みなさんは、お出かけ先でどんな楽しみ方をするのが好きですか?
例えば、日本科学未来館に行くとします。ロボット、地球環境、コンピュータ、宇宙開発......さまざまな分野の展示やアクティビティがあります。家族や友だちと一緒に体験したり、科学コミュニケーターと対話したり、あるいは一人でじっくりと考えながら見て回るなど、楽しみ方は人それぞれでしょう。ちなみに、私は一人で、夕方に体験するのが落ち着きます。
展示を見て、パネルに書かれた説明文を読むことが多いと思われがちな未来館ですが、実は別の体験方法もあります。
それは、「さわる」ことです。
このブログでは、視覚に障害があるなど、見えない・見えにくいという方の場合や、「見る」より「さわる」ほうがより楽しめるという方におすすめの展示をご紹介します!
その1:さわって知る、科学のかたち
未来館の常設展示のなかには、さわって体験できる展示物があります。主なものをご紹介します。
3F 未来をつくる
骨粗しょう症になると骨はどう変わる?
「老いパーク」の中にある「運動器の老化」では正常な骨と骨粗しょう症(骨の量が減って弱くなり、骨折しやすくなる病気)になった場合の骨の模型を展示しています。さわることで断面を比べることができます。
コンピューターの大きさ、どう変わってきた?
「量子コンピュータ・ディスコ」のラウンジにある「量子コンピュータを生んだ、計算と物理の再会ものがたり」の年表の下には、引き出しがあることをご存じですか? 実は、ここにもさわれる展示があります。この展示は、時代ごとの代表的なコンピュータの大きさと、人の大きさをレゴブロックで表現したものです。私たちの身の周りにあるコンピュータは、これまでに大きさが変わってきました。そこで、人の大きさと比べられるように、ブロックによるミニチュアで再現しているのです。
写真をご覧ください。
①ENIAC(1946年のアメリカで開発された、最も初期の電子計算機)のスケールを基準に、②System/360(1960年代)、③APPLEⅡ(1970年代)、④量子コンピュータ(2010年代から現在まで)といったコンピュータたちそれぞれの大きさの違いをさわって体験することができます。ブロックで表されるコンピュータの配置や数が時代ごとに異なります。①から③までの古典コンピュータはだんだんと小さくなってきています。
そして、展示名にもなっている量子コンピュータは、いま世界各地で開発が進められています。その装置は現在、人間よりもはるかに大きく、しかも処理装置や冷却装置など複数の異なるものを組み合わせることが必要な状態です。現在のパソコンやスマートフォンが長い年月をかけて小さくなってきたことを思い出すと、量子コンピュータも同様のステップを踏んでいくかもしれません。
5F 世界をさぐる
世界の気温の上がり方は?
「プラネタリー・クライシスーこれからもこの地球でくらすために」では、ここ150年間の世界の気温上昇のグラフを大きく展示しています。このグラフの線は木材でできており、出っ張っているので気温の変化を手で追うことができます。グラフ中のある時期から、気温の上昇は手が届かないほどの高さになります。
1つの細胞からヒトになる
「細胞たち研究開発中」では、生命の基本単位である細胞のしくみやiPS細胞などの研究について展示しています。受精卵から約32週までの胎児の大きさをさわって体感できる模型があり、ヒトがたった1つの細胞から成長することを実感できます。
その2:点字で読むノーベル賞受賞者からのメッセージ
3Fの「ノーベルQ―ノーベル賞受賞者たちからの問い」という展示では、これまでに未来館の活動に理解や協力をくださったノーベル賞受賞者たちから「来館者にいつまでも考え続けてもらいたい問い」をいただき、紹介しています。来館者に問いかけられているメッセージはさまざまです。たとえば山中伸弥氏(2012年ノーベル生理学・医学賞)は「あなたの夢はなんですか? 夢に向かって頑張っていますか?」。ムハマド・ユヌス氏(2006年平和賞)は「人類はあと100年、生き延びることができるだろうか?(できないなら、それはなぜ? できるならどのように?)」。
みなさんはどう考えますか?
ちなみに、「ノーベルQ」の展示は、2023年にアクセシビリティ面のリニューアルを行っています。この展示は、受賞者たちからの直筆メッセージが横に並んで展示される状態が長らく続いていました。これはこれで壮観だったものの、テキストは手書きと印字のみだったため、視覚障害者がその内容を知るには同行者などのサポートが必要という、アクセシビリティの面で課題がありました。
そこで、視覚に障害のある方も楽しめる工夫として、メッセージの下に点字プレートを追加で設置しました。車いすユーザーや子どもからの見やすさも考慮した高さになっています。このリニューアルにあたっては、当事者の方々に設計ワークショップにもご参加いただき、配置などにご意見をいただいて制作しました。
ちょっと解説 「点字」とは
視覚障害者が指で触れて読む文字のことです。タテ3つ・ヨコ2つの計6つの凸点(ぽつぽつ)の組み合わせで表します。見える人が使う文字(墨字といいます)には書き方のルールがいろいろとありますが、点字にもさまざまな異なるルールがありますので、この機会に紹介したいと思います。
・大きさを拡大縮小しない
墨字では文字のサイズを自由に調整できますが、点字は日本工業規格(JIS)で文字のサイズが決まっています。たとえば、点と点のタテの間隔は2.2ミリメートルから2.8ミリメートルです。ヨコの間隔は2.0ミリメートルから2.8ミリメートル。マスとマスの間隔は5.1ミリメートルから6.8ミリメートル。いずれも点の中心どうしの距離です。
・言葉の区切りに空白を入れる
英語などでは空白(スペース)を入れることで単語を区別します。これと似たことが点字の文でも行われ、文節にスペースを入れて区切ります。例えば、漢字かな交じりで「未来館に行きます。」という文の場合、点字ではすべて平仮名で「みらいかんに いきます。」と表示します。
その3:さわれるサポート展示
常設展の理解を助けるものとして、「さわれるサポート展示」もあります。館内のスタッフにお声がけいただければ、国際宇宙ステーション、小惑星探査機「はやぶさ2」、細胞模型、地球深部探査船「ちきゅう」のドリル部品などの模型を触察していただけます。
科学をさわって体験してみる
ミュージアムで体験すると聞くと、展示物や映像、解説の文を見て理解することをイメージする人が多いと思います。確かに、未来館でも見たり、読んだりして体験する割合がまだ多いです。
しかし、「見る」以外の方法を使うことで、思いもよらなかった発見をすることができるかもしれません。見える人にとっても、さわることを通じてより深く未来館の展示を理解するきっかけになればいいなと思います。
さわって体験できる展示は、ここまでに紹介したものだけではありません。また、音を聞くことで体験できるものもあります。気になるという方はぜひ、未来館公式ウェブサイトの「視覚障害がある方におすすめの展示リスト(https://www.miraikan.jst.go.jp/visit/accessibility/recommendation.html)」をご覧ください。
参考
ノーベルQ-ノーベル賞受賞者たちからの問い. https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/future/nobelq/.
常設展示「ノーベルQ」のアクセシビリティを強化. 日本科学未来館プレスリリース. https://www.miraikan.jst.go.jp/news/press/202308243096.html. 2026年3月2日最終閲覧。
日本工業規格. アクセシブルデザイン―標識, 設備及び機器への点字の適用方法, JIS 0921: 2017.