100年天気予報、好きすぎるので本気で語ります (吉良さんと一緒に編)

前回は、私が好きすぎるYouTube番組「100年天気予報」の魅力を、思うがままに語らせていただきました。「100年天気予報」(YouTubeチャンネル「ウェザーニュース」)とは、株式会社ウェザーニューズが2025年4月より配信している気候変動番組です。

今回のブログでは、株式会社ウェザーニューズを訪問して、番組を担当されている気象予報士の吉良真由子さんに、番組の設計やそこに込める思いをお聞きしていきます。それを通して、気候変動についての科学コミュニケーションで大切なことをサイエンス、ストーリー、エンゲージメントの3つの視点で話し合いました。

株式会社ウェザーニューズにて。大勢で押しかけてしまいました。

平井 | というわけで、吉良さん、よろしくお願いします!
吉良さん | よろしくお願いします!

サイエンス | 不確実性を信頼につなげる。

平井 | まずは「サイエンス」について。番組の設計に向けて、いつもどんなリサーチをしていますか?
吉良さん | はじめに番組で取り上げるテーマを決めて、そのテーマに関する論文やプレスリリースをリサーチしています。ここで、しっかりと科学的根拠を押さえていきます。
平井 | それを元に展開を考えていくわけですね。気候変動のサイエンスを伝えるときに、意識していることを教えてもらえますか?
吉良さん | 断言できることと、推測となることを線引きして話すことを意識しています。例えば、気候では統計の話を取り上げることが多いのですが、必要に応じて「サンプル数が少ないんですけどね」など補足しながら伝えるようにしています。「ここまでは言える」「ここからは推測」という線引きしながら、誇張しすぎないように意識しています。

科学は「不確実性」を伴う営みです。しかし、それはあいまいさを放置するという意味ではありません。たとえば、気候変動についての科学的知見を評価する、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) では、研究成果を総合して、その確からしさを「確信度」や「可能性」といった尺度で示しています。
吉良さんのおっしゃるように、誇張せず、しかし根拠にもとづいて言えることは明確に伝える。この姿勢が、科学と社会をつなぐ上で重要であると私も思います。

平井 | 100年天気予報は、番組独自の分析もとてもおもしろいですよね。これって、どうやっているんですか? 
吉良さん | 気候って、気象が積み重なったものだと思うんです。ウェザーニューズは気象の会社なので、気象に関するデータはたくさんあります。それを積み重ねて分析すれば、気候のデータも出せるはずです。ウェザーニューズの強みを活かして、独自の分析をしています。
平井 | 気象の積み重ねが気候、そうですよね。独自分析で意識していることはありますか?
吉良さん | さっきの不確実性の話ともつながるんですが、信頼性と面白さのバランスを意識しています。時には「私の妄想なんですけど」と言葉を添えつつ、不確かさを意識して発信するようにしています。ただ、そもそも気象や気候を面白いものだと思っているので、その面白さが伝わるように工夫しています。

「100年天気予報 ~GWはもう真夏?~」(2025年5月2日配信)の2コマ。A:2100年の行楽地の独自予想、B:温暖化が進行してしまったシナリオと温暖化を抑制できたシナリオ。

平井 | 2100年の行楽地予想の回も、桜の開花日や雪解けの変化の傾向から予想していましたよね。思えばあの回も、信頼性と面白さのバランスが絶妙でした。
吉良さん | あとは、地球温暖化のシナリオを2つ提示するということも意識しています。2100年の行楽地予想の回でも、温暖化が進行してしまったシナリオだけでなく、温暖化を抑制できたシナリオも示しています。両方示したうえで「どっちの未来がいいか」を考えてほしくって。数日後の天気は変えられないけれど、100年後の天気は変えられる可能性があるということを感じてほしいと思っています。

不確実性を意識した丁寧な科学コミュニケーションによって信頼を築き、その信頼の上で気象や気候の面白さを味わって、未来に目を向ける。
未来館の3階常設展示フロアにあるコ・スタジオでも、「食と気候変動・生物多様性」や「自然の価値」といった地球環境問題をテーマにしたトークプログラムを実施しています。思い返すと、吉良さんがおっしゃっていたことを実践することの難しさを感じます。取材中(もちろん番組中も)、吉良さん自身が気象や気候の科学を面白がっている様子が伝わりました。技術的なポイントは上でお話いただいた通りだと思いますが、それだけでなく「自分自身が(気象や気候の)科学を楽しむ」という態度や姿勢も重要だと感じました。

