マグロは、生き物です

あなたは、マグロが好きですか?

昨年末に未来館で来館者のみなさんと館内スタッフに聞いた「好きな魚介類アンケート」では、マグロが堂々の1位でした。(その時の様子はこちらの記事 (リンクは削除されました)をどうぞ)

「マグロ」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、トロか赤身か。寿司か刺身か。あの艶やかな赤を思い出すだけで、あーもう、よだれが湧いてきちゃうよー、という、そこのあなた!

マグロは美味しい食材であるだけでなく、生き物でもあります。

あなたは、生き物としてのマグロのこと、どれだけ知っていますか?

ということで、今回は切られる前の生き物としてのマグロを紹介していきます。

マグロは、サバ科

マグロは、スズキ目サバ科マグロ属に分類されます。(生物の分類について詳しくはこちら) (リンクは削除されました)「マグロはサバ科」と言われると、そこはかとないガッカリ感が漂うのはなぜでしょうね......。

マグロ属には、8種類がいます。

真っ先に思い浮かぶ、一般的な"THEマグロ"は、太平洋クロマグロ(日本では単にクロマグロとも言う)でしょう。
かつては大西洋にすむ大西洋クロマグロの亜種(亜種とは、少し違うけれど別種にするほどではない場合に使われます)と考えられていましたが、1990年代のミトコンドリアDNAによる研究がなされて以降、今では、太平洋にいるのは太平洋クロマグロ(学名はThunnus orientalis)、大西洋にいるのは大西洋クロマグロ(Thunnus thynnus)と、別種として扱われています。

魚屋さんで"本マグロ"として売られているのは、この2種のクロマグロです。

残るメンバーは、メバチ(バチマグロ、メバチマグロ)、キハダ(キハダマグロ)、ビンナガ(ビンチョウ、ビンナガマグロ)、ミナミマグロ(インドマグロ)、タイセイヨウマグロ、コシナガです。商品名では単にマグロと書かれていても、原材料の欄を確認すると、これらの名前が見つかるはずです。

メジマグロという名前を聞いたことのある方もいるかもしれません。メジマグロとは、マグロの幼魚を指す名称です。
マグロ漁の経験のある方曰く、およそ50~60cm以下、体重20kg以下ぐらいの1才未満の魚をメジマグロとしていたそうです。水産庁では、太平洋クロマグロの30kg以下のものは未成魚と呼んでいます。

ちなみに、カツオも英語ではtunaです。なので、ツナ缶の原材料を確認すると、マグロ類のものとカツオのものがあります。一方で、カジキマグロとも呼ばれるカジキ類は、メカジキ科やマカジキ科に分類されます。味や食感が似ていても、マグロの仲間とは遠い関係の魚です。

マグロの祖先は深海魚

2013年、DNAを使った系統解析の結果から、マグロの祖先は深海魚である可能性が高いと示されました。

400mより深い海にいたと推測されるマグロのご先祖様に転機が訪れたのは、6500万年前。白亜紀末の大量絶滅が起きた時です。この時、恐竜だけでなく、200mより浅い海にすむ大型の魚類も絶滅したことがわかっています。絶滅によって競争相手の少なくなった浅い海(生物学では"ニッチが空いた"といいます。ニッチについて詳しくはこちら (リンクは削除されました)をどうぞ)に、深海からご先祖様がやってきました。その後、だんだんと浅い海に適応した姿に進化をとげ、現在のマグロになったと考えられています。

このご先祖様、実はマグロだけの祖先ではありません。マグロを含むサバ科全体、それどころか合計15科73属232種にもおよぶさまざまな種類の祖先である、という結果が出ています。

このご先祖様がいたからこそ、今の美味しいマグロやカツオ、サバがあるのだと思うと......大きな声で「ありがとう!」と叫ばずにはいられません!

