こんにちは!科学コミュニケーターの梶井です。
日本科学未来館は、本日12月27日が2018年最後の開館日となります。
2018年は、「はやぶさ2」の小惑星Ryuguへの到着や本庶佑先生のノーベル生理学・医学賞受賞など私たちを元気づけるような科学の話題が多かった一方で、大手企業によるプラスチック製ストロー廃止や各地で起こった異常気象、大規模な通信障害など、これからの科学と社会の関係を考えさせられる出来事もいろいろありました。
来年はどんな年になるでしょうか。
私たち日本人にとっては改元が一番大きなイベントになるかと思います。その他にもアポロ11号の月面着陸から50年、ラグビーワールドカップなど大きく取り上げられそうなトピックスがありますね。
どれも要チェックですが、私にはとても楽しみにしている行事があります。
その行事とは......
「国際周期表年」
※正式名称は「国際周期表年2019(IYPT2019; International Year of the Periodic Table of Chemical Elements 2019)」
2019年はドミトリ・メンデレーエフ(1834~1907、ロシア)が、「周期律」を発見してから150周年という記念の年なのです!
※周期律とは、原子番号順(メンデレーエフの時代では原子量順)に元素を並べると、元素の性質が周期的に変化するという法則。これを一目でわかる形にしたものが「周期表」です。
国際と冠されているだけあり、日本だけで盛り上がるイベントではありません。国連とUNESCO(国際連合教育科学文化機関)によって宣言された国際的な通年行事で、1月29日にパリで開会式、12月5日に日本で閉会式が行われます。
ですが、なぜ周期表はこれほど注目されるのでしょうか?
本記事では、私が思う周期表の凄いところと、ある研究者からのメッセージを紹介します。
どうぞお付き合いください。
■ 周期表のココがすごい!
周期表のすごいところは、やはり、「この世を構成する元素の性質が一目でわかる、予測できる形になっているところ」ではないでしょうか。
少し古典的ですが、「縦の列(同族)の元素の化学的性質は似ている」などの例は有名かと思います。18族の貴ガス(希ガス)は反応しにくい、1族のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)の単体は水と激しく反応するといった、学校で必ず習うアレです。
こういった特性から、周期表は新元素の予測や超伝導体の開発などさまざまな研究に活用されてきました。
150年もの間、基本的な形を変えずに科学の最も重要なツールの1つとして使われ続けられているところは本当にすごいですね。
さらに今回は、「私たちの目に見える形で、その時代の元素への科学的理解を反映しているところ」という点も紹介します。
メンデレーエフが1869年に発表した周期表を再現したものを見てみましょう。
インジウム(In)やセリウム(Ce)などの原子量が大きく異なっていることから生じている並び間違えがあったり、族が横の行になっていて少し見づらかったりと、今の周期表を見慣れた人にとっては「なにこれ?」と思うような形です。
下図に示した1871年の改訂版になるともう少し見慣れた形になりますが、まだまだ、「なんだろうこれ?」といった感覚がありますね。
それもそのはず。当時は、電子や陽子も見つかっていない、つまり、今となっては当たり前の原子の構造(陽子、中性子からなる原子核と電子という構造)すらわかっていなかった時代です。
※ちなみに、日本の明治時代が始まったのが1868年です。
しかし、18世紀後半のアントワーヌ・ラヴォアジエの研究などによる四元素説からの脱却、19世紀初頭のジョン・ドルトンによる原子説、それまでの原子・分子への理解の統合が進められたカールスルーエ会議(1860年)など、さまざまな形での科学の積み重ねがありました。そして、ついにメンデレーエフによって、当時の科学界の財産とも呼べる上図の周期表が得られたのです。
その後もさまざまな研究によって元素の理解が深まることで周期表は姿を少しずつ変えていき、2016年11月、ニホニウム(113Nh)、モスコビウム(115Mc)、テネシン(117Ts)、オガネソン(118Og)の4元素の正式名称が認められたことで、現在の周期表の姿になりました。
こういった点から、「周期表に詰まっているのは元素の知識だけではない!周期表は私たちの目に見える形で、その時代の元素への科学的理解を反映している!」と私は強く思います。
ここまで読んでいただいた方はお気づきになったかもしれません。
「科学的な理解が進むことによって周期表が変わってきた」ということは、「周期表はこれからも変わる可能性がある」ということです。
実際にこれまでに提案された周期表の種類は1000を超えると言われています。
次に新元素が周期表に加わるとき、あるいは元素や周期律への理解が一層深まったとき、私たちが目にする周期表はいったいどんな形になるでしょう......