ストーリー | 危機感と希望を、いろんな視点で。

平井 | 100年天気予報では本当にたくさんのテーマを取り上げていると思うのですが、これってどうやって選んでいるんですか? 
吉良さん | シーズンモノ ⇔ シーズンレス、応用生活 ⇔ 基礎科学の2軸を設定して、テーマが偏らないように意識しながら選んでいます。桜や紅葉、旬の食べ物など、季節の楽しみにリンクしたタイムリーな「シーズンモノ」を扱うこともあれば、逆に季節によらない「シーズンレス」なテーマにフォーカスする回もあります。同時に、衣替えやスポーツなど、日々の暮らしに近い「応用生活」的なテーマと、メタンガスの温室効果といった「基礎科学」的なテーマのバランスも大切です。

「100年天気予報」のテーマ選びのイメージ。

吉良さん | あとは、サポーター (ウェザーニューズでは、ユーザーをサポーターという愛称で呼んでいます) のみなさんの関心も意識しています。自然や動植物、環境、防災減災、あとはもちろん天気に関心がある方が多いので、みなさんがお好きなテーマも取り上げています!

テーマを幅広く設定するということは、それだけ幅広いフックを提供することにつながります。
サポーターのみなさん個々にも引っかかるフックは異なるでしょうし、「シーズンモノ」など時宜性をとらえたテーマを扱うことで、多くの方の関心や期待に応えることができます。
そしてこの「幅広さ」や「バランス」は、各回で組み立てられるストーリーにも同じことがいえると思っています。

平井 | 各回でのストーリーの組み立て方について考えてみたいのですが、「危機感と希望のバランス」って意識されています? 未来館に「プラネタリー・クライシス ―これからもこの地球でくらすために」という展示があって、私は調査・企画を担当していたのですが、そこで意識していたのが「危機感と希望のバランス」なんです。

未来館常設展示「プラネタリー・クライシス ―これからもこの地球でくらすために」における危機感と希望のバランス。A:フィジーにおける海面上昇やサイクロンの没入型体験、B:温暖化を抑制できたシナリオ(+1.5℃)と温暖化が進行してしまったシナリオ(+4℃)の比較、C:地球環境問題に立ち向かう方を紹介する「見てみよう! みんなのアクション」、D:国産ヒノキで作られた、展示終了後の活用を見すえた分解しやすい什器。

吉良さん | 私たちもそのバランスを大事にしています。私は「リスクに対して何とかしたい!」という意識が強くって。でも、そればかりを聞き続けてしまうと疲れてしまいます。胸が痛くなるようなこともたくさんありますからね。だから、未来のことを明るく楽しい気持ちで考えてもらう時間もつくるようにしています。

「100年天気予報」で扱われる「危機感」と「希望」のストーリー。

平井 | 明るく楽しい気持ちで考えてもらうって大切ですよね。 
吉良さん | そのために、気候危機に対してすでに頑張って取り組んでいる人たちを紹介しています。企業や社会システムとしての取り組みから個人レベルでできる取り組みまで、満遍なく紹介するようにしています。とくに個人の取り組みについては「我慢ではなく、自分も楽しめる」という視点や、そのためのストーリーづくりを意識しています。

平井 | なるほど、取り組みの主体のバランスも意識されているのですね。取り組みの内容には、気候変動に対する緩和策 (気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量を減らす対策) と適応策 (すでに生じている、あるいは将来予測される気候変動の影響による被害を回避・軽減させる対策) の大きく2つのアプローチがあると思います。そのバランスは意識されていますか?
吉良さん | そうですね。緩和と適応の両輪が大切ですものね。配信回のテーマに合わせて緩和策と適応策のどちらを紹介するか検討しています。例えば、大雨や洪水の話題のあとに「これを防ぐために節電しましょう」といった緩和策の紹介は違和感があるので適応策を紹介する、といった具合に、違和感のないストーリーを意識して紹介しています。

