こんにちは、みどりの本田です。
内閣府「みどりの学術賞」とともにみどりの面白さ、すごさをお伝えしている最近ですが、今年の受賞者2名のうちの一人、東京農業大学名誉教授、進士 五十八(しんじ いそや)先生をご紹介します!(もう一人の受賞者、寺島一郎先生については髙橋のブログをご覧ください。) (リンクは削除されました)
進士先生は今回のみどりの学術賞だけでなく、紫綬褒賞や様々な学会での賞も受賞されています。先生の業績・経歴などはこちら。 (リンクは削除されました)
先生の知見の深さ・広さをこのブログだけお伝えするのは不可能!なぜかというと進士先生は造園学(ランドスケープ)の専門家でありながら、まちづくり、生物多様性、景観政策など、関連する幅広い分野のご研究をされているからです。
そんな魅力あふれる進士先生。実は6月20日に未来館にお招きして、サイエンティスト・トークを開催しました!トークの内容はこちらから見ることができます。
サイエンティスト・トークでのお話を少しだけご紹介しましょう。
先生のご研究の出発点は「日本庭園」の特色を追究すること。(動画では14分あたりをご覧ください。)
みなさんは、外国の庭園(フランス式庭園など)と、日本庭園のイメージの違いがありますか?日本庭園と言えば「わび・さび」などの世界を思い浮かべる人が多いでしょうか。
外国の庭園でよく見られるのは、線対称の幾何学的な配置。これに対し、日本は自然の形状を大事にしている点です。なぜそのような形状になったかというと、外国の庭園が作られた背景の多くは、神様を祀るためや、庭園の持ち主の権力を知らしめるため、などです。それに対して、日本庭園は時代にもよりますが、庭でできたものを収穫したり、遊んだり、理想の世界を創り出したり...などと、とても生活に密着した役割を担い、生活を豊かにするものでした。
日本庭園の魅力は「わび・さび」だけではないんです。
とてもダイナミックな技があります。それが「借景」です。
この公園の写真はちょっと物足りない...ですよね?
こちらが本当の写真です。
写真2の奥に見えているのは桜島です。実は桜島が主役になっている風景だったのです。
外の景色を借りてくる...それが借景。
でも借りると言っても、桜島を動かすことはできないので、先生の言葉をお借りすれば「綺麗に生けどる」ように工夫します。それが作庭家の腕と技です。
外の景色を生けどるためには、外の風景を「額ぶち」のような枠やラインでトリミングする必要があります。額ぶちは、たとえば低木を1列に植え込み、刈り込んで生垣をつくり、濃い緑の水平ラインを引いたり、外の風景を左右からはさむようにスギのような垂直線の木を植えます。そうすると、垂直・水平の「額ぶち」で外部の景観や五重塔などの風景があたかも庭園の主人公のように強調されるようになります。
(借景については、動画の26分くらいからをご覧ください)
職人たちが様々な知恵や技術を駆使して、素晴らしい風景を創り出しています。
...でも日本人の感性だけでわかる日本庭園ではこれからはダメ。海外の人にも伝えられるように日本人の感性を科学的に証明していこうとした進士先生。
日本の職人たちが生み出した美しい風景はどうやって作られたのか。
先生は日本全国の代表的な庭園のあらゆる部分を測定したり、どのような樹木が植えられているか、人は庭園のどういう部分を見ているのか、石の配置や園路の曲がり方まで調べたりしました。こんなに日本庭園を調べ尽くした人は他にいないでしょう。
先生が取材中に話してくださったことで心に残っていることがあります。
「【未来】って言うと、みんなまっすぐにしようとする。でも自然の中にまっすぐなものってないんだよ。人間の体だって美しい曲線でできている。人間にとっての最短距離は直線じゃない。曲線なんですよ。」
-人間にとっての最短距離は曲線?-
最初この言葉を聞いたとき、最短距離はやっぱり直線だろうと思いました。
でも今回、ご多忙の進士先生が東京周辺にいらっしゃる日を聞いては、打ち合わせを重ねる中で、まさに最短距離=曲線を実感しました。
おそらく進士先生がトークイベントで皆さんに伝えたい内容を、最初からストレートに私にぶつけてくださっていたら、そんなに時間はかからなかったでしょう。もしくは、また違う形でお客様に届いたかもしれません。
でも、先生は「まずは本田さんがやりたいことを教えて」とおっしゃってくれて、拙い私の言葉を聞いてくださいました。「それなら...」と先生の持っているスライドをご説明してもらって「これなんかどう?」とご提案いただいたものを、私の方で形を整える作業を何回かやらせていただきました。
ストレートではなかったからこそ、先生のお考えや信念とするところが私の心の中に染み渡っていきました。先生が言う最短距離=曲線という話が、イベントのすべてが終わってから「ストン」とわかった気がしました。
このイベントが終わったら進士先生のお話を聞けなくなってしまう。それは悲しい...また一緒に何かやらせていただきたい、という感情が湧いてきたのです。
先生の生き方そのものが曲線的で、何でもこなしてしまう百姓的で、だからこそ多くの人が進士先生の魅力を感じ、応援したくなる。それが先生の目指している生き方や社会の実現の最短距離になるのだろう、と強く思いました。
サイエンティスト・トーク「みどりでつなぐ-ひと・まち・地球」
2015年6月20日(土)14:00~15:00
日本科学未来館 3階 実験工房
参加者:40名