令和7年(第19回)みどりの学術賞受賞記念トークイベントレポート

花のかたちは何で決まる? ~美しさの設計図

皆さん、こんにちは!
科学コミュニケーターの倉田祥徳です。

 未来館では、202582日、令和7年「みどりの学術賞」を受賞された経塚淳子さん、森本幸裕さんをお招きし、トークイベントを開催しました。
登壇者のお一人の経塚さんは、植物が花や葉をどのように増やし(分岐させ)、かたちをつくり上げていくのか、その仕組みを長年研究されてきた方です。私たちの身のまわりでは、場所や場面を問わず、さまざまな「花」を見かけることがあると思います。プレゼントとして花束を手に取るときもあれば、卒業式や入学式の式典で檀上に飾られた花を目にしたり、ふと目に入る道端の花々に足を止めたこともあるかもしれません。みなさんはどのような場面で花を見かけるでしょうか。そうしたさまざまな場面で、自然と花に目が向くのは、きっと花には特有の美しさがあるからだと思います。

 では、花の美しさはどこから生まれるのでしょうか。

経塚さんは、そんな美しさの背景にある仕組みについて、花の“かたち”を切り口にお話ししてくださいました。

みどりの学術賞とは

「みどりの学術賞」は、国内において植物、森林、緑地、造園、自然保護等に係る研究、技術の開発その他「みどり」  に関する学術上の顕著な功績のあった個人に授与する賞です。
内閣府と未来館は、「みどりの学術賞」への理解促進を図るとともに、情報発信を2015年から連携して行っています。

みどりの学術賞 (内閣府) https://www.cao.go.jp/midorisho/

経塚さんのプロフィール(提供:経塚淳子さん)

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ふだん見ている花は、実は“花序”!?

身のまわりでさまざまな花をみることができますが、それぞれの花には共通している構造があります。それは、外側から、がく、花弁(花びら)、おしべ、めしべがそろっているということです。

花の基本構造(がく・花弁(花びら)・おしべ・めしべ)(筆者撮影)

私たちの周りにある多くの植物は、一つの花のように見えても、実は小さな花が集まって一つの姿をつくり出している場合があると、経塚さんから教えていただきました。

たとえばヒマワリです。
大きく広がる黄色い花びらと中央の茶色い部分を合わせて、一つの花に見えますが、実は黄色い部分も茶色い部分もよく観察すると一つ一つが小さな独立した花であることがわかります。

ヒマワリを分解した写真。中央の茶色い部分は「筒状花」とよばれる。 (提供:経塚淳子さん)

つまりヒマワリは、小さな花が何百と集まった花の集合体で、一つの大きな花のように見えているだけなのです。

このように、一つの花が集まってできたものを「花序」と呼びます。

こうした「花だと思ったら花序だった!」という例は、ヒマワリに限りません。
ランタナも、アジサイも、シロツメクサも、よく見ると小さな花がぎゅっと集まって一つのかたまり(花序)をつくっています。

ランタナの花序を説明している経塚先生(左)、右は筆者。

さて、ここで経塚先生からのクイズです。
下の写真はヒガンバナです。これは一つの花でしょうか? それとも花序でしょうか?

ヒガンバナの写真(提供:経塚淳子さん)

答えは……花序です!
ヒガンバナも、一つの花のようにも見えますが、実は六つの花がまとまって咲いています。

ヒガンバナも花序(提供:経塚淳子さん)

イベントでは、参加者全員が花を一本ずつ手に取り、花の“かたち”をよく知るために、花を分解するワークショップも行いました。このワークショップは、経塚さんが以前、大学の講義でも取り入れていた手法だそうです。
とはいえ、花を分解する作業は多くの人が初めての経験です。そこで「何かコツはありますか?」と経塚さんに伺ったところ、経塚さんより、思いきってやってください!という力強いアドバイスが返ってきました。この一言で、参加者の緊張も一気に和らぎました。

花を分解するワークショップのようす

花びらを一枚ずつ外し、内部の構造を観察し、紙の上に並べていくと、 “花の内部の世界が姿を現します。

花を分解し、紙のうえに並べたようす。花の内部の世界を見ることができます!

