4月14日の夜から、熊本や大分では連日地震が続いています。
倒壊した家屋、人々の避難生活の状況、物資の状況、死者数の増加、救出の様子、続く余震におびえる人々の様子......。熊本地震による影響や日々変わりゆく状況を、私たちはメディアを通じてほぼリアルタイムで知ることができます。
特にテレビニュースでは、家屋倒壊の衝撃的な映像や、人々の悲痛な胸の内を語る映像が多くあり、私たちは今起きている状況を目で見て確認し、実感することができます。
しかし、このようなニュースを見続けていると、ニュースを見ていないときでも、自分の気持ちが沈んだり、暗い気持ちになったりしていないでしょうか。
そんな状態であれば、もしかしたら"共感疲労"かもしれません。
ニュースを見続けずに、テレビのチャンネルを変えた方がいいでしょう。
"共感疲労"は他人の痛みや苦しみに共感するあまりに、自分の心が疲れてしまうことです。食欲がなくなる、不安になる、慢性疲労などの症状が出てきます。なかには腹痛、頭痛、夜眠れないなどの症状が出る人もいます。
なぜ、私たちは"共感疲労"するのでしょうか。
未来館にある常設展示「ぼくとみんなとそしてきみ-未来をつくりだすちから-」では "共感"について紹介しています。この展示では、他者に共感し、社会とのかかわりを意識する点を、人間ならではの特徴として取り上げ、それを支える脳の仕組みとともに説明しています。
"共感"とは1人だけでは起こらず、他者との関わり合いで生まれてきます。
例えば、人の指がドアに挟まっている場面を見たとき、あなたは何を感じますか?
「うわぁ...。痛そう...」
指を挟んだ本人は確実に痛い思いをしています。
それを見ていた人も、さも自分が指を挟んだかのように、「痛そう...」と感じることでしょう。
このとき、両者の脳では何が起きているのでしょうか。
なんと、両者とも脳の同じ部分(前帯状皮質)が反応しています。
実際に痛い思いをしていなくても、痛い思いをした人と同じように脳は反応しているのです。
私たち人間は、他者の痛みを共感することができるからこそ、協力したり、支え合ったりすることができます。人類が発展し、社会生活を営むためには"共感すること"はとても重要です。
しかし、現代を生きる私たちはメディアの発達により、遠くにいる人々の痛みや苦しみにも共感できるようになりました。共感疲労を起こしやすい時代を生きているとも言えます。共感自体は、すばらしい能力です。人間らしい能力ともいえるでしょう。しかし、共感するあまり、自分の日々の生活に支障が生じるようであっては、誰のためにもなりません。
疲労感に留まらず、さらにひどい症状を起こす場合もあるそうです。
では、自分や家族が、共感疲労に陥らないようにするには、どうすればいいのでしょうか。
ニュースを見すぎない(チャンネルを変える)
テレビのニュースを見ないことは現実から目を背けることではありません。テレビのニュースを消すと、必要な情報まで得られなくなると不安になるかもしれませんが、新聞やラジオ、インターネットからでも入手できないか検討してみましょう。どうしてもテレビニュースから地震の情報を収集する必要があるときは、時間を短くしたり、ニュース番組を選ぶ必要があるでしょう。
まずは、日常生活を取り戻す
今は日本中の医療従事者の方が、被災地へ向かっています。自分の心身の健康は自分で守ることも、大事です。自分が元気でいれば、復興の手助けもできるでしょう。
子どもの様子をよく観察し、ケアをする
子どもの感覚は大人とは違います。同じニュースを見ていても受け取り方、感じ方は異なります。いつもと違う様子はないか?よく観察して、ケアしてあげることが大切です。不安になるといつもよりおとなしくなってしまう場合もあれば、逆に不安を紛らわすために妙に活発になることもあります。いつもと変わらない、何も異変がない、という場合も表に出ていないだけで、大丈夫であるとは限りません。
被災者の支援は、自分の心のケアにもつながる
どうしても落ち着かない、不安がぬぐえないときは、募金や被災者支援につながる活動に参加することも、自分の心のケアにつながります。
これから被災地へ赴き、ボランティア活動をする方も共感疲労や働き過ぎで、体調を壊さないようにお気を付けください。「せっかく現地に来たから」と、「少しでも力になりたいから」と、寝る間を惜しんで活動をされる方もいると思います。自衛隊員、消防士などのプロの人は、被災者に思いやりをもちながらも、共感疲労にならないように訓練を受け、健康でいられるようにきちんと食べて、寝ています。
共感により、苦しんでいる方へ想いをはせることが、支援のモチベーションになり、復興が加速するパワーになります。
しかし、まずは自分や家族が健康でいることが大切です。これからの復興を考えていくためにも、共感疲労の可能性を頭の片隅にとどめ、意識して日常生活を送る、自分が楽しむことも大切です。
参考:
・新潟青陵大学大学院教授(心理学)の碓井真史 氏のホームページ
こころの散歩道
・日本トラウマティック・ストレス学会ホームページ