みなさんこんにちは! 今年の4月から未来館の科学コミュニケーターとして働いている、加藤さくらです。
私動物園に行くことが好きで、大学・大学院では動物園の来園者研究や、動物園での動物の飼育方法の勉強をしていました。毎日動物園でハイエナの行動観察をしながら、ときどき飼育場のなかに自作の遊具を入れてみたり、お肉のにおいをつけてみたり……。動物が動物園で「その種らしく生きるには?」、そもそも「その種らしい行動」ってなんだろう? といったことを考えて研究をしていました。
そんな動物好きな私が未来館で注目している、モフモフした「動(く)物」がいます。そうです、ロボットのケパランです。
ケパランは「赤ちゃん」なんです
未来館は2023年の11月に新しい常設展示を4つオープンしました。「ハロー! ロボット」「ナナイロクエスト」「老いパーク」「プラネタリー・クライシス」です。ケパランは、「ハロー! ロボット」の中に、未来館オリジナルのパートナーロボットとして誕生しました。青い(水色の?)モフモフとした毛並みおなかに「ケ」のワッペン、非常にかわいいですね。
ケパランのコンセプトは「みんなで育てる」。
ロボットを育てるってどういうことなのでしょうか? 実は未来館では、来館者のみなさんに「ロボットやケパランがパートナーになる未来ってどういうもの?」という問いを投げかけています。みなさんからいただいた意見やアイデアを踏まえて、今後ケパランに感情表現や動作を追加し、成長させていく予定です。
現在のケパランは、成長のスタート時点。みなさんの見せるうちわやぬいぐるみに反応を返してくれます。まだ「赤ちゃん」というわけですね。
そんな赤ちゃんのケパランの成長を考えるとき、私たちは改めて「パートナーロボット」という言葉の意味の広さに直面しました。そもそも「パートナー」という言葉は、人間同士で使うときも多様な関係性を指す言葉として使われています。
友だち、家族、結婚相手……。人ではありませんが、仕事上のつきあいがある他の会社のことも「パートナー企業」と言ったりしますよね。
ではケパランが将来「パートナーロボット」として成長していったら、どんなパートナーになっているでしょうか? その答えは人それぞれです。そこで、私たちはこの「ロボットがパートナーになる」未来について、改めてみなさんと考えたいと思いました。
上記のような理由から、「みんなで育てる ケパランプロジェクト」の第一弾として、来館者のみなさんにアンケートを実施しました。
テーマは、「ロボットはあなたの「パートナー」になれる?」です。
このブログではみなさんにいただいた回答を紹介します!
ロボットの友だちと、どこまで仲良くなれる?
アンケートは今年2024年7月17日~8月19日の約1ヵ月間、未来館の常設展フロア内にブースを設けて実施しました。集まった回答数は、なんと総計924枚!ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。回答者の年齢と性別は下記のとおりです。
アンケートは複数選択可のオモテ面と、イラストを描いてもらうウラ面の1枚です。まずは表面のチェックボックスの回答から見てみましょう!
チェックボックスの回答
オモテ面では、「将来、ロボットはあなたにとってどんな存在になれると思う?」という質問を立てました。チェックボックスは複数回答可で、回答結果を4つのカテゴリに分けて集計しました。カテゴリは「友だち」「家族」「子ども向け」「大人向け」の4つです。また、自由回答の項目も用意しました。すべて複数回答可にしています。
■友だち
一口に「友だち」といっても、どこまで仲が良いかには幅がありますよね。友だちカテゴリでは、上記8段階の中から、ロボットの友だちと一緒にしたいこと・できることを聞きました。
結果を見てみると、最も回答数が多いのが【毎日いっしょに遊ぶ友だち】、僅差で2位が【秘密を共有できる友だち】でした! どちらも友だちとしての親密度はかなり高そうです。特に【秘密を共有できる友だち】については、後述するイラストの回答で分かるよう、「ロボットにお悩みを相談したい!」という方が一定数いるようです。
また、「友だちにはなれない」という方も一定数います。自由回答では、「乗り物」「道具」「家電」など、作業ロボット的な発想でお答えいただいた方もいました。ロボットと聞いてどんな姿かたちをイメージするかという点も回答に影響しそうです。
■家族
家族カテゴリでも友だちカテゴリと同じように関係性を分けて質問をしてみました。最も多かったのは【いっしょにすむ家族】【ペットとしてお世話する】でした。ペットとして一緒に住む家族をイメージされた方も多かったかもしれません。
また、【いっしょに家事をする】を選ぶ方も多いです。すでに家電として活躍しているロボットのイメージがあったのではないでしょうか。逆にそれ以外の項目は数がかなり少なくなりますね。
■子ども/大人それぞれのパートナーカテゴリ
子ども、大人それぞれの立場で「パートナー」といえそうな役割についても聞いてみました。
子どもカテゴリでは【いっしょに勉強する】がもっとも多くの票を獲得しました。意外だったのは、お悩みをロボットに相談したいという方が多かったことです。
大人カテゴリでは【悩みを相談できるカウンセラー】が一番多く、大人に限らずお子さんも【悩みを相談できるカウンセラー】を選択してくれる方が少なからずいました。
私個人としてはロボットに悩み相談をして回答をもらっても、「私のこと何も知らないくせに!」と反発してしまいそうな気がしますが、多くの人がカウンセラーとしてのロボットと向き合う気持ちがあるのが意外でした。
みなさんはデータをみて意外だった点はありましたか? 続いて、ウラ面も見てみましょう!
ケパランが将来いそうな場所は?
