もう11月。今年も残り2カ月を切りました(早いですねぇ)。
こんにちは。志水です。
未来館がある東京・お台場の街路樹もずいぶんと色づきました。
ハナミズキの鮮やかな赤や、イチョウの黄色など、東京でも秋を感じられます。
美しさのあまり、通勤途中に写真を撮っていたら、同僚の谷明洋にこそっと撮影されてしまいました(笑)。
そんなある朝、歩道に溜まった落ち葉を見て、私はふと思いました。
イチョウって、なぜこんな「へんちくりんな」かたちをしているのだろう?
たいていの葉っぱは、太い細いはあれ、楕円形に近いものがほとんど。
一方、イチョウは扇形。
うーん、どんな仕組みでこんなかたちになっているのだろう......。
うんうんとイチョウのことを考え続けていたら、イチョウ並木が美しい東京大学・本郷キャンパスに来てしまいました(ほんまかいな)。
と、いうわけで、東京大学大学院・理学系研究科で葉っぱのかたちを研究している塚谷裕一(つかや・ひろかず)先生にお話を伺いました!
お話を伺ったのは塚谷先生の研究室。
世界中から集めた、変わったかたちの植物が並んでいます。
塚谷先生いわく、
「葉っぱのかたちは、細胞の数、大きさ、かたちで決まります」
葉っぱを家に例えれば、細胞はその家をつくるレンガ。レンガがたくさんあれば大きな家になりますし、1個のレンガが大きくなれば、同じ数のレンガを使っても大きな家ができますよね。
イチョウの場合、重要なのは細胞の数なのだそう。
「細胞の数は、細胞が新たにつくられる領域で制御されます。この領域が大きいと、細胞がたくさんつくられるので、葉っぱの幅が広くなるわけです。」
図の赤い領域が、細胞が新たにつくられる領域。 つくられた細胞は矢印の方向に押し出されます。
私たちがよく知る楕円形の葉っぱでは、この領域が葉っぱの根元にあります。 葉っぱが赤ちゃんのときには、この領域も小さいため、細胞は少ししかつくられません。葉っぱがだんだんと成長すると、この領域も大きくなり、細胞もたくさんつくられるようになります。その結果、先端はとがって、だんだんと幅が広がっていくのです。
一方、イチョウの場合、この領域が葉っぱの先端にあります。楕円形の葉っぱとは逆ですね。ですから、葉っぱの根元が小さくて、葉が先端方向に成長するたびに細胞がどんどんつくられて、先端が幅広い扇形になる、というわけです。
この細胞の数を制御する仕組みは、実はまだ研究途上。具体的にどんな物質が関わっているのか、まだまだ分からないことだらけだそうです。
塚谷先生が注目しているのは、「ANGUSTIFOLIA3(AN3)タンパク質」という物質。AN3タンパク質は細胞の数を制御することが分かっています。実験によく使われる「シロイヌナズナ」という植物でこのAN3タンパク質をつくれないように遺伝子を操作すると、細胞の数が少なくなって、細長い葉っぱになるそう。そして、どうやらこのAN3タンパク質が、細胞がつくられる領域の場所を決めるのに一役買っているようなのです。
今後、葉っぱのかたちを決める仕組みが明らかになれば、狙ったかたちの葉っぱをつくることができるのでしょうか?例えば、アニメ「となりのトトロ」に出てくるような、傘にもなる大きなフキの葉っぱとか。
「残念ながら、葉っぱの大きさを変えるのはそんなに簡単ではないのです。
たとえば、葉っぱには「補償作用」というのがあります。細胞の数が減れば、葉っぱが小さくなりそうですが、それを補うように細胞1個の体積が大きくなるのです。
逆に、細胞を作り続けるように指令してみても、思ったほど葉っぱは大きくなりません。細胞の数はたくさん増えるものの、増えている間は細胞が膨らんでくれないため、結局、小さな細胞がぎっしり詰まった小さな葉っぱになってしまうのです。」
先述のシロイヌナズナでは、世界中の研究者が葉っぱを大きくしようと試みていますが、最大でも面積が3倍程度になったくらいだそうです(この試みではANTというタンパク質を含む複数のタンパク質を過剰につくらせたそうです)。
私たちの身の回りには、さまざまな葉っぱがあります。イチョウをはじめとする街路樹や、部屋を彩る観葉植物、そして食卓の野菜。よく見ると、どの葉っぱにも個性が感じられます。
塚谷先生は様々な葉っぱのかたちから、植物がどのようにして環境に適応してきたか明らかにしようとされています。
一方で、これらの葉っぱのかたちを変える研究も進んでいます。それは従来の品種改良によるものであったり、新たな遺伝子組み換え技術であったりします。これからさまざまな技術の是非が問われるかもしれません。
皆さんはどんな葉っぱがあったらいいなあ、と思いますか?