素粒子的人生論

こんにちは、紅葉も終盤、いよいよ本格的な冬を迎えようとしています。季節の移ろいを感ずるにつけて、思いを馳せるのは・・・素粒子の営み。

なにしろ素粒子は、これ以上は小さくならないところまでつきつめた、物質の一番基本となる粒々たちです。その素粒子の世界に、大きな発見が近く訪れるかもしれません。

世界最大の実験機、スイスとフランスの国境にある大型ハドロン・コライダー(LHC)は、一周27キロメートルもある素粒子の円形加速器。日本のグループも参加するこの実験は、もうかれこれ2年間分くらいのデータを集めています。

ニュースに備えて、今日はこの素粒子たちの個性をふりかえってみましょう。ここで描写されている素粒子たちの性格は、林田の勝手な妄想によるものです。

石の上にも3年、こんな表↓をながめていると、素粒子もそれぞれパーソナリティを持って迫ってくるようになります(効果には個人差があります)。

左上がクォーク人。左下はレプトン人(下図を参照)。

クォークと聞くと、強くて美しい人を思い浮かべます。レプトンは、どちらかというとエレガントで控えめな人。「あのひとはクォーク的で素敵な方で」とか「レプトニックな味のプディングでした」とか、思わず使ってしまいそうになります。

クォークとレプトンはあわせてフェルミオンと呼ばれ、地に足をつけて生活を営んでいる人のイメージ。私たちの体も地球も、私たちの知っている物質はすべてフェルミオンでできています。

例えば原子。原子の中はどうなっているかというと、原子核が真ん中に座っていて、そのまわりを電子が周回しています。

電子はレプトンの左上にあるeと書かれているひと。

原子核はさらに小さな粒々、中性子と陽子がいくつか集まってできています。そして中性子や陽子はそれぞれがクォーク3人でてきています。中性子はアップ(u)というクォークが1人と、ダウン(d)というクォークが2人で、陽子はアップが2人とダウンが1人というぐあいです。

フェルミオンの他にはボゾンがいます。ボゾンはフェルミオンの間で行き来して力を伝える粒子。素粒子間を力で引き合って、物質を構成しているのです。コミュニケーターみたいな役割をしているぶん、なんだかあっちこっちにサイドを変えて仲介しようと頑張っているひとたちを思い浮かべてしまいます。

物質を構成している素粒子は以上なのですが、図の右側には、上にバーが入った粒子が描かれています。これらは反粒子たち。もともと粒子が誕生したときに一緒に生まれた双子の片割れで、粒子と出会うと互いに消滅してエネルギーに還ってしまいます。

反粒子は粒子を鏡に映したかたわれのようなもので、左右が反対、そして電荷のプラスとマイナスも反対、でも物理的性質はほとんど一緒なのです。

クォーク的なひとたち

クォークという人種にも6種類あって、アップ(u)とダウン(d)のほかに、ストレンジ(s)チャーム(c)ボトム(b)トップ(t)。

世の中の原子核は全部アップとダウンでできているせいか、両者はクォークのなかでも凡庸なイメージ。

クォークはアップからトップへといくにつれてどんどん重たくなっていきます。重たいものほど存在しづらくすぐに軽いほうに崩壊してしまうので、現在の宇宙はほとんどアップとダウンしかないというわけです。

5番目のクォークであるボトムが発見されたのは1987年。それから最後のトップが1995年に発見されるまで18年もかかり、そのためトップは「真実の瞬間」ならぬ「真実の粒子」とよばれるくらいで、存在感がとても大きいひとのイメージがあります。

ストレンジは「かわりもの」という意味ですが、けっこう使える便利屋さんのイメージ。ストレンジを入れた原子核をつくったりして、原子核のふるまいを研究している人もいます。

ボトムは、研究者によってはビューティと呼ぶ人も。実はこのボトム、小林・益川理論を証明して2008年のノーベル物理学賞へと導きました。ボトムをつくっていた高エネルギー加速器の研究者の方にとってはビューティかもしれないけれど、やっぱり重たいので私にはどうしてもボトム(お尻)なイメージです。

と、いろいろイメージはあるのですが、大事なのは人間(素粒子)関係。

クォークの素粒子関係

クォークは一人では存在できません。いつも二人以上でひきあっています。クォーク同士をひきあっている力は実は世の中で一番強い力、その名も「強い力」といいます(実に創造性に富んだネーミングです)。

