みなさんは自然エネルギーに対してどのような印象を持っていますか? 自然エネルギーのすべてがわかる一枚の写真をご紹介しましょう。
これはソーラークッカーと呼ばれるコンロです。パラボラアンテナの形をした鏡で太陽の光を集めて、真ん中に置いた鍋を熱して調理が出来るというもので、電気やガスの無い地域を中心に実用化されていて、キャンプ用品としても売られています。カセットコンロに比べると、桁違いに大きいものになっていますが、太陽光のように薄く広く分布しているエネルギーでもたくさん集めてやることで料理に必要な高い温度をつくれることがわかります。でもこの器具は、晴れた日の屋外でしか使えなさそうです。太陽光や風力などの自然エネルギーは基本的にお天気まかせ、エネルギーをつくれる時と使いたいときが一致しないので、今の私たちの生活に役立てようと思ったら様々な工夫が必要だということもわかりますね。
そんな工夫の一つが、同じ写真に写っている太陽電池。この黒い板は、太陽の光エネルギーを電気エネルギーに換えてくれます。電気エネルギーが手に入れば、テレビや冷蔵庫を動かすことにも使えますし、電気をバッテリーに溜めておけばエネルギーが必要な時にはいつでも使うことができます。このように、自然エネルギーを利用するためには、光や風といったエネルギーを私たちが使いやすい形に変換するとともに、そのエネルギーを溜めておく科学技術が必要なのです。
しかしそもそも、現在その9割が化石燃料によって供給されている世界のエネルギー需要を、自然エネルギーだけでまかなうことなんてできるのでしょうか? そこで今回は、①薄く広く分布している自然エネルギーは地球全体でどれくらいの量なのか、そして②それらを集めて変換した場合にどれくらいの量のエネルギーがつくれるのか、について数字を出してみたいと思います。
自然エネルギーと比較すべき、世界の総エネルギー消費量の数字をまず出しておきましょう。2010年において世界全体で使用されたエネルギーの総量は、石油換算で年間120億トン(*1)、電力を表すkWhの単位では年間140兆kWhでした。2010年時点での世界人口69億人(*2)で割り算すると、1人当たり石油換算で年間1.7トン、電力量であらわすと年間2万kWh、毎秒になおすとおよそ2.3kWとなります。前回計算した日本人1人当たりの毎秒5kWという値は、世界平均のほぼ2倍ということになります。
世界の自然エネルギーの総量
それでは自然界に存在する光や風のエネルギーは、地球全体ではどれくらい存在するのでしょうか。まず、太陽光エネルギーの総量を計算してみます。
この図は全世界の地上における日照量を表しています。太陽から放出される光のエネルギーは、太陽から1億5000万km離れた地球の位置では1㎡あたり1366Wにものぼることが知られていますが、地球が球形をしていることと、上空での反射や大気による吸収の効果があることから、地上では1㎡あたり平均的にはおよそ170Wのエネルギーを受けています。この値に地球の表面積、そして1年間の時間を掛けることで、地表面が年間で受ける太陽光エネルギーの総量は、
170(W/㎡) x 509,949,000 x (km²) x 365(日/年)x24(h/日)
= 7.6x1020(Wh/年) = 76京(kWh/年)
と求まります。これは2010年に世界中で使用されたエネルギー総量のおよそ5400倍の量に相当します。
太陽光の他にも、自然エネルギーとしては、風力や水力、バイオマス、そして地熱といった種類のエネルギー源がありますが、それぞれの自然エネルギーの地球全体で得られる総量を、立方体の大きさで比較して示したのが下の図です。右端の立方体で示した世界のエネルギー消費量の大きさと比べて、自然エネルギーは地球全体ではふんだんにあることがわかります。
ちなみに、太陽光以外の自然エネルギーはみな、地熱を除いて、太陽光エネルギーが姿を変えたものです。たとえば風が吹く主な原因は、太陽光で温められる度合いが場所ごとに異なることで気圧の差が生じるからですし、また川の流れの素となる雨は、太陽光によって地上の水や海水が蒸発して一旦上空に運ばれることで生じています。さらにバイオマスは、光合成を通じて太陽光エネルギーが生物体の形で蓄えられているものです。一方、地熱エネルギーは、地球内部の岩石の持つ熱エネルギーです。
日本は自然エネルギーだけでエネルギー自給できる?
