こんにちは。科学コミュニケーターの加藤木です。
今回はネジバナというお花についてご紹介します。
私は大学でネジバナの研究をしていました。ネジバナは大学構内に雑草としてたくさん生えていたので、ネジバナのサンプルを採集し放題でした。
ネジバナを採取し研究を続けるうちに、ネジバナの「かわいさ」と「したたかさ」に惚れ込んでしまいました。
こんなかわいくて、したたかな花をみたことありますか。
かわいさも、したたかさも、わからない。お花が好きなコミュニケーターなのね、もういいや。 ページ閉じちゃおう・・・とした皆さん、ちょっと待ってください。
ネジバナは、きっと皆さんが暮らす地域にも生えています。この記事を読めば、毎年ネジバナが 咲くころに、皆さんの人生が豊かになります。たぶん十中八九。
まずはネジバナの「かわいさ」に触れつつ、ネジバナとは何かをご紹介します。
ネジバナってなに?
ネジバナは、日当たりの良い草地に分布するラン科植物です。開花時の背丈は15 cm くらい。
ラン科植物とはなんでしょう。ランの仲間ということです。ランとはどんなお花でしょうか。
ランの中では、お店の開店祝いに贈答用で送られる胡蝶蘭が有名です(一鉢ウン万円するものも)。
加えてランは栽培植物としても人気で、毎年東京ドームで「世界らん展」という大規模なランの 展示会も開かれています(コロナ前は加藤木も行きました)。
一年に一度、東京ドームにランが大好きな人々が各地から大集合している訳です。
花屋さんにも大抵ランが置いてあるので覗いてみてください。花屋さんでは、胡蝶蘭や、オンシジウムをよく見かけます。
このように大人気のランの仲間でありながら、ネジバナは雑草のようにその辺に生えています。
すなわちその辺の芝生で簡単にランと会えるということです。
会いに行けるラン科植物、ネジバナ。会いに行けるアイドル、ネジバナ。最高ですね。
では、どこに行けばネジバナに会えるのでしょうか。
ネジバナはどこにいる?
ネジバナは日本では沖縄から北海道までの草地に咲いています。
同僚の科学コミュニケーターの 綾塚と増田が未来館の近くにあるお台場の公園でもネジバナが 多数咲いていたという情報を教えてくれ、実際に生息を確認しました。
また、友人が伊豆諸島にも咲いていることを報告してくれましたし、
私が北海道を旅行した時には冬にマイナス40度にもなる朱鞠内湖(しゅまりないこ)の道路脇で ネジバナを見つけました。
皆さん、おめでとうございます!本当にどんな所にも生えているようです。これでネジバナに会いに行けますね。
ではネジバナは、いつでも発見できるのでしょうか。
ネジバナはいつでも発見できるの?
・・・ごめんなさい!残念ながら花が咲いている時期以外はネジバナを見分けることが難しいかもしれません。
というのも、ネジバナが咲いている草地は、芝やネコジャラシなどもっぱらイネ科の植物(草が薄くて細長い)が一緒に生息しているのですが、ネジバナの葉は小さい上にイネ科の植物の葉にそっくりなのです。
うーん。仕方ないので、花が咲いた時期に見に行きましょうか。
開花時期はだいたい梅雨明けで、東京では6月中旬~7月が見頃です。
ただし2021年は未来館のある東京では梅雨入りが遅かったので、梅雨前に咲いていました。Twitterでは日本全国のネジバナ開花を見える化しようと、
#ネジバナリレー2021
というハッシュタグでネジバナの開花前線を作成している方がいらっしゃいます。
ぜひ覗いてみてください。
もう一つ悲報があります。ネジバナが開花する時期は、他の植物も盛んに成長する時期ですので、草地に草刈りが入る場合があります。ネジバナの開花から結実(種を作る)までは草刈りとの戦いです。皆さんも草刈りと戦いながらネジバナを見に行ってみてください。でもそれはそれで儚くて 健気でしょ。
ネジバナの「したたかさ」
毎年草刈りと戦っている(であろう)健気なネジバナ。実はとてもしたたかです。
ネジバナの種は、直径200 μm(0.2 mm)程で、肉眼で見ると砂のような感じです。構造は細胞1つに殻がついた程度で、発芽するための養分(胚乳)を持ち合わせていません。
なので、ネジバナは自力で発芽できません。じゃあどうするか。
ネジバナは菌と共に生活する
ネジバナは、発芽前から菌とともに生活することが知られています。葉や根を出す発芽の前に、 米粒ほどのプロトコームという肥大組織を作ります。プロトコームは長い部分で3000 μm(3 mm)程で種に比べるとずいぶん大きくなります。プロトコームにはある特定の菌が中に入ると確かめられており、この侵入した菌を消化して発芽のエネルギーにしている可能性が示されています。
自力で種に養分を蓄える代わりに菌を住まわせ、しかもそれをエネルギー源にしているなんてしたたかですね。
では、ネジバナが無事発芽して、葉や根を出したあとはどのように生きているのでしょう。
実はネジバナの根は太く短く、植物が生きるために必要な水分や養分を土壌から吸い取れるようなやる気のある根には見えません。
ここでも菌の登場です。
ネジバナの根(正確には根と塊根)の内部には、発芽時に侵入した菌(菌根菌)が生活しています。
ネジバナの花が咲く時期には根にいた菌の量が減ると示されており、開花時期にも菌を消化している可能性が考えられています。
ここまでのネジバナの魅力をまとめます。
・栽培植物として人気のラン科植物の仲間でありながら、その辺に生えている
・日本の各地に生息している(#ネジバナリレー2021で確認してみてください)
・発芽の時も、大きくなってからも菌とともに生活する
最後に補足として、皆さんが実際にネジバナを発見した時に楽しめるポイントをご紹介します。
ネジネジには多様性がある
ネジバナは、花がらせん状になって咲きます。花のつき方には右巻きと左巻きがあり、それぞれおおむね 1:1 の割合で存在するそうです。中にはらせん状にならず、一直線に花がついているように見えるネジバナや、巻き方の強弱が異なるネジバナもいます。花の色は、ピンク~白でこれも個体によって変わります。ネジバナの花が咲いたときは、ぜひ一つ一つじっくり眺めてみてください。ネジバナを見つめる皆さんは、原っぱにしゃがんで移動し続け、もれなく変人になれます。
ぜひ皆さんもネジバナを探して、ネジバナの成長過程に思いを馳せてみてください。
ー参考文献ー
植竹ゆかり, 小林喜六, 生越明. (1990). ネジバナ種子の共生発芽における 2 核 Rhizoctonia AG-C の侵入と菌毬形成. 菌蕈研究所研究報告, (28), 307-316.
加藤木ひとみ. (2018). 化学分析によるネジバナ(Spiranthes sinensis)と菌根菌の共生関係の解析(修士論文)
久我ゆかり. (2016). 二次イオン質量分析法による同位体イメージング: 樹脂切片を用いたラン共生プロトコーム細胞における生体元素輸送解析. 表面科学, 37(12), 604-609.
筒井澄, & 冨田正徳. (1989). ネジバナおよびコクラン共生実生の生育に及ぼす個体密度の影響. 園芸學會雜誌, 57(4), 668-673.
早川宗志, & 末次健司. (2017). ネジバナの形態変異と分類. 植調, 51(4), 115-117.
大和政秀, & 谷亀高広. (2009). ラン科植物と菌類の共生. 日本菌学会会報, 50(1), jjom-H20.