太平洋クロマグロはご近所さん

ここからは"本マグロ"としておなじみの、太平洋クロマグロのお話です。
日本からアメリカまでの大回遊で有名な太平洋クロマグロですが、その生まれはとってもご近所さん。

太平洋クロマグロの産卵場は、八重山諸島から沖縄本島にかけての海域と、隠岐諸島から能登半島にかけての海域の2カ所です。いずれも日本の排他的経済水域の中にほとんどが入るエリアです。沖縄では4月~7月、能登では6月~7月の間に産卵期がやってきます。

太平洋クロマグロの受精卵は1mmほど。ここからふ化をして満1歳になる頃には、体長は50cmを超えるほどに育ちます。しばらく日本付近で育ったのち、早いものは0歳のうちから、遅くとも2歳にはアメリカ-日本間の大回遊を始めるようです。
その後、再び産卵場に戻って産卵をはじめるのは、体重30kgを超えた3歳の頃。でも3歳で産卵を始めるのはわずかに過ぎず、ほとんどが産卵できるようになるのは5歳の頃と考えられています。産卵の主体となっているのは60kgを超えた魚たちのようです。

太平洋クロマグロは食卓だけでなく、生まれた場所も日本と縁の深い魚なのです。

そんなマグロも絶滅危惧種

2014年、太平洋クロマグロが国際自然保護連合のレッドリストの絶滅危惧Ⅱ類に引き上げられました。

この記事を書くにあたり改めてレッドリストを眺めてみたら、掲載されているのは太平洋クロマグロだけではありませんでした。
準絶滅危惧種も含めると、マグロ類8種のうち6種が、今、絶滅の心配がある状態でした。

絶滅危惧種のランクは、危機的な方から「ⅠA(いちえー)類」「ⅠB(いちびー)類」「Ⅱ類」、そして準絶滅危惧種です。

  絶滅危惧ⅠA類:ミナミマグロ

  絶滅危惧ⅠB類:大西洋クロマグロ

  絶滅危惧Ⅱ類:太平洋クロマグロ、メバチ

  準絶滅危惧種:キハダ、ビンナガ

(残る2種は、タイセイヨウマグロが「軽度懸念」、コシナガが「情報不足」です)

  

マグロ "も" 絶滅危惧種と書いたのは、冒頭で紹介した「好きな魚介類アンケート」で3位だったウナギも同様に絶滅危惧種だから。

2年前の土用の丑の日、「ウナギは、生き物です」 (リンクは削除されました)と「ウナギは、生き物です...が、食べ物でもあります」 (リンクは削除されました)を掲載しました。

毎年決まって土用の丑の日に消費のピークが来るウナギと、一年中いつでもどこでも食べられるマグロ。消費の仕方は対照的ですが、どちらも日本人は大好きで、どちらも絶滅危惧種です。

これからも美味しく食べ続けていこうとした時、マグロやウナギの生き物としての特性を知ることは大きな手助けになると思っています。

 

太平洋のマグロ類について考える委員会である「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の第13回会合が、今(2017年8月28日~9月1日まで)、韓国で開かれています。その結果が、近々報道されることでしょう。

今だけじゃなく、これからもずっと食べていきたいと思ったら、必要なことはなんでしょうか。

参考ページ

魚介類の名称のガイドラインについて 平成19年7月水産庁(PDF)
http://www.maff.go.jp/j/heya/pdf/guide_line.pdf (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

東京大学大気海洋研究所プレスリリース2013年9月5日「マグロ・カツオ・サバ類は深海からの爆発的進化で生まれた」 
http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2013/20130904.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

水産庁プレスリリース平成26年5月16日「太平洋クロマグロ産卵場調査」の結果について
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/140516.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

水産庁 太平洋クロマグロの資源・養殖管理に関する全国会議(平成29年8月8日)配布資料太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について(PDF)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/tuna/taiheiyou_kuromaguro/attach/pdf/2017zenkokukaigi-1.pdf (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

水産総合研究センター FRAニュースVol.8 特集まぐろ(PDF)
https://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/news/fnews08.pdf (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

太平洋クロマグロの回遊生態に関する研究(PDF)
https://hdl.handle.net/2261/49203 (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

IUCNレッドリスト:The IUCN Red List of Threatened Species (英語)
https://www.iucnredlist.org/ (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

水産庁プレスリリース「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第13回北小委員会」の開催について
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/170825.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

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