このように地球全体では膨大な量の自然エネルギーが存在することがわかりましたが、それらを集めて電力などへ変換しなければ利用することは出来ません。そこで次に、日本国内の設置可能なあらゆるところに太陽電池を敷き詰めて、また良い風の吹くところに風車を建てられるだけ建てた場合、トータルではどれくらいの量の自然エネルギーが利用できるのかを見てみましょう。
物理的に存在している自然エネルギーとしては、太陽光エネルギーが圧倒的な量を誇っていますが、発電可能量で比べると風力が主役になります。環境省の調査(*3)によって作られた風力発電ポテンシャル地図(下図)を見てください。青森や北海道、そして海岸から近い洋上の広い範囲で大きなポテンシャルがあると見積もられています。これらを合計すると最大18億6000万kWの設備容量を持つことが可能であるとしています。設備容量という新しい言葉がでてきましたが、これは“発電装置がフル稼働しているときの発電量”を表しています。実際には風は吹いたり止んだりしているので、フル回転で発電している時間の割合(施設利用率)は、20%程度でしかありません。従って、合計18.5億kWの風力発電所の年間発電量は、
18億6000万[kW] x 365[日] x 24[h/日] x 0.2 = 3兆3000億[kWh/年]
となります。
一方、太陽電池パネルによる太陽光発電は、全国では設備容量にしておよそ2億3000万kWのポテンシャルがありそうです。一戸建て住宅の屋根やマンションの屋上など、住宅だけで8000kW(*4)。その他、公共施設の外壁や屋上、工場の屋根、また耕作放棄地や使われていない土地に太陽電池を設置することを考えると、日本全土でさらに1億5000kW(*3)の可能性があると見積もられています。太陽電池の施設利用率は、全国平均で10%程度であることがわかっています。夜は当然発電できませんし、太陽電池パネルに対して斜めに光が当たっている時や、曇りの時には発電量は設備容量の値よりも下がってしまう効果によるものです。従って、2億3000万kWの設備容量をもつ太陽光発電所の年間発電量は、
2億3000万kW x 365 x 24 x 0.1 = 2000億[kWh/年]
となります。
さらに、中小水力発電、そして地熱発電の最大導入可能量としてともに設備容量1400万kWという見積りもされています(*1)。これら全て、つまり風力、太陽光、中小水力、そして地熱を合計すると、日本全体で、最大年間3兆5000億[kWh/年]程度のエネルギーを、自然エネルギーの利用によってつくり出すことが可能ということになります。2010年の1年間に日本全体で使用されたエネルギーの総量は、およそ6兆[kWh/年]。ふたつの数字を比べてみてあなたはどのように感じますか?
皆さんの多くは“やっぱり自然エネルギーだけでは足りない”と思ったかも知れません。しかし、ぜひここで思い出して頂きたいのは、前回お見せした1人当たりのエネルギー消費量の歴史です。人類は科学技術によって利用できるエネルギーを増やして豊かな生活を築いてきましたが、産業革命以降の化石エネルギー利用によるエネルギー消費量の増え方はすさまじいものです。このような加速度的な成長は、地球の資源を無分別に不可逆的に収奪することによってもたらされています。「成長の限界」を認識しなければ、壊滅的な文明の崩壊が訪れるだろうことは、これまでくり返し指摘されてきたことです。地球資源の有限性はもうはっきりと見えてきています。
“なにも気にせず電気を使えた夏は去年が最後”
そのように考えることが、私たちの未来を設計するときの大前提ではないでしょうか。
参考文献
*1:BP statistical review of world energy 2011
*2:World Population Prospects、国連
*3:「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」環境省 平成22年度 (リンクは削除されました)
*4:「太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」NEDO 2009年
after 3.11のエネルギー考 今後の予定
第3回 原子力エネルギーは中継ぎ投手?
第4回 石油はあと40年で無くなる!―オオカミ少年を信じる?
第5回 持続可能なエネルギーとは結局なに?