2012年ノーベル物理学賞 「重ねて、もつれて」?

(2012年10月14日追記。実演、始めました)

まいど!

ノーベル賞予想し隊のほんだです。

ついに、年に一度のノーベル賞週間がやってきましたね。

昨日発表された生理学医学賞では、日本人受賞者が誕生!

すっかりiPS細胞の話で、世間は持ちきりになっています。

未来館でも、さっそくスタッフが東奔西走しておりますよ。

いや-、文字通りのお祭り騒ぎです。

そして...

今日は物理学賞の発表でございました。

栄えある今年の受賞者は!!!

そして、その研究の内容とは!!

(どきどき)

(ちゃんと研究紹介できるのか、もっとどきどき)

じゃーん、こちら!

受賞者

写真:ノーベル財団
S. アロシュ(Serge Haroche、仏)
写真:ノーベル財団
D. J. ワインランド(David J. Wineland、米)

受賞理由

「for ground-breaking experimental methods that enable measuring and manipulation of individual quantum systems」

日本語にすると

「単一量子系の測定や操作を可能にするための革新的な実験的手法」

といった感じかと。

私、見事に予想をはずしました。 (リンクは削除されました)

ディミ、残念でしたね。 (リンクは削除されました)

で。

今年の受賞研究は一体どんな内容?

社会にどんな影響を与えたの?

(冷や汗が出てきました)

...ではみなさま。

先輩・天野、ブログ管理人・詫摩と遅くまで残って、分担しながらがんばりました。

長い目と穏やかな心でご覧ください。

同い年の2人

セルジュ・アロシュ博士は1944年9月11日生まれの68歳。

コレージュ・ド・フランスの教授(コレージュ・ド・フランスは同国の頂点に立つ教育機関です)。

生まれは北アフリカのモロッコ最大の都市カサブランカですが、国籍はフランス(この時代ですと、独立前ですから、フランス領ですね)。

パリの高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)を卒業して、物理学で博士号を取得。

デービット・ワインランド博士は1944年2月24日生まれの同じく68歳。

アメリカ・コロラド州ボールダーにある米国立標準技術研究所にお勤めです。ウィスコンシン州ミルウォーキーの生まれ。ハーバード大学で博士号を取得。

受賞のポイントと、「量子コンピューター」

今回受賞した2人の大きな功績は、量子コンピューターを実現する上で鍵となる技術を"実証"したことにあります(実証がポイント!)

量子コンピューターは、原子や光子などの小さい粒「量子」を使って現在のコンピューターとは比べものにならないほど早く計算できる未来のコンピューターとして、将来の活用が期待されています。

しかし、その研究には原理的な課題がありました。

量子コンピューターはあらゆる配列(計算)を同時並行で実行できるのですが、その計算結果を見ようとすると、その瞬間に配列(計算)が一つに決まってしまうのです。

見ていないときは、他の配列(計算)もとっているのに、見てしまうと、配列は一つに決まってしまう......。

一つの計算の答えは出てきますが、同時に計算していた答えはみることはできない...悔しい!

でも、その課題を解決するような原理が理論的には発見されています。

※なんだ?その原理は知りたい!と思った方!すみません。

今日の現時点ではそれを解説するのは厳しいので、この部分については今後に...。

この理論的な発見は、折しも原子レベルで物質を制御できるようになってきた時代に行われました。

つまり、理論としてたてられた原理を実証できる技術がすでに整備されつつあったのです。

そして!

実際に現象として、「量子」が蓄積したデータを失うことなく操作・計測できるようにしたのが今回ノーベル物理学賞を受賞されたワインランドとアロシェだったのです!

重ねて、もつれて?

前述の通り、とてつもない可能性を秘めたコンピュータである量子コンピューター。

その開発には、ミクロな世界で起こる不思議な現象である「量子の重ねあわせ」や「量子もつれ」の状態を操作することがかかせません。

しかし、量子は途方もないほど小さく、そして不安定なものです。

この不安定さは、相当なものです。

量子の状態を維持するためのは、周囲の環境からの影響(温度や光、電磁場)からできるだけ遮断された場所に、量子を隔離する必要があったからです。

それを、実験で可能にしてしまったことが、今回の受賞の大きな要因でした。

では、ノーベル物理学賞を受賞した2人の努力の結晶をいまここに!

アロシュ博士の手法

「光(光子)を捕らえることができる容器に、特殊な状態にした原子を通過させることで、原子とそこから出る光(光子)をもつれさせる」

というもの。

アロシュ博士は、「光を捕らえて原子と相互作用させる」ことに着目。

極低温にした鏡で作った小さい容器の中に、特殊な状態(リュードベリ状態)にした原子を通過させます。

容器の中を通過する原子から発せられるマイクロ波と、その原子本体が相互作用を起こし、量子もつれの状態を作ることに成功したのです。

ワインランド博士の手法

「装置の中に原子を捕らえ、そこに光(レーザー)を当てることで温度(状態)や量子としての特性をコントロールする」

というもの。

ワインランド博士は「原子を捕らえてコントロールする」ことに着目しました。

原子をイオン化し、電磁場をつかって装置内に固定します。

そこにレーザーを当てることで、原子固有の運動(=温度)を極限まで抑えることに成功。

こうして冷却された原子に対し、さらにレーザーを制御して当てることで量子的な「重ね合わせ」の状態にするという手法を確立しました。

2人が向かう先

両人とも、全然違う手法でチャレンジしたものの、目指した目標は同じ。

「量子」の状態をコントロールしてしまうという画期的なものでした。

この研究の先に、いったいどんな未来が描けるのでしょう。

まず一つは、「正確な時計」。

ワインランド博士のグループはイオントラップ法を使って、現在の「標準時計」となっているセシウム原子時計よりも100倍の精確さをもつ時計を作ったことでも知られています。この時計は、137億年前の宇宙の始まりから現在まで動かしたとしても、誤差はたった5秒!

次に、量子コンピュータ...と思いきや。

お二人の研究は量子コンピューターへの第一歩と紹介されていますが、「実用的な量子コンピューターの実用にはまだ時間がかかりそう」と、ワインランド博士もノーベル財団との電話インタビューで仰っています。

同僚の科学コミュニケーター志水によると、それよりも先にできそうなのがデータをためておく外部記憶装置(ストレージ)。現在主流の磁気のハードディスクなどをはるかに上回る大容量が可能になるはずです。いくつかの世界的な企業では、量子ストレージに向けた投資を始めているそうです。

さて、今日の賞は、内容が内容だっただけに、担当はみんなで頭をフル回転。

ほんだは白い煙をあげています。

そして、明日は化学賞です。

はたして誰が受賞するのか!こうご期待!!!

あ、未来館ブログもこうご期待!

ほな、またねー...(煙をあげながら)

追記(2012/10/14)

ノーベル物理学賞の実演、始めました! 開催の期間と時間については下記のリンクをご参考ください。詳しく知りたい方は、ぜひ、未来館までお越しいただき、科学コミュニケーターに質問してください!

2012年ノーベル物理学賞・化学賞に関するミニトーク開催について (リンクは削除されました)

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