チェックボックスでは友だちや家族の濃度について見ていきましたが、ウラ面のイラストでは主語をケパランに絞り、ケパランが将来いそうな場所やそこで何をしているのかを自由記述やイラストで記載してもらいました。たくさん回答をいただいたので、場所や役割ごとにご紹介します。
■学校
パートナー像として、学校でケパランと過ごしている様子を想像した方がたくさんいました! 同じ学校でも、先生としてのケパランや、大学の研究室サポート、少子化後の世界で生徒として一緒に学ぶケパランを想像した方も。
■病院・介護の現場
病院や介護の現場で活躍するケパランです。常設展示「老いパーク」には、すでに介護現場での実証実験が行われている見守りロボットのハナモフロルがいますが、イラストを見ると、人と流ちょうに話をしているケパランが多いです。ケパランは見守りというより声かけや励まし要員として期待されていそうです。
■宇宙へ行く
宇宙に行くケパランもいました。人が行くことができない宇宙へ行くパターンと、宇宙飛行士と一緒に行くパターンに分かれていました。実はすでにあるロボットは宇宙に行ったのですが、そのロボットのヒントが未来館にあります! ぜひ探してみてください。
■家の中でお手伝い
家で家事手伝いをするケパランです。家族カテゴリででてきた、【いっしょに家事をする】と似た役割を担っています。こちらも人間と一緒に作業するケパランと、自分で考え自分ひとりで家事をするケパランに分かれていました。今、何の家事をやるべきか、そのすべてをロボット任せにするというのはなかなか難しそうですが、家の汚れ具合を計測したり、生活用品の数を管理したりすることは得意そうですね。
ちなみにケパランは以前、ほこりと間違えて掃除しかけられた経験から、掃除道具が苦手なのです……。なのでケパランはもしかしたら掃除はお手伝いしてくれないかもしれません(笑)!
■ペット
続いてはペットのケパラン。家電ではなくペットショップに売られているケパランや、セキュリティー的な役割を背負った番犬ケパランもいます。ペットとしてのケパランを描いてくれたイラストでは、あまりおしゃべりをしていないというのも面白かったです。
■カウンセラー・話し相手
カウンセラーや話し相手になってくれるケパランはかなり多く見られました。その中でも、自分ひとりの専属として話を聞いてくれるケパランと、職場や学校などで人と人をつなぐ役割としてのケパランが活躍するパターンが目立ちました。1人の悩みを聞くAIと、2人以上の話を盛り上げるAIとはまた違ったロジックが必要そうですね。
■そのほか
ゲームセンターやカラオケに一緒に行ってくれるケパラン。一人で遊ぶのがなんとなくいやだな、というときもありますよね。そんなとき、一緒に行ってくれるパートナーとしてケパランが隣にいてくれると心強いかもしれません。
未来館にいるケパランを描いてくれた方もいます。自分(ケパラン)の説明をしたり、歩きながらツアーをしてくれています!ケパランが自己紹介ができれば、注目度もさらに高まりそうです。
存在することに意味のあるケパラン
イラストをみていく中で、なにもしない(役割を持っていない)ケパランもかなりいました。ぼーっとしていたり、暇そうにしていたり、くつろいでいたり……。場所は外や家の中、未来館など異なるものの、特になにをするわけでもないケパランを想像してくれました。
実は、このようなケパランに似たロボットのあり方が研究されています。それが「寄り添うバーチャルビーイング」という研究なのですが、今回のアンケートと通ずる部分があるので、少しだけご紹介します。
今あるロボットやAIは、その多くが人に代わって掃除をしてくれる・受付をしてくれるなど、何らかの役割を与えられて設計される現状があります。この論文では、そのような人間の代わりに「○○してくれる」存在=「doing」的エージェントと定義しています。
それに対して、何をするでもなく、ただそこにあるだけで価値のある存在を「being」的エージェントとしました。研究では過去の論文をレビューしながら、ロボットやAIがそんな「being」的存在になるには何が必要かを示唆しています。
※ここでいう「エージェント」とは、簡単に言うと「知的で自律的なふるまいをすることができるソフトウェアやロボット」のことです。言い換えると、人間に指示されたことをそのまま実行するのではなく、自分で学習したり、判断したりすることができるソフトウェアやロボット、ということができます。
図.「doing」的エージェントと「being」的なエージェント 高橋他(2023)
「being」的なエージェントとの関係性は、そのロボット自身に何か役割があるのではなく、そのロボットと一緒にいる場所やロボットと作り上げる空気感が、人間にとって大事だったり好きだったりすることなんですね。
現在でもたくさんの用途のロボットが大学や研究所などで開発研究されていますが、「being」的な価値を提供するAIやロボットとは、どんな姿でどんなコミュニケーションをとるのでしょうか?
みなさんの「特に何もしないケパラン」が描かれているイラストを見ていると、もしかしたらケパランも誰かにとって何もしないけどそっと寄り添う存在になってほしい、という期待があるのではと感じました。
みなさんにとっての「いるだけで癒される存在」「ありがたい存在」とはどんな存在でしょうか? そしてその存在はロボットで代替可能でしょうか? ぜひアンケートの結果を見ながら、考えてみてください。
いっしょにケパランを育てませんか?
というわけで、「みんなで育てる ケパランプロジェクト」第一弾のアンケート結果のまとめでした! みなさんはロボットやケパランと、どんな風に付き合っていきたいですか? また、他の人の意見を聞いて「なるほど!」と感じたことはあったでしょうか? ぜひ、アンケート結果を見ながら家族や友だちに話し合ってみてください。
ケパランの成長について、「こんなことをしてほしい!」「こんな関係性はどうだろう」というアイデアがある方は、ぜひご来館いただいたときに科学コミュニケーターに教えてくださいね。
ぜひ、私たちと一緒にケパランを育てていきましょう!
参考文献:
『心のインフラとして機能する寄り添うバーチャルビーイングの創成を目指して』(高橋他) 人工知能 38巻4 号(2023年7月)