科学コミュニケーターと楽しむノーベル賞2021

科学コミュニケーター太田の推し研究~物理法則に一石を投じた?情報の存在を物理学につなげたマクスウェルの悪魔とは

日本科学未来館では今年もノーベル賞イベントを行います!

科学コミュニケーターと発表の瞬間を迎えよう! ノーベル○○賞
https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202110062125.html

今年のノーベル賞はどのような研究に贈られるのでしょうか。
物理学賞チームメンバーの太田が考える、今年の推し研究について聞いてみました!

物理学賞チーム 太田努

まるで悪魔のワザ?物に触らず、物の動きを変える、その正体とは

同じ温度の空気が入った2つの魔法瓶があります。この2つの魔法瓶を、熱を通さない仕切り1枚をはさんでピタッと連結させたとしましょう。さて皆さん、この状態からエネルギーを投入することなく、一方の魔法瓶の空気を冷たく、もう一方の魔法瓶の空気を熱くすることはできますか?

魔法瓶の中の空気に対し、外からエネルギーの出入りはないとする

このままだと考えづらいので、動くボールで空気を表しましょう。ボールは速く動いているもの(赤)もあれば遅く動いているもの(青)もあります。全体的に速いボールが増えていくと、その空気は熱くなることを意味します。このとき、赤いボールだけを右側へ、青いボールだけを左側へ移すことができれば成功です(左右逆でももちろん正解です)。

空気を赤いボールと青いボールに置き換えて考えます

ランダムにごちゃ混ぜになっている状態から整然とした状態を作り出すには、エネルギーを投入してなんらかの仕事をしなければなりません。これは熱力学第2法則という物理法則としても知られています。物が散らかった部屋をきれいに片付けるのはとても骨が折れますよね。それと同じです。仕事をせずに赤いボールと青いボールをきれいに分けることは不可能とされています。

しかし、これに異を唱える研究者がいました。ジェームズ・クラーク・マクスウェル氏です。もし世界のことを知り尽くしている悪魔がいれば可能なのではと、1867年ごろに提唱したのが「マクスウェルの悪魔」という思考実験です。悪魔は、赤いボールと青いボールを見て、赤いボールが右に行きそうであれば仕切りの小窓をサッと開けます。反対に、青いボールが左に行きそうなときもサッと開けます。このとき、ボールに触れることはありません。もちろん、新たにエネルギーを投入することもしません。

悪魔はボールのようすを観察し、うまく仕切りを開け閉めするだけ

すると、あら不思議。悪魔によって、片方は冷たく、もう片方は熱くなってしまいました。

温度の偏りを作れてしまった

私たちの常識を覆す大変なことが起こってしまいました。悪魔すごすぎる。

なぜこれがすごいのか。エネルギーの投入なしに温度の高いところと低いところを作れるとすると、永久機関を作れるからです。たとえば、電気不要で冷暖房ができるマシンが出来てしまいます。でも、そんなことはあり得るのでしょうか?

この思考実験は、当時の物理学者に大きな議論を巻き起こした難問でした。一応の解決を見るまでに約100年。ロルフ・ランダウアー氏が1960年代に解決の糸口を提唱したことが決め手となりました。

結局、悪魔は何をやっていたのか。それは、なにも仕事をしていないようにみえた悪魔が、実は情報処理という重大な仕事をしていたということです。この悪魔の情報処理をコンピュータで行うことを考えてみましょう。扉のそばにやってきたボールの速度情報を入手して、そのデータから悪魔は扉を開けるかどうかの判断をします。速度情報はコンピュータ上のメモリに収納され、とびらの開け閉めの判断が下された後は、メモリは消去されます。そしてまた次のボールの速度情報が書き込まれるという操作がつづきますが、エネルギーの投入なしにこのようにコンピュータを動かして情報処理することはできません。したがって、熱力学第2法則で禁止されているように、空気の熱から永遠にエネルギーをとりだすようなことは、残念ながらやはり不可能みたいなのです。

一つの思考実験に長い年月を費やしてしまったように見える一方で、その道のりで得たものは大きいものでした。

太田:この話のおもしろいところは、情報という一見形がなく扱いづらいものを物理学と結びつけ、新しい研究分野の幕開けに繋がったところです。たとえばその延長線上には量子コンピュータ誕生のキッカケもあるのではと考えています。

太田は他にも、ヤキール・アハラノフ氏、デヴィッド・ボーム氏、外村彰氏によるアハラノフ=ボーム効果の予想と実証や、デイヴィッド・ドイチュ氏、ピーター・ショア氏による量子コンピューティングの理論の開拓、飯島澄男氏によるカーボンナノチューブの発見と構造決定についても話題として気になるとのことでした。今年のノーベル物理学賞はどんな研究が受賞するのか、10月5日(火)17:30からの放送でぜひ私たちと一緒にノーベル賞を楽しみましょう!

<関連リンク>
●ニコニコ生放送
10月5日(火)17:30~19:00
【物理学賞】ノーベル賞発表の瞬間をみんなで迎えよう@日本科学未来館
https://live.nicovideo.jp/watch/lv333369196
※登録等無しで即視聴可能

●Yahoo! THE PAGEの太田の記事
「実現するか?『量子コンピューター』いったい何がすごいのか」
https://news.yahoo.co.jp/articles/9117110439f3abe08fec6fd974af1d9c811ac3dc?page=1

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