この強い力は、どれくらい強いかというと、重力の1兆倍の1兆倍の100兆倍あります。力は、実はボゾンを受け渡しして働きます。強い力を伝える粒子は、ボゾンの中でもグルーオン(g)とよばれるひと。

グルー(のり)でくっついたように仲むつまじいカップルをお見かけすることがありますが、そういうときは「グルーオンが作用中」、と表現します。

この強い力をなぜ周りの私たちが感じないかというと、この力、実は非常に短い距離にしか働かない力だからです。クォーク間のみで働く力で、原子核からは漏れ出ません。

そしてとても不思議なことに、強い力は短距離の中なら、離れれば離れるほど強くなります。クォークとクォークを無理に引きはがそうとすると、その引きはがす力で新たにクォークが生まれてしまう(!)ぐらいのエネルギーが必要なので、クォークはけっして一人では存在しません。いつも他のクォークと一緒なわけです。

さきほど陽子と中性子はクォーク3人でできているといいましたが、2人でできているカップルもいます。このカップルをメソン(あるいは中間子)といいます。陽子や中性子のような3人家族はバリオンと呼ばれます。(メソンやバリオンのようにクォークが集まってできていると、ハドロンと総称します。)

レプトンの遠距離関係

さて、グルーオンは強い力を伝えるとすると、他のボゾンにも役割があります。

フォトン(γ)は電磁力を、ZボゾンとWボゾンは弱い力を、グラビトン(G)は重力をそれぞれ伝えます。

電磁力は重力の1兆倍の1兆倍の1兆倍、弱い力は重力の1兆倍の10兆倍の強さです。重力は弱いので無視しましょう。

レプトンは強い力を感じません。でも電荷をもっていれば、電磁力を感じるのでクォークともひきあいます。電子が原子核の周りを回っていられるのも、電磁力で引き合っているからです。

電子やミューオン(μ)、タウ(τ)は電荷を持っていますが、電磁力は強い力のわずか100分の1。でも到達距離は無限。ほかの人とちょっと距離を保ちながらいい関係を築くひとたちです。電子が一番軽く、ミューオン、タオとなるにつれ重たくなります。

ところで私のあこがれは孤高の哲学者タウ氏↓。

ニュートリノは小悪魔?

レプトンの中には、電荷がなく、強い力も電磁力も感じないニュートリノ(ν)という人たちもいます。彼らの体重は量れないくらい軽く、光速に限りなく近い速さでビュンビュン飛んでいる、宇宙でもっともたくさんいる人たちです。そのわりになかなか力を感じないので、他の人に気付かれることなくすり抜けていきます。

つまりニュートリノは謎の多きひとたち。なかなか型にはまらず、ときおり問題発言をして注目されるのですが、だいたいはみんなにスルーされてしまいます。でも今年の9月には、イタリアの実験OPERAで

ニュートリノ人は光速を超えて飛んでいる!

という観測がされて大騒ぎを起こしました。真偽はまだ決着しておらず、裁判はまだ続いています。

(こんなニュートリノでも一生懸命探してあげる物理学に優しさを感じるわけです。)

素粒子関係の崩壊

さて、強い力も電磁力も感じないニュートリノですが、弱い力は感じることができます。弱い力はフェルミオン人ならみんな感じることができるのですが、ニュートリノは弱い力でしか観測できないので、どうしてもニュートリノというと弱い力が思い浮かびます。

弱い力は、素粒子たちを崩壊させます。原子核が崩壊して放射線を出すのも、重たいクォークが軽いものに化けていくのもこの弱い力が理由。カップルのメソンも弱い力のせいで不安定です。バリオンの家族が崩壊するのも弱い力のせい。

素粒子の世界もいろいろ複雑な事情があるのですね。

さてさて、これだけたくさんの素粒子がそろっている訳ですが、それでも気の合うパートナーが見つけられない人は・・・スーパーパートナーを探しましょう。

本記事最初の写真は未来館にある展示ですが、展示の下に一つボタンがあります。それを押すと・・・

素粒子それぞれにスーパーパートナーが!しかし彼らはまだ実際には見つかっていない理論上のひとたちです。大型ハドロン・コライダーで捜索中です。

スーパーパートナーについてはまた機会があればお話しいたしましょう。

ちなみに、大型ハドロン・コライダーの第一の目標は、右下にあるヒッグス(H)を発見することです。これは素粒子たちに質量を与えるボゾンで、これが見つかれば私たちに体重がある理由がわかるわけです。

楽しみですね。

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