同研究グループ

<参考>

企画展「変わりゆく永久凍土の世界」 https://www.nipr.ac.jp/info2024/20241009.html (2025313日閲覧)

  資料及び写真提供:東京都立大学 都市環境学部地理環境学科 飯島慈裕教授

日経ビジネス「永久凍土の変化から地球のこれまでとこれからを知る」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00374/  (2025313日閲覧)

EEA Permafrost in the Northern hemisphere https://www.eea.europa.eu/en/analysis/maps-and-charts/permafrost-in-the-northern-hemisphere  2025313日閲覧)

・「温暖化が永久凍土の森林へ与える影響は?CO2放出・吸収量の推移を20年間観測」研究プレスリリース  (2025313日閲覧)

   大阪公立大学HP https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-14015.html

   信州大学HP https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/science/research/research/post-60.html

   新潟大学HP https://www.niigata-u.ac.jp/news/2024/716756/

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