祝!11年連続!イグノーベル賞日本人受賞!!雌雄の役割が入れ替わった昆虫の研究

今年も日本人がイグノーベル賞を受賞しましたよ!
なんと、日本人は11年連続受賞!
お堅いイメージをもたれがちな日本ですが、オモシロ分野でも大活躍ですね!
おめでとうございます!!

今回の受賞者たちには、以下のようなプライズが贈られました!

賞金の10兆ジンバブエドル。2017年9月15日現在、0.03円相当。(ニコニコ生放送より)
謎のトロフィー。掲げている人が、主催者のMarc Abrahams氏。(ニコニコ生放送より)
ノーベル賞受賞者による手書きのゴミ、じゃなくて紙ももらえます。ペラっとした紙。全体に学芸会の雰囲気ですね。(ニコニコ生放送より)

うん、今年のイグノーベルもプライスレスな感じですね・・・。

今回、日本人が受賞したのは、生物学賞でした。その主役になったのが、こちらの生物です!

交尾するトリカヘチャタテ。(北海道大学のプレスリリースより)

写真で交尾しているこちらの昆虫、トリカヘチャタテといいます。じっくり写真を見てみてください。なんだか違和感ありませんか?
交尾の際にはオスが上に乗っている生物が多いですが、この昆虫ではそれが逆なんです。上に乗ってがっちりホールドしているのがメスで、捕らえられているのがオスです。
でも、この昆虫の凄いところはそこではありません。なんと、メスがオスに陰茎(要はオチンチン)を挿し込んでいて、オスがそれを受け入れています。そう、この昆虫では、交接器が雌雄で逆転しているんです。

ということで、今年のイグノーベル生物学賞は、以下の研究に贈られました。

「洞窟棲の昆虫で見られる、メスの陰茎とオスの膣の共進化の研究」
"Female Penis, Male Vagina and Their Correlated Evolution in a Cave Insect"
北海道大学の吉澤和徳さん、慶応義塾大学の上村佳孝さん、ブラジルのRodrigo Ferreiraさん、スイスのCharles Lienhardさんの4名の受賞です。

彼らの交尾は2~3日間に及び、メスの陰茎の根元に生えたトゲトゲが、挿し込んだ際に内側から碇のようにはたらき、抜けるのを防いでいます(痛そう・・・)。そして、陰茎の先端が開き、オスが分泌する精子を受け取るダクトのような働きをします。
もしかすると、お尻がむずむずする気がする方(主に男性諸氏)がいるかもしれませんが、たぶん、挿し込まれている箇所はそこではありません。相手は昆虫なので私たちとは体のつくりがそもそも違いますが、腸ではなくて尿道の方が近いのではないでしょうか(なおさら痛そう!)。

交尾中の交接器(赤く染められているのがメスの陰茎)。(北海道大学のプレスリリースより)

しかも、オスは精子を渡すときに、一緒に栄養になる成分もメスに一緒に渡しているようです。メスは、卵を成熟させる際にその栄養分を消費しているとのこと。交尾しているというか、三日三晩かけてじっくり搾り取られてるというか・・・。

うーん、なんといえばいいんでしょう。
面白い。面白いけど・・・ブログを書いたりイベントやったりする身にもなってほしいです!
未来館には小学生も来るんですよ!?
などとコミュニケーターの叫びはさておきまして。

イグノーベル賞は、面白いだけではなく、考えさせられるような研究に贈られる賞なのです。この研究も、下品で面白い、というだけのものではありません。
この研究の意義は、「性別ってどうしてあるんだろう」というところにあると思います。受賞した吉澤さんは、「世界中の辞書を書き換えてしまうかもしれない発見だ」とも言っています。

オスとメスがいる生物を見ると、オスだけ派手だったり(クジャクなど多くの鳥類など)、オスがケンカして勝った者だけがメスを独占したり(ライオンなど多くの哺乳類)、捧げ物をしてメスの気を引いたり(ガガンボやオドリバエなど)と、メスの獲得にがんばっているオスが多くみられます。

