「洗濯物がなぜ乾かないのか?」?

先日同僚の科学コミュニケーターが「洗濯物がなぜ乾かないのか?」と質問を投げかけてきました。どうやら梅雨の時期に、洗濯物が乾きにくかったことを思い出してのようです。しかし、ちょっと立ち止まって考えてみると「洗濯物がなぜ乾くのか?」という方が不思議ではないでしょうか。

地球上で洗濯物は乾かない??

小学校・中学校の理科で、水(H2O)には3つの状態があることを学びます。氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)。そしてH2Oは、常温常圧(例えば、25度、1気圧)では液体の水であることも、水の状態図(図1)を見ながら習います。H2Oが常温常圧で水の状態であることは、この生命に溢れる地球環境をつくる上で重要だった・・・と話は続くのですが、ここでは壮大な話から洗濯物に話を戻しましょう。

ぬれた洗濯物が乾くのは、洗濯物をぬらしている水が蒸発して空気中に逃げていくからですが、中学校の理科で習ったことを思い出すと、ちょっと首をひねってしまいます(少なくとも私はおかしいと思ったのです!) 25度1気圧で液体の水であるはずのH2Oがなぜ水蒸気になるのか?つまり地球上では洗濯物は乾かなくて当然なのではないか、ということです。しかし現実に洗濯物は乾きます。科学的な知は自然を説明するために形作られていますから、「地球上では洗濯物は乾かなくて当然だ!」と言うのは本末転倒です。では水の状態図が間違っているのでしょうか。

図1 水の状態図

地球にあって、水の状態図に無いものがあるんです!

洗濯物が乾くことも、水の状態図も、もちろん間違ってはいません。その二つをつなぎ合わせる私の解釈が間違っていました。まず「水の状態図」というのは文字通り水(H2O)の状態図であり、例えば真空の容器に水だけを入れた場合にどうなるかということを考えている、というのがポイントです。その場合には1気圧、25度では完全にH2Oは液体になるはずです。しかし洗濯物を乾かす状況はこれとは違います。それは空気の存在です。洗濯物を乾かす場合、液体の水は確かに1気圧ですが、水蒸気は1気圧ではありません。空気全体で1気圧ではありますが、そこには窒素や酸素も含まれているため、水蒸気だけの圧力は1気圧よりはずっと小さいのです。例えば、窒素0.79気圧、酸素0.2気圧、水蒸気0.01気圧といった具合です。これなら25度でも水蒸気は存在できます。

ではこのとき洗濯物の表面では何が起こっているのでしょう。液体の水(水分子)も水蒸気も絶えず動き回っています。中には水から水蒸気へ、逆に水蒸気から水の中に飛び込むものもいます。このとき1気圧の液体の水と1気圧に満たない圧力の水蒸気では、1気圧の液体の水の方が飛びだす力が強いので、全体としてみれば水の表面から水蒸気として蒸発してしまうのです。そして洗濯物のごくごく表面では、水蒸気がその温度で存在できる最大の量(飽和水蒸気量)まで水が蒸発しています。

図2 水の状態図 洗濯物バージョン

やっぱり洗濯物は簡単には乾かない!

ただこの状態では、洗濯物はよく乾きません。飽和水蒸気量まで水蒸気を含んだ空気はそれ以上水蒸気を含むことができないため、洗濯物の表面の空気は何とかして水蒸気量を下げないと、洗濯物は乾かなくなってしまうのです。水蒸気量を下げる方法は2つ考えられます。洗濯物の表面の空気が別の乾いた空気と入れ替わる方法と、水蒸気を別の空気に渡す方法です。

洗濯物の表面の空気が別の乾いた空気と入れ替わる、というのは風が吹けば起こりやすくなります。風が吹いている時の方が洗濯物は乾きやすいですよね。また洗濯物の表面の空気が水蒸気をより早く別の空気に渡すためには、周りの空気がより乾いていることと、温度が高いことが重要です。周りの空気が乾いていることが重要なのは水蒸気圧の差が水蒸気の移動の速度に関係するためです。温度が高いほど乾きやすいのは、次のように考えると分かります。もし温度が低いほど乾きやすいとするとどうなるでしょうか。水は蒸発するときに潜熱という熱を奪うため、温度は下がります。温度が低いほど乾きやすいとすると、更に水は蒸発し、更に温度が下がり、・・洗濯物は冷たくなりながら一気に乾いてしまうことになります。しかし現実にはこんなことは起こりません。ですから温度は高いほど乾きやすいのです。

さてここまでのことを踏まえると洗濯物を早く乾かすためには

1.洗濯物をできるだけ広げる(表面積を大きくする)

2.風が吹いている時に干す

3.温度が高い方がよく乾く

という3つが大事なようです。しかし本当にうまくいくかは、実験してみなければ分かりません。実験やります!乞うご期待!!

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