もしかしたら、今の周期表を見た未来の人は「なにこれ?」と言っているかもしれませんね。
■ 元素って本当に身近?
「そうは言われても、あまり身近に感じないなあ......」と思ったそこのあなた!
良かったら、冒頭の真っ白な周期表を使って、ほんの少しでも使ったことがあると思う元素に色付けしてみませんか?
水素(H)や酸素(O)、鉄(Fe)や銅(Cu)などの「身近だなあ」と感じる元素がチラホラ...... 一方で、「こんな元素どこで使われているの?」と思うようなものがたくさんありますね。
ちなみに、私の知り合いの研究者に「研究を含めて一回でも使ったことのある元素に色を付けてください」と出合い頭にお願いしたところ、以下のようになりました。
みなさんの結果と比べるといかがですか?
「研究者になるとこんなにいろいろな元素を使えるの?」
「やっぱり私たちにとってはそんなに身近じゃないなあ」
などなど、いろいろな感じ方があったかと思います。
では、次の周期表を使って、このワークの答え合わせをしてみましょう。
使用法や使用量の違いはあれど、種類だけに注目すれば、研究者と遜色ないほどいろいろな元素が身近になっていることを感じていただけるはずです。
現在、科学技術の発展に伴い、研究者だけでなく私たちも考えなくてはいけない問題がたくさんあります。そういった問題、例えばレアメタル問題や放射性物質の問題などを考える際、周期表は私たちにとっても有用なツールになります。
ぜひ、2019年は、周期表をフックにしてこれからの科学との付き合い方について考える機会を持ってみませんか?
■ 周期表にかける研究者の想い
最後に、日本の国際周期表年 実行委員会 実行委員長である玉尾皓平(たまお・こうへい)先生から皆さんへのメッセージを預かってきました!
※玉尾先生は、上記の一家に1枚元素周期表の監修者でもあります。
「周期表には、自然界に存在する約90種類の元素を発見してきた科学者たち、それら元素の性質を調べて多くの物質を作り出し豊かな文明社会を築いてきた科学者や技術者たち、さらには、人工元素の合成で極限への挑戦を続ける研究者たちのドラマが詰まっています。
私はこれまでにも、その方々への尊敬の念・感謝の念と共に科学技術全般への憧れと夢を抱く若者たちが沢山育ってくれることを願い、上記の「一家に1枚周期表」のような周期表に取り組んできました。
国際周期表年の活動でも、特に次代を担う若い人たちとその思いを共有し、科学技術の更なる発展につなげていけたらと願っています」
今回の記事はいかがでしたか?
みなさんの周期表への想いが少しでも高まっていたら本望です。
2019年は全国各地、世界各地で周期表のイベントが開催されます。
ぜひ、未来館でも科学コミュニケーターと元素周期表について語りましょう!
※2019年、未来館は1月2日(水)から開館しています。
それではみなさん、例のあのフレーズを唱えて、一緒に2018年の科学コミュニケーターブログを締めようではありませんか!
準備は良いですか? せーの!
「水兵リーベ僕の船......」
良いお年を!
【関連ページ】
・国際周期表年の公式サイト(英語です)
https://www.iypt2019.org/ (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
・日本の国際周期表年2019のサイト
https://iypt.jp/ (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
・国連の周期表年の宣言に関するIUPACのプレスリリース(英語です)
https://iupac.org/cms/wp-content/uploads/2017/12/Press-Release-International-Year-of-the-Periodic-Table_UN-Proclamation_21-December-2017.pdf (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
・国際周期表年2019の宣言に関するUNESCOのリリース(英語です)
https://en.unesco.org/news/2019-proclaimed-international-year-periodic-table-chemical-elements (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
・玉尾先生による元素周期表に関するサイエンスカフェ(文部科学省 情報ひろば、2014年)
(前編)https://www.youtube.com/watch?v=Rnm6JR0mknY (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
(後編)https://www.youtube.com/watch?v=02A8hOgzwBo (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
【参考図書】
・Eric R. Scerri 著, 渡辺正 訳. 周期表 いまも進化中. 丸善. 2013.
・Eric R. Scerri 著, 馬淵久夫; 冨田功; 古川路明; 菅野等 訳. 周期表―成り立ちと思索―. 朝倉書店. 2009.