これは、産卵や妊娠・育児が大変なメスにとっては、良い子供を残せるように優秀なオスを相手に選んだ方が有利だから、オスはがんばらないと相手にしてもらえないのだ、という風に考えることができます。

今回のトリカヘチャタテでは、オスを逃がさず何日も捕まえておく仕組みがメスに備わっています。そして、精子を受動的に待たず、陰茎を挿入することで能動的にオスの体内から精子を獲りに行きます。この種では、繁殖相手を捕まえておくがんばりは、メスが担っているんです。

どうしてこんな逆転が起こっているのかというと、オスから精子と一緒に渡される栄養分が原因だろうと考えられています。彼らが住んでいるブラジルの洞窟は、かなり乾燥しており、栄養になるものはコウモリの糞や死骸くらい、という厳しい環境なのだそうです。そんな栄養の限られた環境で、卵を作る栄養源を供給しているのがオスなのであれば、オスが子孫のために使うエネルギーの割合が多くなります。するとオスも気軽に下手な鉄砲を打てなくなって、オスがじっくりメスを見定めたり、希少なオス(の栄養分)をメスが奪い合ったりする、とそういうお話です。

生物の世界では、性別そのものが役割を決めているのではなく、エネルギーの分担の度合いが役割分担を決めているのかもしれません。だとすると、性別って何なんだろうと考えさせられませんか? 

今回受賞した吉澤さんによると、世界中の辞書で、陰茎とは「体内受精を行う動物の雄の交接器」と記されているそうです。メスの陰茎を見つけたこの発見は、世界中の辞書に書き換えを迫るものかもしれません。これもまた、凄いことですよね。

思わず研究の意義について語ってしまいました。
まずは、「挿れて奪う♀と挿れられる♂の昆虫」が見つかった面白さを楽しめば良いんだと思います。そのついでに、「性別ってなんだろう」ということにも、思いを馳せれば、さらに楽しめると思います。

面白くも深い研究で、見事イグノーベル賞を受賞された4名の先生方、おめでとうございます!

研究中とのことで、授賞式では洞窟で撮影されたビデオメッセージが流れました。さらっと書かれている英文の破壊力が凄い(メスはトゲトゲの陰茎で40~70時間オスを固定する)。(ニコニコ生放送より)

2017年の受賞一覧は、以下の10賞です。
物理学賞 ネコが固体であるだけでなく、液体でもあることの流体力学的研究
平和賞 アボリジニの楽器の演奏が、睡眠時無呼吸症の治療に効果的であることの証明
経済学賞 生きたワニに触る興奮が、リスクの高いギャンブルを助長するという研究
解剖学賞 男性の老人の耳が大きいことの研究(平均で10年に2mm大きくなる)
生物学賞 洞窟棲の昆虫で見られる、メスの陰茎とオスの膣の共進化の研究
流体力学賞 コーヒーを持って後ろ向きに歩くことの流体力学的研究(ふたの意義)
栄養学賞 鳥類から吸血するコウモリの、ヒトからの吸血についての研究
医学賞 fMRIを用いたチーズ嫌いのチーズへの嫌悪感についての研究
知覚賞 ほとんどの一卵生双生児は、視覚で自分たちを見分けられないことの証明
産科学賞 胎児に膣から音楽を聞かせるデバイスの開発と、その有効性の研究


明日9月16日(土)18時からゲストに栗原一貴さん(2012年イグノーベル音響学賞受賞)をお迎えして、インターネット番組ニコニコ生放送をお送りします。ぜひ、ご覧ください。https://live.nicovideo.jp/watch/lv305847439


9月18日(月・祝)までは未来館5階のコ・スタジオでミニトークも行っています。ご来館の際は、ぜひどうぞ!

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