常設展示紹介【未来逆算思考】

「ロイクラトン祭り」とあなたの思考

タイの美しいお祭り

こんにちは、タイ・バンコク出身の科学コミュニケーター、スワンモントリーです。みなさんはお祭りが好きですか? 知らない地域や海外のお祭りをちょっとみて見たいなあと思っている方もいますよね。私も日本の花火大会や桜祭りなどさまざまなお祭りに参加してきましたよ。今日はタイの美しい伝統的な祭りを紹介しましょう! 祭りの名前は「ロイクラトン」。タイの無形文化遺産です。いつから始まったのかは不明ですが、約200年前、ラーマ3世(1824-1851年)の時代の記録には残っています。

ロイクラトン祭りは毎年タイ全国で、11月ごろの満月の日、川の水が一番あふれるときに行われます。ロイクラトンはタイ語で、「ロイ」は川や池に流すこと、「クラトン」はバナナの葉などで作った入れ物のことです。それぞれの地域の信仰や風習によって異なりますが、水の利用に感謝したり、川を汚したことに対して川の女神に謝ったりするなど、さまざまな目的があります。

ロイクラトン祭り

クラトンにはさまざまな形があります。ここではバンコク人の私の経験と記憶で説明しますね。一般的にベースは丸い形で、バナナの木の断面を使います。ベースの側面には、バナナの葉を綺麗に折ったものを貼りつけていきます。その上に蘭やマリゴールドをはじめ花を飾って、蠟燭とお香を立てます(下の図をみてください)。シンプルなものもありますし、作るのに時間がかかる豪華なものもあります。祭り当日にはクラトンのコンテストのほか、花火や屋台などがあってにぎやかな雰囲気です。参加者は手作りのクラトンを持って来たり、販売しているクラトンを買ったりして、川に流します。私も学生時代にサークルの仲間と大学内のロイクラトン祭りに参加しましたが、みんなで盛り上がったことは懐かしい思い出です。

クラトン

祭りの後の驚くべき光景……!

ここまで読んだみなさんに、この祭りの雰囲気は伝わりましたか? 祭り当日はにぎやかですが、祭りの翌日には驚くような光景があります。それは……多量のゴミです。

たくさん流されたクラトンは翌日ゴミになりました! タイ自然資源・環境省によると、2018年の祭りのあと、 バンコクでは841,327個ものクラトンのゴミを拾ったそうです。そのうち5%ぐらいは発泡スチロール素材、つまり自然原料ではないものが使われていました。もちろんこのゴミの量はバンコクだけの話ですよ。全国のゴミを数えると、全部で何トンになったでしょう! この多量のゴミを始末するために、チャオプラヤー川という大きな川の片付け作業には210人のスタッフ、50台の船、10台のトラックが使われました。

環境を保全し、祭りのゴミを減らすために、「自然原料を利用したクラトンを使おう」、「ー家族につき一つのクラトンにしよう」などのキャンペーンがあります。環境に配慮するため、クラトンを流さない人もいます。また、最近は氷を使って、水に流せば溶けるクラトンを作る人もいますし、オンラインでクラトンを流す人もいます。

祭りの後のゴミ
出典:Thai PBS News (link:https://news.thaipbs.or.th/content/275875)

たった一日の祭りのため、こんなに環境に負荷がかかるのは私も気になります。では、祭りをやめるべきでしょうか? でも、文化遺産を保護するために祭りを続けたい人は賛成しないかもしれませんね。こんなもやもやした状態には、この展示です! 「未来逆算思考」!

常設展示「未来逆算思考」

「未来逆算思考」で50年後の理想の未来を考える

展示エリア3階のゲートから入るとすぐ見えるのが「未来逆算思考」。その名のとおり、未来についての思考法がテーマです。みなさんは自分が暮らす地球の未来がどうなってほしいかを考えたことがありますか? 現在私たちが暮らしている地球は、環境問題などさまざまな課題を抱えていますね。このような中長期的な課題に向き合うために、まず理想の未来を思い描いて、そこから逆算して今やるべきこと考えるというのが未来逆算思考です。この展示はただ見るではなく、ゲーム形式でこの思考方法を体験していきます。初めに、「いつまでもきれいな水を飲める地球」や「温暖化がストップした地球」など、8つの理想の地球が提案されています。その中から一つを選んで、50年後にその理想が実現するのかを見ていきます。では、中に入りましょう。

「時の流れ」

展示の中央には「時の流れ」という大きなボードがあります。ボードの手前が「現在」、奥は50年後のゴールです。みなさんにやってほしいのは、先程自分が選んだ理想の地球を50年後まで届けることです!「ええ、地球を送ればいいだよね?」いえいえ、それだけではありません。成功するか失敗するかは皆さんの送り方によります! 選んだ地球には2つのポイントがあります。「〇」で表されている「資源ポイント」と「△」で表されている「文化ポイント」です。どちらかがゼロになったら、ゲームオーバーです。「時の流れ」の中にはピカピカ動いている“障害”があります。送った地球が“障害”に当たるとポイントは減ります。え! “障害”だらけだったらどんどんポイントは減るじゃん! と思っている方、ちょっと落ち着いてください。“進歩”に当たればポイントを加算することができます。

ここで“障害”と“進歩”を詳しく見てみましょう。障害と進歩はそれぞれ2種類があります。

「時の流れ」に映される“障害”と“進歩”

では、「時の流れ」の中にある“障害”と“進歩”を確認して、現在からゴールまで地球を送るルートを考えて指で描いてください。

ルートを描く

理想の地球が50年後のゴールに届くかは、皆さんが描いたルートの計画次第です。地球を送ったあとは、自分の計画をふりかえるために、最後のコーナーでみなさんに宛てた手紙が50年後の未来から届きますので、それを開くのを忘れないでくださいね!

逆算思考法で課題と解決していく……

では、最初に紹介したロイクラトン祭りと環境負荷の話に、この未来逆算思考を活用してみましょう。たとえば“環境負荷のないロイクラトン祭り”を理想の未来としたら、何が“障害”や“進歩”になるでしょう? 先ほどの表に例を入れてみましょう。

未来に環境負荷なしのロイクラトン祭りを実現するには、分解しにくい原料はすべて禁止し、法律による規制や、市民の意識を上げるための対策が必要であることがわかりますね。さらに、市民の教育や関係機関からの情報提供も不可欠です。最近ではオンラインでクラトンを流すこともできます。ゴミを減らすひとつの方法かもしれませんが、イノベーシによって環境負荷にならない方法を見つけられるといいですね。

逆算思考を身につけたあなた

未来逆算思考は課題に向き合うための一つの手法です。皆さんは現在、身のまわりにジレンマを感じる課題がありますか? もちろん文化や資源など大きな問題だけでなく、自分の生活の中でもこの思考法が役に立つかもしれませんね。

参考文献

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