(2012年10月14日追記。実演、始めました)
こんばんは。
本日、ノーベル化学賞の発表がありました。私は先日、予想ブログで藤嶋先生の酸化チタンをあげましたが、今回は全く予想外の分野が受賞しました。
2012年のノーベル化学賞は 「 Gタンパク質共役受容体 」
受賞者はこの方々!!
デューク大学 ロバート・レフコウィッツ(Robert Lefkowitz)氏と
スタンフォード大学 ブライアン・コビルカ(Brian Kobilka)氏
お二人共、アメリカの大学で研究されている方で師弟関係にあるようです。
化学を勉強してきた私にとって「Gタンパク質共役受容体」という言葉は、なかなか耳にすることはなく、昨日の物理学賞の本田と同様に今日は私に白い煙がモクモクとあがっています。幸いなことに、未来館にはこれに関連した研究をしていたスタッフが数名おり、色々と教えてもらいながら私なりに一生懸命頭にたたき込んでいます。この未来館の中だけでも、数名いると言うことは、この研究分野がいかに盛んであるかの表れかもしれません。
Gタンパク質共役受容体がこれほど注目されているのは、その研究がさまざまな薬の開発につながっている点が挙げられます。このGタンパク共役受容体を研究することで、現在は治療が難しいパーキンソン病やアルツハイマー病などの治療薬も開発できるのではないかと期待されています。
受賞内容
Gタンパク質共役受容体は1つのタンパク質だけについている名前ではありません。現在知られているだけで1000種類以上もある、大きな大きなグループの総称です。このグループのメンバーは、際だった特徴があります。それは、細胞膜を縫うように、7回貫いていること(7回膜貫通型タンパク質といいます)。
今回のお二人の業績は、この構造を明らかにしたこと。レフコウィッツ博士は、このグループに共通する基本的な構造を明らかにしました。1980年のことです。そして、レフコウィッツ博士の研究室にポスドク研究員として参加していたコビルカ博士はNMR(核磁気共鳴)を使って、三次元構造を詳しく調べました。
構造が詳しく分かると、どういう良いことがあるのでしょう? そのヒントはGタンパク質共役受容体の働き方にあります。
「受容体」という名前がついていることからもわかるように、このタンパク質には何かの「受け手」です。何かが、このタンパク質にくっつくのです。それは、ホルモンだったり、神経伝達物質だったり。受容体にくっつくものはまとめて「リガンド」と呼んでいます。
受容体とリガンドの関係を、野球のグローブとボールにたとえてみましょう。先ほど書いたように、Gタンパク質共役受容体には1000種類以上の種類がありますが、それぞれボールをキャッチする部分の形が少しずつ違います。そして、それぞれの形にぴったり合うボールしか入りません。言い換えれば、グローブの形が分かればボールの形も分かります。そして、グローブ(Gタンパク質共役受容体)にぴったり合うボール(ホルモンなど)が結合すると、「ボールが来た!」ということが合図となって、細胞の中で一連の反応が始まり、その結果、血圧が上がる・アレルギー反応が起こる・光を感じるなどの刺激への反応が起きます。どの反応が起きるかは、ボールの種類=グローブの種類、つまり、グローブの形によります。
Gタンパク質共役型受容体の構造が詳細にわかれば、それに合うボールの形も推測しやすくなります。ボールが結合するのを邪魔したり、ボールのかわりにずっと結合するような物質を作ることができれば、それはGタンパク質共役受容体の働きを抑えたり、活発にする薬となる可能性があるのです。実際、現在、市販されている薬の多くはGタンパク質共役受容体に作用するものです。
あるタンパク質がGタンパク質共役受容体であるかどうかは、7回膜を貫通しているかどうかなどで判断することができます。しかし、たくさんの種類のあるこの受容体の中には、まだ機能がよくわかっていないものもあります。この中には、まだ有効な治療薬がない病気に関係したGタンパク質共役受容体もあるかもしれません。そういう意味からも、研究の進展が期待されているのです。
Gタンパク質については、1994年にアルフレッド・ギルマン博士、マーティン・ロッドベル博士がノーベル生理学医学賞を受賞しています。このときは、ボールの結合がきっかけとなって起きる細胞内の一連の反応の解明でした。2回もノーベル賞の対象研究となったのは、それだけ私たちの病気に関して明るい希望をもたらす重要な研究だからだと思います。
また、一度目は細胞内での反応についての研究であるためノーベル生理学医学賞が、今回は薬の合成とかかわりの深い、構造の解明だった点で化学賞が与えられたのではないでしょうか。
今回の化学賞の発表で化学の分野は生理学や医学にも深く関わりのある分野であることを改めて実感しました。来年のノーベル賞を予想するときまでには、より広い視点で化学賞を予想できるようにします!
なにはともあれ、ロバート・レフコウィッツ博士、ブライアン・コビルカ博士!
ノーベル化学賞受賞おめでとうございます!!
追記(2012/10/14)
ノーベル化学賞の実演、始めました! 開催の期間と時間については下記のリンクをご参考ください。
2012年ノーベル物理学賞・化学賞に関するミニトーク開催について (リンクは削除されました)
さ、ら、に、実際に手にとることができる模型として、Gタンパク質共役受容体の1つ、アデノシンA2a受容体もご用意いたしました!
(アデノシンA2a受容体:パーキンソン病治療薬の標的候補。この分子を標的とした新薬(商品名:イストラデフィリン)は、臨床試験での成果を受け、厚生労働省に申請中とのこと(10/14時点))
組み立て方や、他のタンパク質の動画もありますので、ぜひ、こちらも!
YouTube | Kawakami model demo (A2a adenosine receptor, GPCR) (リンクは削除されました)