入門!錯視研究所!~数学で錯視つくってみた~

みなさん、こんにちは!科学コミュニケーターの片平です。

以前のブログで、メディアラボ17期「数理の国の錯視研究所」がオープンしていることをお知らせしました。

この展示では数学の研究によって生み出された錯視作品をご紹介しています。錯視作品を作るのに、どう数学が使われているのか。ご来場いただいた皆さんに、紹介しているうちに、ふと気がつきました。

「これって、自分でも作れるんじゃない???」

私が注目したのは、こちらの展示。

左の写真を見ると、真ん中がへこんだように見えますが、右側の横から見た写真では真ん中が出っぱっていることは一目瞭然。これは「奥行きの思い込み」を利用した作品です。

私たちは普段、2つの目でモノを見ることで奥行き、立体感を感じています。片目でモノを見た時や1つのレンズで撮影した写真を見る時には奥行きの情報が失われています。ですが、私たちは無意識のうちに平面の写真の中にも立体的な形を認識することができます。例えば下の図のように、奥行きの情報が失われた画像(赤)のように見える立体は実はさまざまな種類があるにも関わらず、私たちは普段、直角や平行な線でできた形(紫)を想像してしまいがちです。「奥行きの思い込み」を利用した錯視は、私たちの思考のクセを逆手にとって、他の形を見せることで、私たちを混乱させてしまう錯視です。

展示作品は中央が出っぱった形になっているが、その形を上手く工夫することで、「奥行きの思い込み」をおこし、写真ではへこんでいるように見せているのです。この"上手く工夫"の部分に数学が使われています。

それでは「奥行きの思い込み」を利用した作品にチャレンジです。展示のような立体の複雑な形は難しくても、平面の絵なら簡単なはず。イメージ図はこんな感じです。

床に描いた絵を上手く見せることで、まるでまっすぐに見えることができる、そんな「奥行きの思い込み」を利用した錯視作品にチャレンジです!

チャレンジ1 ~1本の線を描いてみる~

まずは、1本の線から描くことを考えます。

イメージ図はこんな感じ。

「地面に描く線の長さは本当に描きたい線や壁の部分に比べると長くなる?」

考えてみると、ここで大事なのは、「ヒトの目」の位置とそこから、線の端っこの位置を結んだ線(点線)だろうと気付きました。この点線と地面が交わる場所に描きたい線の端っこを描けば、上手く線が描けるんじゃないかな。

「ふむふむ、ということは、この交わる場所がわからないといけないな。どうやったらわかるだろう?これって点線と地面が交わる点を求めよ、っていう数学の問題みたいじゃないか、こんな風に書き加えて、計算すれば......。」と数学の問題みたいに見えるように図を書き直していきます。(数学といってますが、中学校で習うレベルですので、こわがらずについてきてください!)

かなり数学っぽくなりました。図中で描く線の長さを求めるには、直線ABとX軸が交わる点A'の座標を求めればいいのです。ここでは点A'の座標は(8,0)つまり、長さ8の線を描き、視点Bから見れば、まるで点Aにあるように見えるはずです。それでは、地面から点Aまでの長さ4の線を長さ8に引き延ばして線を描いてみましょう。こうして描いてみたのがこちら。

なるほど、平面で見ると、長さがばらばらな縞模様(左)が、折りたたんで角度を変えて見ると長さが均等な縞模様(右)に見える。だけど、う~ん、まだ「そう言われれば、そう見えるかも」の粋を出ません。

チャレンジ2 ~横方向にもずらしてみる~

均等な縞模様の絵では最初のイメージ図とはまだちょっと違いがあります。何が違うんでしょう?

イメージ図では子どもの下半身の絵は斜めになっています。なるほど、横方向についても考える必要もあるのかもしれません。考えるコトは先ほどと同じです。図は壁を正面から見たものです。まっすぐな形に見える四角形を描くためには、目の位置と四角形の角を結んだ線と地面が交わる点に角を描く必要があります。

計算は先ほどと同じ、先ほどの壁からの距離(縦方向)の計算と壁の横方向計算をすると、角の場所を求めることができます。こうして描いてみたのがこちら。

おぉ、見える、見えるぞ。まっすぐな四角(右)に見える!本当は左のような形なんです。ここにきて、ぐっと錯視っぽくなりました!

チャレンジ3 ~いろんな形をつくってみる~

四角だけじゃなくて、もっと色んな形も作れるのでは?そこが数学のすばらしいところ、同じように計算すれば、多少複雑な形でも錯視に見える作品を作ることができます。というわけで、複雑な形をはりきってつくってみたのがこちら!

おぉ、我ながらなかなかの力作!かなり錯視作品を作れる気分になってきました。作り方の詳細は最後にご紹介しますが、文字の形を点のデータの集まりに変えたものを準備し、文字の下半分だけ、地面のどこに描いたらいいのかを計算して描いています。

さて、「自分でも作れるんじゃ?」ということで、チャレンジしてきました。確かに数学で錯視を作ることができました!自分も作ってみたい!作ったもので人を楽しませたい!という方はぜひ、挑戦してみて下さい。

数学は世の中の不思議を明らかにし、新しい技術を生み出す、とっても役に立つ道具です。いつかあなたがとっても素敵なことを思いついた時、それを実現するために使う道具が数学かもしれません。何に使えるのか、数学でどんな面白いことができるか、アイデアを考えてみましょう!

以下、複雑な形を作るための詳しい説明です。上の「MIRAIKAN」を作る時にはこのような計算をしています。

「物理・数学」の記事一覧