ストーリーには、必ず「主語」が存在します。その「主語」には、いろいろなものが当てはまります。立場や背景、経験が異なる人々だったり、国や企業などのコミュニティだったり、生き物や自然そのものだったり。そして、そのたくさんの「主語」が危機的な影響のストーリーをもっていたり、希望的な解決策のストーリーをもっていたりするわけです。
気候変動についての科学コミュニケーションにおいてテーマの多様性を意識することは、「主語」やそのストーリーの多様性を確保することにつながるのだと考えさせられました。

エンゲージメント | サポーターと共に。同じ目線で。

最後は「エンゲージメント」について。
前回も紹介したように、100年天気予報には、チャット、アンケート、リポートなどの仕掛けを通してサポーター(視聴者)が番組に積極的に参加できる仕掛けがたくさんあります。そして、それが気候変動へのエンゲージメントを後押ししています。

吉良さん | サポーターのみなさんにはいつも本当に感謝しています。番組中のチャットで「この話、前にも見たやつだ!」みたいな投稿をよく見かけます。継続的に見てくれているのが伝わってとても嬉しいですし、励みになっています。

「100年天気予報 ~幻想の光が早くなった?ホタルが語る“気候変動”~」(2025年6月20日配信)の2コマ。A:視聴者から寄せられたホタルの写真、B:地域別ホタル出現日の経年変化 (2014-2025)。

吉良さん | 番組のチャットに「積雪量が少なくなって、札幌雪祭りで使われる雪の収集場所が変わってきた」みたいなローカルな気候変動のストーリーを投稿してくれたことがありました。このようなローカルな影響は、その地域の方が一番よくご存知です。今後は、地域の市民の方々や地元の企業と一緒にローカルな気候変動のコミュニケーションにも挑戦していきたいです。

気候変動の解決のためには、ローカルにもグローバルにも「仲間づくり」が大切です。
最後に、吉良さんに一番お聞きしたかった質問を投げかけました。

平井 | 気候変動の理解や解決を目指す仲間を増やしていくために、何が大切だと思いますか?
吉良さん | 「サポーターのみなさんと同じ目線に立つ」ことです。そのためには、自分で実際にいろいろな緩和策を試してみるのも大切だと思っています。どれくらい大変なのか、習慣化させるのがどれだけ大変か、まずは自分が試すところから始めるようにしています。自分で試して、サポーターのみなさんの声を聞いて、一緒に問題を理解して、一緒に解決を目指していきたいと思っています。方法を間違えてしまうと、社会の分断につながってしまいます。そうならないために、さまざまな意見をもつ方々を巻き込みながら、一緒に対話できる場をつくっていきたいです。

「サポーターのみなさんと同じ目線に立つ」ことを強調していた吉良さん。

前回、私たち視聴者が知らない間に「情報を受け取る人」から「番組を一緒につくる人」になっているのではないか、と書かせていただきました。確かに、チャットやアンケート、リポートなどの仕掛けが面白いというのもあると思います。ですがそれ以上に、吉良さんの「サポーターのみなさんと同じ目線に立つ」という意識が、配信を通して私たちにも伝わってきているからこそ、一緒に番組をつくる文化が生まれているのだと感じました。
気候変動についての科学コミュニケーションでは、これまでお話してきたサイエンスの視点もストーリーの視点も欠かせません。でも、あえて最も大切な視点をあげるとするならば、このエンゲージメントの視点、とりわけ「仲間づくり」の意識がすべての基盤になるのではないかと思います。

おわりに | サイエンス・ストーリー・エンゲージメントの好循環

今回は、吉良さんと一緒に、サイエンス、ストーリー、エンゲージメントという3つの視点に分けて、気候変動についての科学コミュニケーションで大切なことを考えてきました。でも、吉良さんの話を聞けば聞くほど、この3つの視点は独立したものではなく、お互いに強く影響し合っているということを実感しました。

サポーターのあいだで育まれるエンゲージメントが、アンケートや季節の変化の投稿などを通して番組独自のサイエンスを支え、日本全国のストーリーが番組に集まってくるという好循環をつくっているのだと思います。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
ここまで読んでくださったあなたは、もう「サポーター」です。
私もその一員として、未来館での科学コミュニケーションを見つめ直し続けていきたいと思います。


| 参考

「ウェザーニュース」 YouTubeチャンネル「100年天気予報」 https://youtube.com/playlist?list=PLVpbvf6f1taaAOzS2aypYgN4gXQIG-HCh&si=pTRiAessZ8BaiErP

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