みなさんこんにちは!
2016年イグノーベル隊、科学コミュニケーターの石田です。
今年も日本人の先生がイグノーベル賞を受賞し、大いに盛り上がりましたね。(今年の詳しい受賞内容はこちらのブログへ→祝!日本人10年連続イグノーベル賞受賞!~股からのぞくと、世界が変わる~(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。))
このブログでは、おもしろいというイメージが強いイグノーベル賞のまた違った一面をご紹介いたします。
まずはそもそもイグノーベル賞とは?という方のために簡単に紹介します。
イグノーベル賞(Ig Nobel Prize)は、アメリカの出版社が1991年に始めたノーベル賞のパロディ。受賞条件は「人々を笑わせ、そして考えさせる」「マネができない、するべきでない」と挙げられています。ユニークな研究内容や授賞式が人気を呼び、今はハーバード大学のサンダースシアター(マイケル・サンデル教授のハーバード白熱教室で有名な場所ですね!)で授賞式が行われるほどです。
その授賞式を今年は未来館でも再現してみました。その様子はこちらのブログをご覧ください→頭がよくて、頭が悪いとは?~笑いそして考えるイグノーベル賞によせて(前編)~
イグノーベル賞の受賞内容にはこれまでに以下のようなものがあります。
- 足の匂いの原因となる化学物質の特定
- ウシの排泄物からバニラの香りの成分「バニリン」を抽出
- バナナの皮を踏んだ時の摩擦の計測
な、なんか臭そうだし、痛そう...イグノーベル賞はおもしろさが決め手なのか...
いいえ、それだけではだめなのです!人々を考えさせる賞でなければ受賞できません。
そのためには科学的で地道なプロセスがとても大事です。
ん?あまりしっくりこない?
そんなみなさんの声に応えるために、科学コミュニケーターで過去のイグノーベル賞受賞研究を再現し、深く考えてみました!
取り組んだテーマは中垣俊之先生が2008年にイグノーベル認知科学賞を受賞された「単細胞生物である粘菌が迷路を解ける」です。
主役はモジホコリという粘菌。1個だけの細胞で身体ができている単細胞生物で、顕微鏡を使わないと見えないようなとても小さな生き物 です。しかし、栄養が十分になると細胞核の分裂をくり返し細胞自体を巨大化します。この巨大化したものを変形体と呼び、別の個体と出会うごとに融合してさらに大きくなります。いつしか、人間にも見えるほどにまで。
中垣先生は粘菌に迷路を解かせてみることにしました。迷路を作り、粘菌を全体に張り巡らせます。そして、スタートとゴール地点に粘菌の餌であるオートミールを置きます。すると粘菌は見事迷路を解き、スタートとゴール地点を最短ルートで結んだのです!!
粘菌が構成する管の中には、原形質という細胞の中身が血液のように流れています。原形質には細胞にとって必要なタンパク質や栄養などが含まれているため、これらの物質をいかに効率的に巨大化した体のすみずみに送り届けるかがとても重要です。
ならば、粘菌は効率良く原形質を送り届けるルートを頭で考えているのか?そういうわけではありません。(そもそも頭はありませんしね)
からくりはとても単純です。粘菌の管には、原形質を送り届ける量が多いほど太くなり、少ないと衰えていくという基本ルールがあります。そのため、原形質を多く送り届けられるルート=餌と餌をつなぐ最短ルート、つまり迷路の正解だけが自然と残るのです。
シ、シンプル...。ですが、効率を考えるのにとても役立ちます。実は中垣先生は粘菌で2回目のイグノーベル賞を受賞しています。2010年の交通計画賞です。
交通計画賞「粘菌が最適な鉄道網を決める」
関東圏の模型を作り、主要な駅のある場所に餌を置き、粘菌を"東京駅"から出発させました。その結果、粘菌のたどった経路は、実際の関東の鉄道網とほぼ一致したのです。
粘菌のルールを抽出してできたアルゴリズムは 、電力網や避難所マップ等の最適経路シミュレーションに応用されています。
粘菌かっこよすぎるぜ!私たちも粘菌の偉大さをお客様と共有したい!ということで、科学コミュニケーターたち(石田、志水、髙橋、田代)で粘菌迷路を作ってみました。
まずは粘菌を迷路全体に広げる準備をするよ~
やってしまった!め、迷路ではなく一筆書きになっているじゃないか!え?そこから?という声が聞こえてきそうですが、上記の赤丸部分の壁の端をカッターで切り、隙間を無理矢理つくりました。ふぅ...これで一応二股ができた。
迷路の正解と不正解の一例は以下の通りです。
そして粘菌が全体に広がったのを確認し、スタートとゴールに餌を置いてスタート!
さぁ、粘菌は迷路を解けたかな?
結果は...どーん!!
?!
どういうこと?!
壁をよじ登ってショートカットしてる!
粘菌、賢すぎ!私たちの予想を超えてしもた!実験計画から外れてるがな!!
・・・取り乱して関西弁が出てしまいました。実験って難しい。粘菌の量が多かったり湿度が高すぎたりすると、壁を乗り越えることがあるそうです。実験は穴だらけではダメで、緻密に積み重ねないと結果が得られないのだなぁ、と実感しました。
また、ふと考えさせられました。「単細胞」って考えているわけでもないのに、なぜこんな賢いことができるの?(愚かさの比喩みたいに使われるのに・・・)
私たち人間は、「知性」は人間固有のもので脳によって生み出されていると思っていますが、本当でしょうか。この研究はまさに、おもしろいだけでなく、人々を考えさせる、そして科学の地道なプロセスを伝える研究なのです。
いかかでしたでしょうか、イグノーベル賞。おもしろいだけでなく、考えさせる面やきちんと研究を形作る地道さも大事なのです。
ここで大事な注意事項です。実はイグノーベル賞の研究は全てが信頼できるというわけではありません。たまに「本当にそう言っていいの?」というような研究が受賞していることもあり、まさに玉石混淆です。また、強烈な皮肉や風刺をこめて贈られることもあります。
この先イグノーベル賞はさらに盛り上がっていくことでしょう。おもしろさを楽しみつつ、科学的な価値が高い研究や、新しい視点をもたらす研究は?と、探し当ててみるのもイグノーベル賞のツウな楽しみ方なのかもしれません。
ぜひ来年も未来館と一緒にイグノーベル賞を楽しみましょう!!