参加者からは「花がこんな構造になっていたなんて驚きです」や「この花は花序だったのか!」という声も聞こえ、花を分解し、よく観察することで、知らなかった花の“かたち”にふれる楽しさを実感できる時間になりました。また、話を聞くだけでなく、自分の手で分解していく過程で新たな疑問が生まれ、その場で経塚さんに直接質問する参加者の姿も見られました。

経塚さんのお話にみなさん興味津々です!

花も花序も中心がある 〜メリステムからはじまる花のかたち

花と花序には、ある共通点があります。それは“中心があるということです。花びらの中心にめしべやおしべが位置しているように、花序にも中心となる軸があり、そこから小さな花が配置されていきます。

花と花序の共通点(提供:経塚淳子さん)

経塚さんによると、そのかたちの“出発点となるのが、植物の成長点である「メリステム」とよばれている場所なのだそうです。下の図のように茎の先端にある小さな場所(メリステム)では、新しい葉や花がつくられていきます。メリステムが最初の葉をつくり出すと、その葉の脇に新たなメリステムがつくられていきます。それからまた葉をつくり、その葉ができたらまたメリステムができ・・・と繰り返すことで植物は成長していくのだそうです。

メリステムの位置(提供:経塚淳子さん)

ただし、このように葉が次々と増え続けるのは、花ができるまでのあいだです。花ができるかどうかは遺伝子の働きによって決まっており、花がつくられると、そこで枝分かれが止まります。

メリステムは花ができた時点で枝分かれしなくなる。(提供:経塚淳子さん)

植物にとって“生きる目的”のひとつは種を残すこと。つまり、花ができた時点で“種をつける準備”が整うため、それ以上に枝を伸ばす必要がなくなるのです。このようなルールをもとに花にはさまざまなかたちがうまれます。

いろいろな花のつきかた(提供:経塚淳子さん)

どこで花をつけるのか、どのくらいの花の大きさにするのか、これらはすべて遺伝子の働きによって調整されています。遺伝子のわずかな働きの違いによって、花や花序のかたちには多様性が生まれます。もし、遺伝子がうまくはたらかないと、“かたち”が大きく変わってしまいます。

遺伝子がうまくはたらいているとき(左図)と遺伝子がうまくはたらなかったとき(右図)の花のようす(提供:経塚淳子さん)

こうした仕組みこそが、私たちが感じる花の美しさを支えているのかもしれません。

花を観察しに、いざ高知へ!

さて、ここまでお話を伺ってくると、外に出て実際の花を観察してみたくなりますよね。先日、高知県を訪れた際に、牧野植物園でさまざまな花を観察する機会がありました。園内には、普段あまり目にしない珍しい植物もたくさん咲いていて、思わず立ち止まってしまうほどでした。最後に、そのときに出会った花々の中から、いくつか印象に残ったものをご紹介したいと思います。

高知県立牧野植物園

牧野植物園は、日本の植物分類学の基礎を築いた植物学者・牧野富太郎博士ゆかりの地に開かれた植物園で、国内外の多様な植物を見ることができます。季節ごとに見られる植物が移り変わり、訪れるたびに新しい発見がある場所です。
牧野植物園ホームページ:https://www.makino.or.jp/

まずは、ササガニユリ(ヒガンバナ科)です。なんとも面白い“かたち”をしていますね!

牧野植物園でみかけたササガニユリ(高知県立牧野植物園にて筆者撮影)

次は、ヒゴタイ(キク科)です。綺麗な瑠璃色が特徴的です。そして、もう皆さんおわかりかと思いますが、これはたくさんの小さな花が集まった“花序”ですね。

牧野植物園でみかけたヒゴタイ(高知県立牧野植物園にて筆者撮影)

最後は、トウテイラン(オオバコ科)です。縦に段々と花をつけているようすが印象的です。

牧野植物園でみかけたトウテイラン(高知県立牧野植物園にて筆者撮影)

今回は少し珍しい花を紹介してきましたが、ぜひ、みなさんも身のまわりにある花の“かたち”に注目して、花の美しさを味わってみてください。いつも見ている花が、少しちがって見えてくるかもしれません。
このように「花のかたち」をめぐる精緻な仕組みに注目してきたのが、経塚さんの研究です。植物がどのように成長点を制御し、どのタイミングで花へと切り替わるのか、その遺伝子ネットワークの解明に大きな貢献をされました。

改めて、経塚さん、「みどりの学術賞」のご受賞、誠におめでとうございます。

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